469 決めたことを

「ま、まぐれがそう何度も起きるものか」

 とんがり髪の男が大きく後方へと飛び退く。そして、再び、剣を掲げる。

「解放、嵐! 唸れぇぇぇぇ!」

 掲げた剣に風の唸りが生じ、嵐を纏っていく。


 芸が無い。それしか出来ないのだろうか。というか、だ。相手が必殺技の発動をのんびりと待ってくれると思っている時点でレベルが知れる。さっきのアヒルもそうだが、この程度のヤツしか居ないのか? 大陸の種族の中には四種族と対抗が出来るレベルの規格外の連中も居るはずだ。そいつらは戦争に参加していないのか?


 ……。


 いや、違うか。


 そいつらは最前線にいるのか。そうだよな。プロキオン、アヴィオール、ウェイ、アダーラと四種族のトップクラスを相手に戦線を維持しようと思ったら、どれだけ数が多かろうが、並の技量じゃあ無理だろう。それこそ、規格外の連中が何人も必要なはずだ。


 だから、こっちにはこの程度のヤツしか来ていないのか。それは運が良かったのか、悪かったのか。


 とんがり髪の男が嵐が渦巻く剣を振り下ろす。嵐の刃が俺へと迫る。


 俺はそれを盾で振り払う。俺の魔力によって嵐が霧散する。


 とんがり髪の男が嵐ごと剣を振り払われ、よろめきながら後退り、そのまま尻餅をついた。


「え?」

 尻餅をついたとんがり髪の男は驚いた顔で剣と俺を見比べている。


 そろそろお終いにしよう。


 俺は神域に並んでいるゴーレムの方へと飛ぶ。そして、そのゴーレムが握っている槍を引き抜く。かなり重たいが、俺の怪力なら持てないこともない。


 そのまま槍を投げ放つ。


 槍は狙い違わず、尻餅をついているとんがり髪の男の横に――持っていた剣を砕き、地面に突き刺さる。


「え? へ? 剣が、俺の剣がぁぁ! ぎにゃあああ!」

 とんがり髪の男が情けない声で叫んでいる。


 俺はゴーレムから飛び降り、とんがり髪の男のところまで歩く。そして巨大な槍をうんしょと引き抜き、それを自分の肩に乗せる。


「さあ、死のうか」

 俺のそんな言葉を聞いたとんがり髪の男が、怯えた表情で後退っていく。完全な戦意喪失だ。

「助け、助けてくれぇ。だから、反対したんだよ、俺は反対した」

 とんがり髪の男が立ち上がれないのか這って逃げる。


 俺は大きくため息を吐く。


『えーっと、聞こえるかな』

『母様、聞こえるのじゃ』

 リターンの輪を通して離れているのに、機人の女王と会話は出来るようだ。


『今から帝城の方に敵の一人を追加で送るから。さっきのヤツと同じように情報を手に入れて。ある程度のことはしてもいいけど、えーっと、ただし、殺さないように』

『了解したのじゃ』

『それとミルファクにはこっちが片付いてから向かうって伝えておいて』

『分かったのじゃ』


 俺は這って逃げていたとんがり髪の男を捕まえる。そのまま引き摺って行き、名も無き帝国の帝城に繋がる輪の中に投げ入れる。これで後は機人の女王が上手くやってくれるだろう。


 さて、と。


 俺はゴーレムの槍を戻す。


 ゴーレムか。


 ゴーレムで行くのは有りかもしれないな。乗っていくのも準備が大変だし、現地で呼ぶか。


 俺はリターンの輪をくぐり、天人族の里に戻る。そこは変わらず火の手が上がり、燃えていた。今、通ってきたリターンの輪を閉じる。またこの輪を勝手に使われて、ここを襲った連中が神域に来たりしたら面倒だからな。


 さて、と。


 とりあえずゴーレムを呼ぼうか。


 俺は手を空へと伸ばす。俺の魔力を真っ赤に染め上げ、空へと細く長く尖らせるように伸ばす。


 ……。


 って、ここまでして思ったんだけどさ。これ、どっちのゴーレムが落ちてくるんだ? 槍と弓、どっちだ? まさかのランダム? それとも弓専用なのか?


 ううーむ。


 とりあえず槍の方が落ちてきて欲しいなぁ。


 そう願いながら魔力を込めよう。


 そして、空を割ってゴーレムが落ちてくる。


 槍を脇に抱え腕を組んだ状態のゴーレムが落下してくる。あー、そうか、槍持ちの方はマントを装備していなかったかぁ。そういえばそうだったか。


 って、落ちてきている?


 そして、ゴーレムが俺の魔力を吸い上げ、青い球体を展開し着地する。


 ゴーレムが建物の上に着地する。あー、まぁ、青い球体に守られているからゴーレム自体は無傷だな。衝撃も無かったな。


 ……。


 ゴーレムの自重で建物が崩れる。


 あー、うん。


 そうなるよなぁ。


 落とす場所を間違えたなぁ。


 ……。


 と、とりあえずゴーレムに乗り込もう。


 俺は崩れた建物に埋まっているゴーレムへと近寄り、乗り込む。そのまま建物を壊しながら起き上がる。


 まぁ、建物は諦めよう。天人族の皆さんには後で謝ろう。


 さあて、戦場に向かうか。

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