536 魔力を構成する
「ふふふ。魔法無効化能力……魔王軍の幹部クラスなら持っていると思った。僕が予想していないと思ったか!」
ひょろっとした少年が片方の目を手で隠しながらそんなことを言っている。
あー、うん。
色々と突っ込みたいことが多すぎるけどさ、俺が言いたいのは、さっきまで逃げようか迷っていたヤツが、急に強気に出るのはなんなんだってことだ。
……。
だけど、俺は知っている。
異世界人のヤツらは追い詰めると性格が豹変したり、説得が出来そうだったのが急に敵意を剥き出しにしてきたり、みたいなことがあった。
これはさ、この偽りの異世界人を創った神とやらが設けている安全弁みたいなものなんだろうな。これがある限り、異世界人を説得しようとするのは無駄だ。
そして、だ。
こうなったということは、この異世界人がかなり危険な領域に入り込んでいるってことだよな。
いつ、肉の塊に変化してもおかしくないという状況だってことだ。
まぁ、今は赤髪のアダーラもこの戦場に来ているし――俺は隣でふよふよと浮いている芋虫を見る。この芋虫が居るから、肉の塊に変化しても何とかなるだろ。
「ふふ、この僕が想定してないと思ったか! 僕の創造魔法は、オリジナル魔法スキルはそれすら覆す! 魔法無効化能力を消し去る魔法、それすら創造出来る! どうだ、恐ろしいか!」
ひょろっとした少年が手で片目を隠しながらクネクネと色々なポーズをとっている。
あー、うん。
怖い怖い。
何だろうなぁ。
このひょろっとした少年は、俺が魔法無効化能力とやらで魔法を無効化していると思い込んでいるようだが、俺はそんな能力は持っていない。普通に魔力の流れを変えているだけなんだけどなぁ。
見えないというのは大変だな、うん。
「今からオリジナル魔法スキルで僕が創った魔法無効化能力を消し去る魔法を発動させる」
ひょろっとした少年が右手を俺の方に突きつける。
あー、うん。
やるならやるで、早くしてくれよ。
待ってあげてるんだからさ。
俺を取り囲んでいた大陸の種族の騎士たちは、こいつの魔法で死んでしまったし、泥人形は空気を読んでいるのか、こちらに集まってこないし、いくらでも待てるからな。
俺は再び隣でふよふよと浮いている芋虫を見る。
……そういえば、この芋虫も黒い炎に巻き込まれたはずなのに無傷だな。まぁ、その程度でやられるヤツじゃあないとは思っていたけどさ。あの戦闘なら天才的な能力を発揮するアダーラでも勝てなかった相手だからな。そりゃあそうだろうよ。それでもさ、完全無傷なのはなぁ。少しくらいは焦げたとか、さぁ。
「……あらゆる障害、防壁は我の前では消えるのみ。凍てつき、全てを打ち消す波動! イレイサームームー!」
ひょろっとした少年がなんだか格好いいポーズをとって、そんなことを言っている。
だが、何も起こらない。
そりゃまぁ、そうだ。俺は別に魔法無効化能力で魔法を無効化しているワケじゃあないからな。
この世界で重要なのは、魔力であり、その素になっている魔素だ。魔素で創られた世界なんだから、それに干渉が出来るようになれば、何でも出来るようになるのと同じだ。
魔法という力があるワケじゃあない。魔素が魔力として動いている、そうなるように魔素が現象を起こしているだけ――それだけだ。
大陸の種族も、この異世界人たちも、それを勘違いしている。
多分、こいつのオリジナル魔法スキルとやらは、その魔素自体に働きかける能力なんだろう。それが出来れば、何でも出来るだろうな。
だから、新しい『僕の考えた魔法』効果を発動出来るのだろう。
うん、まぁ、凄い能力だ。
チートと言っても良いだろう。
でもなぁ。
こいつは分かっていない。
魔素に働きかける能力ではなく、魔法を創る能力だと思っている。
見えないから仕方ないんだろうけどさ、勿体ないよなぁ。
「……発動した? したよな? 僕のオリジナル魔法スキルで創ったんだから、間違いない。ふふ、これで魔王軍幹部! お前の魔法無効化能力は消えた! 改めて僕のオリジナル魔法を喰らえ!」
ひょろっとした少年は得意気に叫んでいる。まぁ、こんな能力を持っていたら、ただ伸びるだけの槍はオマケだと思うか。俺としてはそっちの方が脅威だったんだけどな。
「さっきの冥王黒炎波は僕のオリジナル魔法の中では最弱だ。どうだ、驚いたか。恐怖しろ!」
ひょろっとした少年が元気に叫んでいる。
えーっと、確か冥竜黒炎波じゃなかったか? いや冥王龍黒炎神波だったか? まぁ、とにかく、そんなに短い名前じゃあなかったはずだぞ。
……。
まぁ、名前なんて何でもいいか。
「……神の門を抜け、全てを終わらせる神喰らいの刃よ、我に徒なす敵を討て! 神技ユラリティ!」
ひょろっとした少年が叫ぶと俺を中心にドーム状の爆発が起きた。そして、何故かひょろっとした少年は俺に背を向ける。
……。
爆発系の魔法か。
魔力の流れが読めているからなぁ。
俺の周囲だけ、魔力を反らせば、俺が攻撃を受けることはない。
馬鹿みたいな詠唱と名前で発動した魔法だけど、見るからに凄そうな威力で凄い力だ。うん、普通に凄い魔法だ。
だけど、別に俺を抑え込むような魔力の流れがあるワケでもないからな。俺が手を加えれば、普通に反らすことが出来る。
これさ、魔力が見えていたら違っていただろうな。
俺が魔力を受け流せないように、そういう方向で魔力を組み立てるはずだ。そうすると俺も、魔力の扱いに手こずって、場合によっては攻撃を喰らっていたかもしれない。
まぁ、でも、それは『もし』の話だ。
このひょろっとした少年は、ただ魔法という現象を発動させることにだけ躍起になっている。
そんなのが俺に効くワケが無い。
「えーっと、それで終わりか?」
俺の言葉を聞いたひょろっとした少年が慌てて振り替える。
「え? な、なんで無傷? あの威力、最強になるように創ったのに? え? え? 最強の能力だよ? そう聞いていたのに。聞いて、聞いて、聞いて、聞いて……」
ひょろっとした少年が無傷の俺を見て驚いている。
うーん、これ不味いかもしれない。
どうも、追い詰めすぎた感じだ。
何かあったら肉の塊に変異するかもしれないなぁ。
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