534 色々と増援です

 どうする?


 どうすれば一番手っ取り早いだろうか。


 うーん。


 ん?


 と、そこに何かが飛んでくるのが見えた。


 天人族のアヴィオールだ。巨大な竜の姿になってこちらへと飛んできている。


 おー、やっと復活したのか。


 そして、大きな翼をはためかせ飛んできた天人族のアヴィオールに槍が刺さる。


 一瞬の出来事だった。


 あ。


 そうだよな。さっき、俺も思ったけどさ、あんな大きいものが飛んできたら狙われるよな。


 大丈夫かよ。いや、天人族のアヴィオールがこの程度でやられるワケがない。やられない!


 だ、大丈夫だろう。


 天人族のアヴィオールが落ちる。空を飛ぶ力を失ったかのように落下していく。獣人族の国を攻めに行った時も矢で撃ち落とされていたし、なんというか、アヴィオールも撃ち落とされてばかりで災難だよなぁ。


 しかも、今回は囮として残って、その時に受けた傷を回復してすぐに、だもんな。まぁ、この程度では死なないだろうし、俺が仇をとってやるよ。


 その落ちていく天人族のアヴィオールの背から何かが飛び降りる。


 小さな影。


 赤髪のアダーラか!?


 ん?


 いや、何だ?


 背中から飛んだの、人型じゃあないぞ。ということは赤髪のアダーラじゃない?


 そこに大きな雄叫びが響き渡る。


 音のした方を見れば崖を駆け下りる赤い毛並みの巨大な獣の姿があった。赤髪のアダーラだ。咆哮を上げたのは攻撃を自分に引きつけるためだろう。


 崖を駆け下りる赤い獣に槍が伸びる。その一撃をアダーラは余裕で避ける。初見で避けるのかよ。さすがだな。


 アダーラってさ、脳まで筋肉が詰まっているような感じなのに、戦闘では天才的な閃きと勘で感覚的に正解を選ぶんだからなぁ。お馬鹿なのに賢いんだよな。


 ホント、戦闘では頼りになるよなぁ。


 んで、だ。


 アヴィオールから飛び降りてきたのは――



 ……。

 ……。


 芋虫だ。


 あー、うん。


 そういえばあの芋虫もここまでついてきていたな。天人族のアヴィオールのところに放置していたな。


 来ちゃったかぁ。


 って、その芋虫さ、ふよふよ浮いてるんだけど、なんなんだ。


 ……。


 芋虫、落ちてこないなぁ。


 ……。


 あの芋虫なんて狙い目なのに誰も攻撃しようとしないな。竜化した天人族のアヴィオールや獣化したアダーラのサイズと比べると小さいからなのか? アダーラの咆哮に注目されているからなのか?


 ……。


 というかさ、なんで、あの芋虫、この戦場に来たんだ? 分からないな。本当に何がしたいのか分からない。


 ……いや、もしかして猫人の料理人さんが心配でここまで来たのか? その可能性はあるな。だけどさ、猫人の料理人さんをここで見かけなかったからなぁ。もしかすると不味いことになっているかもしれない。

 異世界人たちが猫人の料理人さんを殺すとは思えないけど、襲撃してきた泥人形は無差別に攻撃しているからな。巻き込まれた可能性もある。


 ……。


 うーん。


 いや、とにかく今がチャンスだ。考えるのは後にしよう。赤髪のアダーラと天人族のアヴィオールが注意を引いてくれているうちに槍使いを倒そう。


 俺はアダーラを狙っている槍が何処から伸びていたかを確認する。


 あっちか。


 泥人形を踏みつけ、飛ぶ。


 ここで、一気に間合いを詰める!


 っと。


 勢いよく飛び出した俺を目掛けて槍が迫る。と、そりゃそうか。赤髪のアダーラが目立っているからといって、俺への警戒が消えたワケじゃあないだろうからな。近寄ってきたら、そりゃあ攻撃するよな。


 俺は空中で身を捻り迫る槍を躱す。


 赤髪のアダーラが吼える。

「良いのかッ! 姉さまに攻撃していて良いのかッ! その間にお前を噛み殺すぞ!」

 アダーラの叫び。


 再びアダーラへと槍が迫る。


 そして、アダーラはその迫る槍を掴んでいた。って、アダーラ、いつの間にか人型に戻っているじゃあないか。なんという早業。一瞬で獣の姿から人に戻れるのか。他の獣人族は出来なかったよな? 変身に時間がかかっていたよな? あいつの場合、頑張れば出来ましたかとか、言いそうだなぁ。というか、アダーラ、あの槍を掴んだのか。

 あんなの未来を予測でもしないと掴むことなんて出来ないぞ。それを掴んだのか。


 ホント、アダーラは戦闘に関しては異常すぎる。頼もしい限りだよ。


 って、ん?


 ……未来を予測?


 あ。


 ま、まぁ、俺もヴィジョンの魔法を使えば、た、多分、掴めたはずだ。俺だって出来たはずだ。あー、うん、そうだよな、うん。


 俺だって出来たはずだ!


 っと、考え込んでいる場合じゃあないな。


 アダーラが槍を掴んだ。


 今がチャンスだ。


 俺は泥人形の頭を踏みつけ、蹴り飛ばしながら駆け、アダーラが掴んでいる槍の上に乗る。

「アダーラ、そのまま頼む」

「姉さま、もちろんです」


 俺は槍の上を走る。


 この先に居るのが異世界人だろう。


 アダーラが槍を掴んでくれたから、このまま槍を壊すことも出来ないではないけど、そうすると異世界人に逃げられるかもしれないからな。


 だから、このまま一気に駆け寄って戦闘不能にしてやろう。


 このまま終わらせる!

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