第4話 一日の終わり

之布岐しぶきー上がったぞー」


ゴーレムメットを拭き終わり、やることが無くて舟をこいでいた之布岐の耳にシキの声が届き、頭を上げるとそこには顔を上気させ、大きめのシャツのみを纏った所謂「彼シャツ」状態のシキとハクノが立っていた。


「おーい之布岐?」


「………はっ!」


ふたりの微笑ましくも何処か艶かしい姿に見蕩れていると、シキに話しかけられて正気に戻る。


「どうした?入るならさっさと行かんか」


「あ、あぁ……」


そして之布岐はよろよろと頼りない足どりでシキに教えられた風呂場に向かって歩いて行った。


「まったく……彼奴は何呆けておるのじゃ……」


「でも仕方ないよ、今のシキさんの格好えっちだもん」


「そういうもんかの……?」


「そういうもんだよ」


シキの不思議そうな声に何かわかった様な顔でハクノが答えたのであった。



「上がったぞー」


「ふむ、戻ったか」


しばらくして之布岐が風呂から戻って来るとハクノとデザートを食べていたシキが椅子に座ったまま迎える。


「では客間へ案内するぞ。着いてこい」


そう言って立ち上がったシキは、之布岐を伴い客室へ案内する。


シキに着いて行くとそこはまるで旅館の一室のような和室だった。


「ここじゃ、これからは此処で寝泊まりするがよい」


「あ、あぁ、わかった。ありがとう。しかしいいのか?こんなに立派な部屋使っても」


「構わん。だが、部屋の片付け等は自分でやるのじゃぞ?流石にそこまで面倒は見んからの」


「わかった、ありがとう」


一通り部屋の説明が終わったシキは懐から油揚げを取り出し、もきゅもきゅと食べながらリビングへと戻って行った。


シキを見送った之布岐は、シキとハクノの恰好を思い出すも、人の家故に致す事も出来ず、悶々とした夜を過ごすのであった。



所変わってリビングでは、シキがハクノを引っ張って自室へ連れて行こうとしているところであった。


「ほれ、何を躊躇っている?今はもう女同士、同じ部屋で寝るなど構わんじゃろう?」


「でも……ボクも客室でいいかな……って」


「客室は一つしか無いのじゃ。」


「う、じゃあ之布岐と一緒でもいいから……」


「駄目じゃ、年頃の男と同室等と……認める訳無かろう。それともそんなにワシと一緒の部屋は嫌かの?」


「そうじゃないけど……ってなんか既視感が……」


「ええい!まどろっこしい!いいから来るのじゃ!異論は認めん!」


「うぅ……」


ハクノはシキに担ぎ上げられ、暴れる訳にもいかず、シキの部屋まで運ばれるのだった。



「此処がワシの部屋じゃ」


「おぉー」


シキに運ばれ、着いた所はまるで高級旅館の様な豪華で窓から庭の桜の木が見える部屋だった。


「綺麗……」


窓から見える桜は月明かりに照らされ、幻想的な空間を周囲に作り出していた。


「ハクノ、布団は敷いて置いたぞ」


ハクノが桜に見蕩れている間に布団を二組敷いていたシキがハクノに話しかける。


「あぁ、うん、ありがとう。綺麗だね。部屋も、桜も」


「気に入った様で何よりじゃ。明日は早いからの。はやく寝るのじゃぞ」


「うん。……シキさんはどうするの?」


「ふふっ、月見で一杯と洒落こもうかの。お主は寝ておれ、よい子は寝る時間じゃ」


「うん……おやすみ……」


「おやすみ……ハクノ……」


目を瞑り、直ぐにすぅすぅと寝息を立て始めたハクノの頭を優しく撫でると、ハクノを起こさないように足音を消し、外に出る。


桜の近くのベンチに腰掛け、アイテムボックスから酒と盃を取り出し、肴に油揚げを齧りながら盃を傾ける。


そして徐に月を見上げ、語りかけるように言葉を漏らす。


「女神様、ワシは感謝しておるのじゃぞ……?生き返らせて頂けるだけでなく、こうして友人達とも一緒に居られる……これ程の恩はきっと、貴女のお願いを叶えることで返しましょう……」


それだけ言ったシキは盃に残った酒を飲み干し、ベンチから立ち上がり、踵を返して家に戻って行く。桜はそれを見送るように枝を揺らした。


こうして夜はふけていった。

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