529 キラキラ鎧二号

 魔人族のプロキオンがパチンパチンと指を鳴らしている。だが、何も起きない。いや、きっとあの鎧の少年を狙って空間を切断しようとしているのだろう。もしかすると魔人族の少女を狙っているのかもしれない。


 だが、何も起きない!


 鎧の少年――その鎧は、ずんぐりとした全身を覆うようなカタチのシロモノだ。鎧に着られている感じだな。


 ……うーむ。


 鎧の硬さで攻撃を防いでいる感じじゃあないな。あれは鎧を中心として攻撃を防ぐ空間が発生しているという感じだな。


 キラキラ鎧二号か。


 にしても、どういう判断で攻撃を防いでいるんだろうな。こう、スイッチオンオフとかみたいに防ぐ、防がないを変えているんだろうか。それとも自動的に攻撃かそうで無いかを判断しているのか?


 後は魔力に反応している可能性もあるな。


 それだと直接的な攻撃は防げないけど、そんな時は鎧の硬さで防ぐ、みたいな。


 うーん。


 例えばさ、毒の霧とかだとどうなるんだろうか。それも遮断するのか? それなら空気は? 空気の中の酸素濃度を上げたらどうなる? 目に見えない微生物は侵入させないのか?


 考えたら切りがないけど気になるよな。そういうことも含めて人種の遺産というチートな能力なんだろうけどさ。


 と、そんなことを考えていた俺の前を槍が通り過ぎる。


 ホント、油断も隙も無いな。


 だけど、この伸びる槍が狙っているのは俺と魔人族のプロキオンだけみたいだな。いくら、一瞬で伸び縮み出来るといっても、あちらに攻撃、こちらに攻撃とやっていれば、若干のタイムラグが発生する。


 だから、俺とプロキオンだけに狙いを絞って攻撃をしているのだろう。


 でもさ、プロキオンは分かるけど、なんで俺なんだ?


 俺なんて弱そうな少女の姿じゃあないか。


 ……。


 俺は周囲の泥人形を見る。良い調子で泥人形を壊しすぎたか。これで俺が厄介だと思われたようだな。


「サイフちゃん、下がって。君のおじさんを説得するのは無理だ。ここで倒して分かって貰うしかない!」

 鎧の少年は何やら愉快なことを言っている。


 その間も俺には伸びる槍による攻撃が続いている。仕方ないな。


――[ロゼット]――


 俺は蕾の茨槍を花開かせ盾に変える。あの伸びる槍の攻撃はこの盾で弾いて、攻撃はただの槍で頑張ろう。


「へへ、あんたの攻撃なんて効かないぞ!」

 鎧の少年は未だ喋り続けている。戦闘の最中にべらべらと随分と余裕だな。まぁ、攻撃を無効化する鎧に守られているからな。自分の死ぬ心配が無いのだから余裕な態度をとりもするか。


 ……。


 って、ん?


 待て。


 あの鎧の少年は、今、何語で喋っている?


 異世界の言葉か?


 それなら言葉も通じないのに独り言を喋っている危ない奴ってことになるけど、そうじゃあないよな。


 あの魔人族の少女にも通じていたみたいだし、そうなると魔人語か?


 いや、言葉に違和感がある。


 まさか、翻訳スキルか。


 今までは翻訳スキルを持っていたのは、あの獣人国で出会った奴だけだった。人から奪ったスキルだったらしいが、それは今は関係無い。とにかくだけど、異世界人の連中で普通に喋れたのはそいつだけだった。


 だが、こいつは……。


 そういう人種の遺産を持っているのか?


 いや、その可能性は低そうだ。


 どういうことだ?


 俺は迫る槍を盾にした蕾の茨槍で弾き、ただの槍で泥人形を吹き飛ばして進む。


 そして、鎧の少年に声が届けられそうな場所まで前進する。


 さて、と。


 何語で話しかける?


 魔人語が通じているのは確定だ。異世界人の言語で喋るのも無意味だろう。


 となると共通語、辺境語、獣人語、天人語のどれかって感じか?


 共通語は大陸では普通に使われているから判断するには微妙だし、獣人語も、獣人たちは大陸の種族と交流していたみたいだから、使える可能性があるし……となると、辺境語か、天人語か。


 ……。


 まぁ、順当に辺境語かな。


「なんで言葉が通じるんだ? どういうことだ?」

 俺は鎧の少年に、普通に話しかける。

「これさ!」

 鎧の少年は得意気に腕を持ち上げる。そこには黒い丸のブレスレットがあった。

「こいつには翻訳スキルが入っているのさ! へへ、これは賢者先生がいなくなって困っていた僕たちのために、ひ……王女が作ってくれたのさ!」

 鎧の少年は得意気だ。


 翻訳スキルが入った魔導具の腕輪、か。


 なんで今更、そんなものが。


 ……。


 賢者が死んだからか?


 多分、そうだろう。


 異世界人たちとの会話に不都合が起きないように、作ったんだろう。いや、もしかしたら最初から、この魔導具自体はあったのかもしれない。だけど、異世界人たちを賢者に頼らせるために渡さなかった。だが、賢者が死んだことで急遽、渡すことにした。


 そんな感じじゃあないだろうか。


 あり得るな。


 そんなものを用意する王女?


 何者だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る