530 覚悟はいいか?

 質問したら普通に答えてくれるなんて、この鎧の少年は、なんて素直で親切なんだ!


 ……。


 なんてな。


 こうやってペラペラと簡単に情報を漏らしてくれるのは、それが問題だと思っていないからだろうなぁ。自分が物語の主人公で、この世界に生きている人々は脇役。それこそ、物語の登場人物の一人でしかない、と……人形的な、ノンプレイヤーキャラクターだとでも思っているのではないだろうか。


 とても凄い間抜けな思い上がった顔を晒してくれているもんな。


 まぁ、この鎧の少年が持っている人種の遺産が攻撃を完全に防ぐ能力だからな。死の危険を感じることがないから、その考えに拍車をかけているんじゃあないだろうか。


 異世界人こそが人形なのにな。


 ……。


 ということで、だ。


 この勘違いした異世界人に思い知って貰おうか。


「えーっと、続けて聞いてもいいかな?」

 鎧の少年は何を言っているんだ、こいつは? という顔でこちらを見ている。

「あ、お前は! お前のせいで叔父様が、里のみんながおかしくなった」

 と、そこに俺に気付いた魔人族の少女がそんなことを言いだした。いやいや、会話に割り込んでくるなよ。


 この少女は……。


 はぁ。


 どんな理由があろうと、どんな考えがあろうと、裏切りは裏切りだよな。


 まさか、本当に魔人族の中から裏切り者が出ているとは思わなかったよ。


「え? サイフちゃん、そうなの? このちっこいの、そんな悪いヤツなの?」

 鎧の少年は間抜け顔のまま、そんなことを言いだした。俺はそんなやり取りの間も迫る槍を、蕾の茨槍の盾で弾く。会話している間も情け容赦なく攻撃してくるとか、本当に鬱陶しい。


 まぁいい。今は言いたいことを言おう。


「異世界人の少年、分かっているのか。戦争だぞ。これは四種族と大陸の種族の戦争なんだぞ。その意味が分かっているのか? 覚悟はあるんだよな?」

 俺は鎧の少年に問いかける。といっても、別に説得したいワケでは無い。


 どうせ、この異世界人の少年も洗脳されたような状態になっているだろうからな。会話が通じているようでも通じないだろうしさ。


 まぁ、要は俺の自己満足だ。


 こちらを殺そうとするのだから、殺される覚悟はあるよな? ちゃんと聞いたんだから殺しても仕方ない。俺はやるべきことはやった。そう、俺が思いたいだけの自己満足だ。


 俺の心の平穏のために聞いているだけだ。


「何言っているんだ? 敵を倒すだけ、敵は倒すだけだろ。……もしかして、隠された真実が、敵の方が正しかったパターンなのかよ? え、いや、でも、サイフちゃんは味方になったし……」

 鎧の少年がブツブツと呟いている。


 俺は迫る槍を盾で弾きながら大きくため息を吐く。


 まぁ、無駄だよな。


 それに下手に説得が成功して、こんな場所で肉の塊にでも変身したら困ることになる。こちらにどれだけの犠牲が出るか分からない。


 俺は泥人形をただの槍で吹き飛ばし、隙間を作って前進し、迫る槍を盾で弾き返す。迫る槍のタイミングは、もう完璧にものにした。もう問題無い。どれだけ一瞬でもさ、単調に突いてくるだけだからな。


 それに、だ。


 確かにいきなり目の前に槍が現れるのは恐ろしい能力だよ。だが、そこから突くための動作が入るからな。


 この槍タイプの人種の遺産、対象物を貫通するように伸ばすことは出来ないようだ。目の前までは一瞬で伸びる。だけど、攻撃するなら、そこからさらに動く必要がある。結局、攻撃の動作が入るんだよな。


 それに、だ。その能力の関係からか、槍が来る瞬間だけ、泥人形が道を開けている。槍の通り道を作っている。


 ……。


 最初は驚いたけどさ、分かってしまえばなんということは無い。


 泥人形を作る人種の遺産とは、上手く連携しているようだけど、相性が良いようで最悪だろうな。


 もう、こちらは問題無い。


 俺は未だ燃えているウェイの方を見る。


 燃える能力の人種の遺産の相手がこちらじゃあなくて良かったよ。火に弱い蟲人のウェイに相手して貰っているのは悪いが、そのおかげで俺が動く時間を稼ぐことが出来た。


 俺はゆっくり確実に前進し、鎧の少年の前に立つ。俺に気付いた魔人族のプロキオンが一歩下がり、俺の背後に控える。こちらへと集まってくる泥人形の排除に動いてくれるようだ。


「え? ケモミミ? 噂の? こんな種族も居るんだ。この子も説得して仲間にしないと」

 鎧の少年は俺を前にしても、ブツブツと気持ち悪いことを呟いている。


 さて、と。


「えーっと、覚悟は良いかな?」

 俺は鎧の少年に話しかける。


 サクッと終わらせようか。

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