544 会議は秘密裏に

 体を起こし、食堂へと向かう。


 食堂――


 そこには、


「姉さま、もぐもぐ、こちらです」

「うむ。こちらだ」

「帝、こちらです、ね」

「ひっひっひっひ、待っていたよ」


 すでに何かを食べている赤髪のアダーラ。

 体調が回復して何処か偉そうな態度も戻ってきた天人族のアヴィオール。

 何故か椅子に座らず、立って俺を待っていた魔人族のプロキオン。

 いつもの体を隠すようなローブ姿に戻っている蟲人のウェイ。


 皆の姿があった。


 俺は用意されている自分の席に座る。


 そして、すぐにうどんが運ばれてくる。


 今日のご飯はうどんのようだ。うどんか、うどんだな。小麦なら大量にあるから、うどんだよな。うどんでも仕方ない。


 ……。


 でも、うどんかぁ。


 またうどんかぁ。


 魔人族のお姉さん方は料理を覚えようと頑張ってくれているけどさ。それでも、うーん。普通に作れるのは、まだ、うどんだけみたいだしさぁ。


 猫人の料理人さんが居ないからなぁ。ご飯は、当分、うどんで固定になりそうだ。


「えーっと、では、昨日の続きを相談しましょうか」

 俺はうどんを前にして皆の顔を見る。何かの肉を噛み千切ったアダーラが頷き、プロキオンが席に着く。天人族のアヴィオールが偉そうにふんぞり返り、蟲人のウェイが頷きながら笑う。


「えーっと、大陸の種族の本拠地に攻め込むことにしました」

 俺の言葉に皆の顔が真剣なものへと変わる。

「帝よ、それは……」

 魔人族のプロキオンが皆を代表して俺に聞いてくる。


 そりゃあ、なんで今更? って思うだろうな。


「えーっと、異世界人の残りは少なく、それに合わせて人種の遺産も限られるでしょうから、です。そして、こちらには必殺の一撃があります」

 俺は赤髪のアダーラを見る。アダーラが頷きを返す。


 さて、話を続けよう。

「ゴーレムも充分な数が動くようになりました。もう異世界人は脅威ではないと思います。そして、大本を叩かなければ、この戦いは終わらないと思ったからです」

 結局さ、戦争を煽っている馬鹿を叩かない限りは……終わらないだろ。いくら兵士を殺しても……無意味とは言わないけど、後味が悪いだけで、ただただ戦争を長引かせるだけだ。


 異世界人を手引きしている姫様だか、王女様だかを打倒して、戦争どころではないようにする。そして、その背後に居るであろう神を名乗る存在を倒せば、そうすれば異世界人に仕組まれた枷――そのクビキも外れるかもしれない。自由になれるかもしれない。そうすれば、改めて交渉も出来るだろうし、共存が出来るかもしれない。


 もう、ここら辺で終わらせよう。


「御意」

 皆が俺の言葉に賛同し、頷く。


 さて、と。次の議題だ。


「えーっと、例の芋虫の目的が分かりました」

 俺の言葉に赤髪のアダーラが首を傾げる。

「目的? 姉さま、それは料理人を私から奪うことですか?」

 俺は首を横に振る。


 奪うって……。


 猫人の料理人さんは別にお前のものじゃあないだろう。それに、猫人の料理人さん、今は大陸の種族に捕まっているから、ここに居ないじゃないか。奪う以前だろ。


 ……。


「あの芋虫の目的は、この世界から魔素を奪うつもりらしいです」

 自分たちの世界のために魔素を奪う。それが芋虫の目的だ。

「魔素をです、か」

 魔人族のプロキオン、蟲人のウェイが思案顔で俺を見る。

「そうです」

「ひっひっひ、その程度、問題無いように思うよ」

 蟲人のウェイが少し考えた後でそう答える。そう、俺も問題は無いと思う。思いたい。


 だが、


「ですが、その結果、もし、魔素が枯渇すれば、この世界は滅びます」

 そうなんだよなぁ。


 何処からか魔素が生まれているならいい。だが、そうじゃあなかったら?


 奪われたら減るだけだ。減る一方だ。


 そして、魔素が枯渇したら、どうなる?


 この世界は魔素で創られた世界だ。それが無くなれば、本当に世界の終わりだ。


「この世界の何処かで魔素が生まれているとか、聞いたこと、知っていることはありませんか?」

 俺は皆を見る。皆が首を横に振っている。


 そうだよな。知らないよな。それこそ、神でもなければ分からないだろう。


 ……。


 うーん、やはり魔素を渡すのは不味い気がするなぁ。


 神を名乗る輩を倒すところまでは強力をして貰って、そこで少しの魔素をお土産に元の世界に帰って貰うのが良いか。さすがにまったく渡さないというのは……。


「えーっと、それでは渡しても問題無いと思える量の魔素をプレゼントして、お別れという方向で」

 俺の言葉に皆が頷く。これで芋虫が納得してくれたら良いけど、場合によっては芋虫の世界と戦争することになりそうだなぁ。


 資源の奪い合いによる戦争だな。


 と、俺がそんなことを考えていた時だった。

「話は全て聞かせて貰った!」

 蝶のような羽を生やした少女がばばぁーんと勢いよく俺たちの前に現れた。


 ああ、元芋虫の少女か。


「あー、えーっと、聞いていたんですか」

「聞いてたよ」

 元芋虫の少女は脳天気な顔でそんなことを言っている。


 ……。


 こいつ、好きな時に、この少女の姿に変身が出来るんじゃあないだろうか。そうじゃないと、このタイミングで現れたのが説明出来ないよな。やはり、都合良く芋虫状態と使い分けていたか……。

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