528 裏切った理由?

 現れた魔人族は……少女の姿をしていた。


「勝てない。勝てないの。これ以上は被害が増えるだけ!」

 現れた魔人族の少女はそんなことを言っている。異世界人たちの姿は見えない。隠れているんだろうな。


 にしても、この裏切り者の魔人族の少女は何を言っているんだ? 言っている意味が分からないな。


 もしかして、こちらを動揺させて、その隙に攻撃しようとか考えているのか?


 ……。


 そういえば、この魔人族の少女、何処かで見覚えがあるな。えーっと、何処だったかな。


「降伏して!」

 良く分からないが、魔人族の少女はこちらに降伏を呼びかけている。


 降伏、ね。


 まぁ、なんとなく言いたいことは分かるけどさ。異世界人には勝てないから、被害が出る前に降伏しましょうって呼びかけているんだよな? それは分かるけど、その思考が分からないな。


 本当に言っていることの意味が分からない。


 この魔人族の少女が裏切って大陸の種族と異世界人たちに作戦をバラしたんだよな?


 まぁ、天人族のアヴィオールを囮にして異世界人たちを呼び寄せて一網打尽にするって作戦が、必ず成功したかは分からないし、もっと被害が出ていた可能性もある。


 でもさ、それはその可能性があるってだけで、成功する可能性だってあったワケじゃあないか。というか、ウェイやプロキオンは成功する可能性の方が高いと思っていたワケだろ?


 それが、この魔人族の少女の裏切りによって全て台無しになって、失敗に終わってしまったワケだろ? 失敗? 失敗というか、逆に追い詰められる結果になったんだよな?


 完全な戦犯じゃあないか。


 しかも敵である異世界人に寝返ってさ。

 しかも自分は良いことをしているみたいな顔をしてさ。


 なんなんだ。


 降伏したら、平和になるのか?


 それで大陸の種族も異世界人も、四種族も仲良く手を取り合って暮らしていけるというなら、別に降伏してもいいさ。


 でもさ、そうならないだろ。


 この戦争は――今回のこの戦争じゃあない、昔からの確執、四種族と大陸の種族の間で行われている戦争だ。その戦争は、大陸の種族が始めたものだ。しかも、その原因は、四種族に怯えてという情けない理由だ。そんな理由なのにこちらが降伏したら平和的な解決が行われるだろうか。いや、駄目だろうな。それこそ、このチャンスに四種族を滅ぼそうとするだろ。それか絶対に逆らえないように、何かで縛るか、だろうな。


 頭の中がお花畑な異世界人なら本当に平和的な解決が出来ると思っているかもしれない。だけどさ、その異世界人も神を名乗る謎の存在によって調整して造られた人形みたいなものだ。その神の考え方次第によっては、異世界人がどう思っていようが、ろくなコトにならないだろうな。


 降伏したら、待っているのは四種族の滅亡だけだ。


 この魔人族の少女はそれが分かってないらしい。


 ……。


 人種の遺産で洗脳でもされたのかと思っていたけど、どうも、違う感じだなぁ。


 俺は魔人族のプロキオンを見る。プロキオンは伸びる槍をなんとか躱しながら、攻撃の隙を伺っている。戦闘は続いている。泥人形は今も産まれ続け、こちらに襲いかかってきているし、ところどころで炎が燃えている。この魔人族の少女が降伏を呼びかけている間も戦闘は続いている。


「叔父様、話を聞いてください! このままでは魔人族は滅びます」

 魔人族の少女はプロキオンに向けて何か言っている。


 だが、プロキオンはその言葉を無視して迫る槍を回避している。


 うーむ。


 俺もさ、この状況を打破したいんだけど、こっちにも槍は飛んでくるし、泥人形には囲まれて鬱陶しいし、キツいなぁ。


 プロキオンが周囲の泥人形を一気に大きく切断する。そして、その隙に駆ける。多分、あの魔人族の少女を切断するつもりなのだろう。


 そして、プロキオンの一撃が放たれる。


 ……。


 だが、その一撃は突如現れた鎧の少年に防がれていた。

「へへ、あんた、サイフちゃんのおじさんなんだろ? なのに、簡単に殺そうとするなんて、やっぱり魔族は魔族だな!」

 鎧の少年はそんなことを言っている。


 異世界人か。


 この少年が攻撃が効かない鎧の人種の遺産を持った異世界人なのだろう。


 ……。


 あー、俺はてっきり、あの逃げたキラキラ鎧の少年かと思っていたが、どうも違うようだ。よく考えたら、あのキラキラ鎧の少年が居たのは獣人国だもんな。そこからこの戦場まで――距離的にも、時間的にも、間に合うはずがないか。


 となると、攻撃を無効する鎧系統の人種の遺産は二つあったということになるのか。


 魔人族のプロキオンの空間を斬り裂く攻撃を完全に防いだようだし、ちょっと厄介だな。

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