第2話 お家召喚

「「「………」」」


深い森、夕日が照らす泉を三つの人影が膝を抱えて眺めていた。


本人達に自覚は無いがその身から溢れる威圧感のせいで一切動物が近寄らないため、3人の周囲のみ異様な静かさが支配していてとてもシュールな光景になっていた。


そんな沈黙を破ったのは我らが3人組の元気っ子担当のハクノであった。


「いつまで黄昏てるのさ!何か安全に夜を越せる策は無いの!?ボク野宿はヤだからね!」


「うーむ……ワシも家事はある程度出来るものの、サバイバルの知識などを兎と熊の狩り方しか無いぞ……」


「何でそんなピンポイントな知識を……。之布岐しぶきは何か無い?」


「俺にサバイバルの知識なんて求めるな……だが──」


そこで言葉を切り若干呆れた様に続ける。


「女神から貰ったマイルームを出せばいいんじゃないか?」


「あっ……」


「……も、勿論ワシもそう思っておったぞ……?」


「ダウト」


「むぅ……」


シキが若干不貞腐れた様に頬を膨らませるも直ぐにきりりと表情を引き締める。


「ではマイルームを出すでの、ふたりとも少し下がっておれ」


「大丈夫?出し方わかる?」


「大丈夫じゃ安心せい。出し方は頭の中に入っておるわ」


ハクノの心配そうな声にひらひらと手を振って返事をし、前方の少し開けた場所に手を向け軽く念じる。すると、シキが手を向けた辺りの空間が光り始め、眩しさで瞑っていた目を開けると、庭に立派な桜が生えた和風な屋敷が現れた。


かつてゲーム内で建てた自分の家そのものに満足し頷いていると後ろから感嘆の声が聞こえた。


「ほぇー、ゲームの中で見た事はあったけどやっぱり立派な桜だねぇー」


「そうだな。課金しているだけはある」


「ボクらよりずっと後に始めたのにおしゃれ装備持ってるもんね」


「ええい煩いぞお主ら!いいから早う入らんか!」


「はーい」



玄関を潜ると和風な外装に似合わぬバー風の内装が3人を迎えた。


手前にビリヤード台があり、その奥にテーブル席がある。そしてさらに奥にはカウンター席があり、全体的にこじんまりとした隠れたバーのような空間だった。


シキは奥の方へとふたりを案内し、カウンターを抜け更に奥へ行くと、少し広めなリビングに到着した。


2人をテーブルの椅子に座らせると帽子を脱ぎ、長い白髪を後ろで束ねエプロンをすると、一連の流れる様な動作に驚いているふたりに振り向き、


「今晩はワシが飯を作るでの、ふたりとも大人しく待っておれ」


そう言って慣れた手つきで調理に取り掛かる。


しばらく経ったあと、楽しそうに笑みを浮かべながら3人分の料理を運んで来たシキは


「今日は異世界に来た記念に少し奮発したのじゃ」


と嬉しそうに言った。


「うわぁ〜美味しそう!」


「少し多くないか?」


笑みを浮かべたシキに見蕩れるも、料理を見て思わずといった様子で声をあげるハクノと、呆れたように言いながらも満更でもないといった様子の之布岐。


「では、そろそろ頂くとしようかの」


「さんせーい!…あ、之布岐はメット外さないの?」


「あぁ…そうだな」


そう言いながらゴーレムメットにてをかける之布岐。


「ふわぁ…」


「ほう…」


ゴーレムメットを外した之布岐の素顔に思わず声を漏らすふたり。何せ之布岐の素顔は自他ともに認める美少女のふたりと並んで立っても恥ずかしくないほど整った顔立ちだったのだ。


「どうした?食べないのか?」


「あぁ…うん、食べるよ…食べる…」


「そうじゃな、冷めてはいかんしの」


「「「いただきます」」」


之布岐の素顔を見て高鳴った胸に疑問を抱きつつも料理を口に入れた途端にそんな疑問を忘れて食事に夢中になる少女達であった。




「ふぅ…もうたべれない…」


「流石に作りすぎたかの…」


「美味かった…」


「満足して貰えた様でなによりじゃ」


「まさかシキさんがこんなに料理が上手いとは思わなかったよ」


優しげな笑みを浮かべているシキに純粋な気持ちを伝えるハクノ。


「むふふ……これもれでぃの嗜みというやつじゃ」


「へぇー」


ドヤ顔で胸を張るシキに苦笑で答える。



「さて、飯も食ったことじゃし、風呂にするか?」


「うん!」


「あぁ……それがいいな……」


「そうじゃハクノや、一緒に入らんか?どれ、身体の洗い方を教えてやろう」

「うぇえ!?」

固まったハクノをシキが担ぎ、風呂の方へ歩いて行くのを之布岐が苦笑いで見送った。

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