532 裏切り者を回収

 俺は気絶し倒れた鎧の少年に近寄る。


 うぉ?


 左手に持っていた、ただの槍が弾かれる。気を失った状態でも人種の遺産としての能力は発揮するようだ。

 随分と高性能だなぁ。


 まるで、この鎧自体が意思を持っているかのようだ。


 ん?


 俺は鎧に手を伸ばす。だが、こちらは弾かれない。


「お前、お前が!」

 俺を見た裏切り者の魔人族の少女が叫んでいる。鎧の少年に隠れていただけのヤツが随分と元気なものだ。

 そして、その魔人族の少女が、次の瞬間にはその手と足が切断され、転がった。魔人族のプロキオンの仕業だろう。


 ……殺さなかったか。


 まぁ、殺さない方が良いよな。殺したら、何処までの情報を漏らしたかも分からないし、向こうの情報も分からない。それにさ、この魔人族の少女が裏切ったことで被害を受けた連中の気持ちを考えたらさ、あっさりと殺すのは駄目だよな。


「叔父様、どうして!」

 魔人族の少女はまだ何か喋っているようだが、今はどうでも良い。


 んで、だ。


 俺は鎧の少年の鎧に触れる。これが人種の遺産で間違いないようだ。


 でも、なんで触れられるんだ?


 武器はさ、こいつが気絶していても弾かれた。鎧が全自動で、こいつを守っている。


 触れるだけなら攻撃として判断されない?


 んー、それも違うような……。


 それに、だ。俺は蕾の茨槍を盾状態にして持っている方の手で触れようとしたんだぞ。これは、あれか? 盾は武器じゃあないから、攻撃として判断されない?


 んー。


 それも違う気がするな。


 蕾の茨槍は草だから、草は攻撃判定されない?


 じゃあ、サモンヴァインが弾かれたのは何だって話になるよな。魔法だから弾かれた?


 んー。


 いや、そもそも武器を持っている持っていないは関係ないのか? いや、でもただの槍は弾かれたよな?


 考えれば考えるほど良く分からないけど……。


 ん?


 この人種の遺産……まさか、俺を味方判定しているのか?


 触れている鎧から様々な情報が俺に送られてくる。


 ……。


 そういうことなのか?


 だから触れられる?


 つまり、そういうことなのか?


 うーん、味方判定でも武器だけは駄目なのか。


 ……。


 蕾の茨槍は武器ではなく、俺の体の一部として判定されているようだ。


 マジかぁ。


 ……。


 まぁ、とにかく触れたことで色々と情報が読み取れたな。どの人種の遺産もそうだけどさ、こう、すぐに使えるように使い方や性能を教えてくれるのは便利だよな。至れり尽くせりというか、何も知らないヤツでも、いきなり戦士として戦えるような仕組みが出来ているとか、そういう感じだよなぁ。


 ……。


 ホント、人種の遺産って不穏の塊だよな。


 というワケで、だ。


 こいつも壊してしまうか。


 俺は鎧に触れた手に魔力を込める。このまま打ち砕く。


 ばきゃん、とな。


 鎧が砕け散る。


「うぎゃ!」

 その衝撃に気絶していた鎧の少年が叫び声を上げる。だが、すぐに再び白目を剥いて倒れる。


 うんうん。気絶していれば良いよ。下手に目を覚まして、発狂して肉の塊にでもなったら困るからな。赤髪のアダーラを置いてきている状況だと肉の塊を倒すのも大変だからなぁ。蟲人のウェイと魔人族のプロキオンが居るから、なんとかはなりそうだけど、異世界人たちの妨害を考えると、苦戦しそうだからなぁ。


 何も分からないまま気絶して貰うのが一番だ。


 っと、俺は迫る槍を蕾の茨槍の盾で弾く。仲間を守るためなのか、さっきから攻撃頻度が上がって鬱陶しい。泥人形も数を増やして集まってきているし、俺をどうにかしようとしている感じだな。そのうち、燃やす能力の人種の遺産も俺を目掛けて飛んでくるかもしれない。


 あまり燃えたくないなぁ。


 ……。


 とりあえず、だ。


「プロキオン、この転がっている裏切り者を回収してください」

「……帝よ、分かりました」

 魔人族のプロキオンは少しだけ不満そうだ。多分、このまま戦闘に参加したいんだろうな。

「えーっと、殺さないように、死なさないようにお願いします」

「了解ですよ」

 魔人族のプロキオンが四肢を失い転がっている裏切り者の少女を持ち上げる。四肢を切断されているのに血が流れていない。これはグロくなくて良いね。これ、魔人族だから、こうだっていうワケじゃあなく、多分、プロキオンの空間を切断する能力でそうしているんだろうな。


 魔人族だし、後で簡単にくっつきそう。


 プロキオンもそう思っているのか、転がっている手足を拾っている。


 伸びる槍が、今度は裏切り者の少女を回収しているプロキオンを狙って連続で攻撃を繰り返している。だが、プロキオンはその攻撃を最小限の動きで回避している。もう読み切ったということだろう。


 まぁ、俺も読み切ったし、それくらい俺だって出来るからな。思っていたよりも楽勝だったからな!


 次は鬱陶しい槍を持ったヤツを倒すか。だが、こいつが何処に居るか、なんだよなぁ。近くに居れば良いけど、離れたところだと厄介だよな。だがまぁ、伸びている方向から、どの方向に居るかは分かるし、何とかなるか。


 異世界人を行動不能にすれば、それだけ楽になるし、ちゃちゃっとなんとかしてしまおう。

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