541 尋問を開始する
戦争は終わった。
とりあえず皆を連れて名も無き帝国に戻ろう。エルリターンの魔法を使い、皆を回収していく。
色々なことは名も無き帝国に戻ってからだ。
神域を経由して名も無き帝国の城へと戻る。
……。
はぁ、戻ってきた。
結局、大陸の種族の連中と異世界人には逃げられてしまったが、これは、まぁ、仕方が無いだろう。
例の魔人族の裏切り者によって全滅しかけていた味方の救出は出来たワケだし、そちらが優先だったからな。そんな中でも異世界人を二人、人種の遺産を二つ始末して、魔人族の裏切り者も捕まえることが出来たんだから上出来ではないだろうか。
うん、上出来だ。
とりあえず帝城に皆で集まるとしよう。
帝城――
魔人族のプロキオン。と、両手両足が切断され、猿ぐつわをつけられ、喋れないようにした裏切り者の少女。
全身火傷を負い、今もしゅうしゅうと煙を立てながら体を再生している蟲人のウェイ。
羽の生えた人の姿に戻り、貧血のような青い顔でふらついている天人族のアヴィオール。
一人元気で何かの肉をむさぼり食っている赤髪のアダーラ。
そして、元の芋虫の姿に戻り、何故かこの場で待機している異世界からやって来た芋虫のノア。
機人の女王は神域で門番代わりをして貰っているため、ここには居ない。鍛冶士のミルファクは鍛冶仕事の方が忙しいようだ。
というワケで、今、この帝城の、この部屋には、名も無き帝国の主要メンバーが集まっている。
まずは猫人の料理人さんの件だ。結局、猫人の料理人さんは見つからなかった。
「えーっと、何故、猫人の料理人さんを戦場に連れて行くことにしたんですか?」
そう、それなんだよな。
あの料理人さんに戦闘が出来るとは思えないし、戦場に連れて行く必要は無かったよな?
俺は赤髪のアダーラを見る。アダーラは手に持った謎の肉を口から離し、食べるのを止め、困ったような顔をする。
「姉さま、あの者が一緒に行くと言ったからなんです」
赤髪のアダーラはそんなことを言っている。
……。
俺は良く分からないという顔でもきゅもきゅと鳴いている芋虫を見る。猫人の料理人さんは、この芋虫の関係者だったからなぁ。ちょっと重要度が上がっているのです。この名も無き帝国で保護していたのに、戦場へ連れて行ったあげく、見失ったとなれば……うーん、それを自己責任だとは言えないよなぁ。
「えーっと、疑問なんですが、戦えない猫人の料理人さんがなんで戦場に居たんですか? さっきの、あの戦場はアヴィオールが囮となっていた場所なんですよね? そこに一緒に猫人の料理人さんが居たのはおかしくないですか?」
俺は蟲人のウェイと天人族のアヴィオールを見る。
「我が囮となる前線に、あのような弱き者を連れて行くものか」
天人族のアヴィオールはそっぽを向き、そんなことを言っている。
うーん。
となると、どういうことだ?
俺は蟲人のウェイを見る。
「ひっひっひ、作戦が漏れて、陣地を強襲されたからね。それでも、前線が戦場となったのは、混乱の中、皆を逃すために前線へと動いたものが多かったからだよ」
蟲人のウェイは、まずアヴィオールを見て、次に転がっている裏切り者の魔人族の少女を見る。
なるほど。
陣地を急襲されて、そこから逃げ、それでもアヴィオールを助けるために部隊を率いて動いたって感じか。
……。
となると猫人の料理人さんは陣地を急襲された時の混乱ではぐれてしまったという感じだろうな。
俺は転がっている魔人族の少女を見る。魔人族の少女は、睨むように俺を見てうー、うーと何か言いたげに呻いている。猿ぐつわを外せと言っているのかもしれない。
「えーっと、プロキオン、そいつの猿ぐつわを外してください」
「帝よ、分かりました」
魔人族のプロキオンが転がっている少女の猿ぐつわを外す。
「余所者のお前が! お前のせいで皆が、叔父様が狂った! 連中の中にはヒトモドキでは無い、本当のヒトが居るのに、逆らっても勝てる訳がないのに。私はみんなのためを思って動いているのに! お前のようななり損ないの忌み子に騙されて! 今すぐ命を絶って謝罪をしろ」
魔人族の少女が一気に捲し立てる。
……。
こいつは何を言っているんだ?
やはり、何かの人種の遺産で洗脳されているんだろうか。
というか、だ。
別に俺は、魔人族を支配して何かをしようと企んでいるワケじゃあないし、どちらかというと俺の方が巻き込まれた側だ。
何を勘違いしているんだ?
巻き込まれたのに、それでも、立場を得たから、皆のためにって思って行動してきたのに、それなのに、そんなことを言うのか。
なんなんだ、こいつ。
こいつさ、助けると言いながら、裏切って、同族を危険に、いや、魔人族だけじゃあない、四種族全員を危険な目に遭わせているんだぞ。魔人族が裏切ったということで、あの天人族の里での立場も悪くなっただろうし、まぁ、あそこは今後、こちらから関わらなければ良いだけだけど、それでも、迷惑をかぶったことには変わりない。
この名も無き帝国という四種族の集まりが無ければ、同士討ちを始めていたかもしれないな。そういった取り返しのつかないことになっていたかもしれないのにさ、良く平気でそんなことが言えるな。
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