535 オリジナル魔法
伸びた槍の上をたたたっと走る。
ん?
と、そんな俺の横を空飛ぶ芋虫が並走する。
こいつ、なんで一緒に来るんだよ。というか、だ。空を飛べるのは卑怯だよな。俺も空を飛びたい。魔法があるような世界なんだから、なんとかすれば出来そうなんだけどなぁ。
……。
まぁ、今はそんなことを考えている場合じゃあないな。
槍の上を走り続けて、すぐに持ち主の異世界人が見えてくる。どうやって、こいつが? と思ってしまいそうなくらい、ひょろっとした少年だ。陰湿な目をした性格が悪そうな顔をしている。
……。
って、外見だけを見て性格が悪そう、とか偏見は良くないな。
そのひょろっとした少年は迫る俺に気付き、槍を手放すべきなのかどうか迷っているようだった。
周囲には……他に異世界人の姿が見えないな。後、泥人形と燃やす人種の遺産を持った異世界人が居るはずなんだが、一緒には居なかったか。
異世界人のひょろっとした少年を守るように盾を構えた大陸の種族――騎士たちの姿も見える。
「ひっ、なんで僕の魔槍の上を走って! 逃げ、でも、いや、逃げ……」
異世界人のひょろっとした少年が怯えたように叫んでいる。
「逃げてはなりませんぞ。ここを死守するのが役目ですぞ」
「んだよ、役目って! 僕に命令するな! こ、このことは姫も知ってるのかよ!」
「今は女王様ですぞ。これはその女王様からのご命令ですぞ」
ひょろっとした少年と大陸の種族の騎士たちが言い争っている。この大陸の種族の騎士たちは異世界人の護衛なのか、それとも監視役なのか。
まぁ、多分、両方か。
俺は走り込んだ勢いのままひょろっとした少年を殴りつける。ひょろっとした少年は槍を手放し、跳ねるように転がる。
ん?
妙な手応えだったな。
「魔王だ!」
「魔王の手下がここまで来たぞ!」
「囲め!」
俺はすぐに大陸の種族の騎士たちに囲まれる。騎士鎧に隠れて分かり難かったが、手は翼のようだし、クチバシも見えるな。
んー、こいつらはアヒルみたいな種族の連中か。猫とか犬頭とか蜥蜴とかネズミとか獅子とかアヒルとか、ホント、大陸の種族の連中は動物が人の真似事をしている感じだな。
んで、だ。
俺は、今現在、ナウで囲まれているワケだけど、俺よりもさ、こいつらはふよふよと浮いている芋虫が気にならないんだろうか。いかにも魔獣という姿をしているから、そっちの方が危険だと思いそうなんだけどなぁ。それとも俺の配下の魔獣だとか思われているのだろうか。
っと、ん?
「は、離れていろ! こ、こいつは僕を、僕を殴ったんだぞ!」
声がした方を見れば、ひょろっとした異世界人の少年が元気に立ち上がり、俺を睨み付けていた。
んー。
気絶するように殴ったけどんだけどなぁ。殺さないように手加減し過ぎたか。
んで、だ。
武器を――人種の遺産の槍を手放して何をするつもりなんだ?
何か出来るとか思っているのか?
俺は周囲の騎士たちを無視して転がっている槍を拾う。ひょろっとした少年が手放したからか普通のサイズの槍に戻っている。いや、少し短めだから、どちらかという短槍という感じか。
まぁ、とにかく壊してしまおう。
魔力を流し、人種の遺産の槍をへし折る。これでもう機能することはないだろう。
「ぼ、僕の魔槍を! それで勝ったつもりか! だが、僕にはオリジナル魔法のスキルがある!」
ひょろっとした少年が叫んでいる。さっきまで逃げるか迷っていたとは思えないな。
「僕の思うとおりに、考えたとおりに魔法が発動する。どうだ、恐ろしいか? それともお前にはその凄さが分からないか! 今すぐに思い知らせてやる!」
ひょろっとした少年は元気にそんなことを言っている。
おー、転移特典で貰えるスキルとやらか。なんか、神から、そんなのが貰えたって異世界人の誰かが言っていたよな。
「闇に沈みし漆黒の炎よ、渦巻き全てを飲み干せ! 冥龍黒炎神王波!」
ひょろっとした少年が何か痛いことを叫んでいる。こういう年頃ってさ、闇とか黒とか龍とか好きだよな。分かる、分かるよ。分かるけどさぁ。
ひょろっとした少年の手から、中華風な黒い竜の姿をした炎が生まれ、くるくると回り俺へと迫る。
おー。
形から入るタイプなのか。
そして、その黒い炎は、こちらを取り囲んでいた騎士たちを巻き込みながら、俺を飲み込んだ。
「な、何を!」
「ぎゃああああ」
……。
味方もお構いなしか。いや、味方だとすら思っていないのかもしれないなぁ。
んで、だ。
今更、こんな魔法が俺に効くかよ。魔力の流れは見えている。それを反発させて、俺を巻き込まないようにするのは簡単だ。
俺は魔力の流れを読み切り、その黒い炎を受け流し、霧散させる。
はい、消滅、と。
「え? な、なんで? 僕の魔法が消えた? まさか魔法無効化能力か!」
ひょろっとした少年が叫んでいる。
あー、うん。
人種の遺産なら俺も危険を感じて慎重にならざるをえないけどさ、魔力はなぁ。それ、見えるから、どうとでも出来るんだ。
それ、俺はもうずっと前に通った場所だぜ!
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