470 戦場を駆ける
ゴーレムを動かし戦場へと向かう。この里を襲っている大陸の種族の狩人はまだ残っているだろうが(里を襲撃したのがあのとんがり髪とアヒルだけとは思えない)優先順位は下だ。まずは戦場――そこで戦っている天人族の救出だ。
里の外へ――戦場に戻る。
そこでは未だ戦いが続いていた。
まず、倒れ動かなくなっている天人族の姿が目に付いた。だが、生き延び、里を守るように戦っている、生き延びている天人族の姿もあった。一人の竜化した天人族は傷ついた天人族を守りながら戦っていた。一人の竜化した天人族は口から血を吐きながらもブレスを吐き続け、兵士たちを近寄らせないようにしていた。一人の竜化した天人族は爪と尻尾を上手く使い戦っていた。倒すことよりも里に近づかせないことを優先して戦闘を膠着させている。
生き残っているのは十四人ほど、か。俺が戦場を通り抜けた時は数十人ほどの天人族の姿があった。それが半分以下になっている。それでも生き残っている。生き延びて里を守るために戦っている。
俺は動かなくなった天人族を見ていた。
ああ、竜化したまま死んだ天人族は、死んだ後も竜化したままなんだな。もしかすると竜の姿の方が天人族の本当の姿なんだろうか、そんなどうでもいいことを俺は考えていた。
……。
「何か出てきたぞ!」
「新手か!」
「魔族の兵器か!」
大陸の種族の兵士たちが騒いでいる。
ああ、そうだった。
ここは戦場だった。
俺がぼうっとしているだけ天人族は追い詰められていく。
ここは戦場だ。
しっかりしないとな。
……。
……。
……!
だが。
それでも俺は声をかけよう。
覚悟が決まっていないと、甘いと、そう取られるかも知れないが、俺が俺であるために声をかけよう。
「聞け!」
俺は大きな声で呼びかける。俺の声がゴーレムを通して戦場に広がる。
兵士たちが一瞬だけ手を止め、俺の方を――ゴーレムを見る。見ている。
俺は次の言葉を発する。
「ここで退くなら命は取らない。追うことはしない。だが、この言葉を聞いてもまだ残るというなら、それは敵対する意思があると見なす! 十秒だけ猶予をやろう! 死にたいものだけが残れ!」
俺は出来るだけ偉そうに、威圧するように、兵士たちが怯えるように叫ぶ。
「十ー、……九ー、はぁーーち」
出来る限りゆっくりと秒読みする。
だが、兵士たちは動かない。
「おいおい、聞いたか?」
「俺たちの攻撃は魔族にも竜にも効いてる。勝っているのに逃げる馬鹿がいるかよ!」
「犠牲は大きいが、だから負けられないだろ」
「ここで手柄を立てれば、俺は騎士になれる」
「あそこにはお宝が待ってるはずだぜ、くひ」
兵士たちは逃げるどころかギラギラとした目で俺を見ている。俺の向こうにある里を見ている。
そうか、そうかよ。
「なーなー、ろーおーくー……」
それでもゆっくりと数を数えていく。
カウントダウン。
兵士たちが動き出す。
竜化した天人族を抜けることが出来ないからか、こちらへと魔法や槍が飛んでくる。
「ごぉーお、よーおーん……」
俺は数字を減らしていく。
魔法の爆発がゴーレムを襲う。魔法の力でゴーレムの表面が汚れてしまう。ああ、魔法を無効化するマントを持ってくれば良かったな。ゴーレムが汚れてしまった。汚れた……だが、それだけだ。
「やった攻撃が通じたぞ」
「どうやら魔法に弱いようだ」
「魔法で脆くした場所に攻撃を続けろ!」
飛んできた槍はゴーレムに刺さることなく跳ね返っていた。あの異世界人の矢は刺さったが、さすがに普通の兵士の攻撃は通さないか。それこそ、そのままの意味でレベルが違うだろうからな。それにあれは人種の遺産だ。ただの槍と比べる方がおかしかったかもしれない。
「さあーん、にぃぃー、いいいいいいいいい、……ち」
兵士たちは無駄な攻撃を続けている。
逃げる兵士はいない。
これは優秀な兵士ばかりだと思うべきなのか、それとも相手の力量を読むことも出来ない愚か者ばかりだと思うべきなのか。
はぁ。
「……ぜろ」
カウントが終わる。
俺は忠告した。
撤退しなかったのは自分たちの意思だ。
それを尊重しよう。
俺はゴーレムを動かし、槍を構える。
そのままゆっくりと歩いて行く。
竜化した天人族たちも動きを止め、脇に避け、俺が進む道を作っている。
ゴーレムに驚いたのか動きを止めていた兵士たち。その集団の前に立つ。
「あ?」
「え?」
「かかれ! かかれー!」
はっと気付いたように兵士たちが叫び、動き出す。
俺は槍を持ったゴーレムを動かす。
槍で薙ぎ払う。
ただそれだけで、前列の兵士の体が千切れ、吹き飛んでいた。
一瞬にして命がいくつも、何百も、消えていく。
結局、こうなるか。
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