第6話 模擬戦

「ふぅ……酷い目にあったわい」


シキは溜息を吐きながら服を着替え、ハクノを睨む。


「ごめんって。つい気持ち良くて手が止まらなかったんだ」


そんなハクノの言葉にシキの耳がピクリと動き、振り向いて問うた。


「つまりワシの毛並みがよかったということかの?」


「う、うん」


戸惑ったように答えるハクノを満更でもない様子で許す。


「ならばよい、許そうではないか」


「え?」


「己の毛並みを褒められて嬉しくない者など居らぬ」


「そういうものなの?」


「そういうものじゃ」


シキは不思議そうな顔をしたハクノをリビングまで連れて行った。



リビングに着いたシキは之布岐を呼びに行き、3人揃ったところで夜に作っておいたサンドイッチを頬張る。


「さて、今日は自分の能力を把握するために外に出るかの」


全員が食べ終わった頃を見計らいシキがそう切り出した。


「賛成」


「ボクも同じく。自分が何ができるのか知りたいし」


「なら決定じゃな」



外に出た3人は自分の装備を着け始める。


シキは打刀を腰に差し、腕輪を着ける。


ハクノはシキと色違いの腕輪を着け、ぬいぐるみのような見た目の盾を背負う。


之布岐は刀を差し、弓を持つ。


そうして3人の戦闘準備は整った。


「さて、先ずはワシとハクノじゃな」


「はーい」


前に出て、距離を取ったふたりは思い思いの構えをとる。


ハクノはボクシングのような構えをとり、対するシキは腰を浅く落とし、腕をだらりと垂らす。


ふたりはしばらく睨み合い、緊張が限界まで張り詰めた瞬間、ハクノが滑るようにシキに接近し鋭い拳を放つ。シキは自分に迫る拳をいなし、空いた腹部に掌底を撃ち込むが、それにハクノの腕が割り込んで直撃を避けた。

その後も拳戟が交錯する度に空気が振動し、大地にヒビが入る。


一見互角に見えたその闘いだったが、焦れたハクノが大振りになったのを見逃さずその一撃をいなして腕をとり引き寄せて体制が崩れた瞬間に脚を払い、受け身をとろうとしたハクノの眼前に拳を突き出して組手と言うには些か激しい戦闘が終了した。


「ぬわぁー負けたー」


「ふふんっ、お主は焦り過ぎじゃ、それに前世での格闘技のルールに縛られておる。このセカイの戦闘にルールは無いからの」


「あーそういえばそうか……ありがとね、シキさん!」


「むふん、礼には及ばぬ、その為の訓練じゃからな」


ドヤ顔で胸を張るシキに若干顔を赤くした之布岐がツッコむ。


「お前らスキル使った?」


「「あ…………」」

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