468 乱入者でした
殺す、か。
俺がこうやって考えている間にも戦闘は続いている。いや、戦争が、か。
……。
俺が迷っている間に全てが終わってしまうかもしれない。
はぁ、迷うことすら許されないのかよ。
魔人族のプロキオン、天人族のアヴィオール、蟲人のウェイ、獣人族のアダーラ……皆に会おうと思っただけなのにな。四種族だってさ、大陸の種族と敵対しようと思って敵対していたワケじゃあない。向こうから仕掛けてきたものなんだろう?
なんで、こんなことに。
異世界人を召喚してまで、なんで四種族を刺激するんだよ。
……。
はぁ。
愚痴っても何も変わらない。
選ぼう。
膝を付いた天人族の皆さんが俺を見ている。
「分かった」
俺は決める。
成り行きだけど、それでも俺は一応、四種族のトップだ。その責任を果たそう。
「お願いします」
天人族の皆さんの言葉を聞きながら俺は動く。
「助けてくるよ」
――[リターン]――
リターンの輪を作る。決めたからには急ごう。そのまま輪をくぐり抜け、神域に戻る。さあ、このまま天人族の里に戻ろう。
と、俺が考えていた時だった。
天人族の里に繋がっている輪から男が現れる。
「よっと、ここは何処だ? 見た感じ遺跡かよ」
まるで漫画の登場人物のように髪を尖らせた優男だ。そのとんがり髪の横からは羊のような角が見えていた。
「ん? 餓鬼か? こんなところにいる餓鬼がまともなワケはねえぇよなぁ」
とんがり髪の男が動く。
――[ロゼット]――
右腕に巻き付いていた蕾の茨槍が花開く。俺はそのまま盾に魔力を纏わせる。
右腕に衝撃が走る。
「ほう、受け止めたか」
とんがり髪の男の剣が盾に打ち付けられている。なかなかの力だ。油断すれば押し切られてしまいそうなほどだ。
とんがり髪の男の剣を持っていない方の手が動く。
「紡ぐ、切り裂く、刃」
とんがり髪の男が呟く。
魔法かっ!
俺の体に強い衝撃が走り、少しだけ後退させられる。
「硬いな。防がれるほどヤワく撃ったつもりはねぇんだがなぁ」
俺は盾形態の蕾の茨槍を振り払う。だが、その時にはとんがり髪の男は大きく後方へと飛び退いていた。
「何者ですか」
一応、俺は聞いてみる。どう考えても、あのアヒルの仲間だよな。だが、仲間を助けに来たという感じじゃあないな。
「おっと、喋るのかよ。この遺跡の守護者か何かか」
とんがり髪の男が剣を肩に乗せ、こちらを見てニヤリと笑っている。随分と余裕な感じだ。
「あのアヒル野郎のお仲間ですか?」
俺の言葉を聞いたとんがり髪の男が片眉を上げる。
「アヒル? ハワードのことか。あいつ、やられやがったのか。ははははぁはっは」
とんがり髪の男が笑っている。
「そのハワードさん、一応、生きてますよ」
機人の女王が変なことをしていなければ生きているはずだ。
「にしてもアヒル、ね。その言い方、まるで勇者のヤツらみたいじゃないか。関係が気になるところだなぁ。切断、刃」
とんがり髪の男の魔力に反応して風の刃が生まれる。
会話を続けるフリをして攻撃か。食えないヤツのようだ。
俺はとりあえず飛んできた風の刃の魔力を散らしておく。
「えーっと、大人しく降参するなら命は取らないであげますよ」
一応、忠告しておく。
「やるねぇ、やるねぇ。どうやったか分からないが、魔法が殆ど効かないようだなぁ。だが、そういうヤツは大抵、こいつに弱いんだよ」
とんがり髪の男が斬りかかってくる。
俺は急いでいるんだけどな。急いでいる時に限って面倒くさいことになる。というかさ、リターンの輪をくぐり抜けて来るヤツが居るとは思わなかったよ。その先に何があるかも分からないのに、危険だとか思わないのか。
俺は盾でその一撃を跳ね返す。
「ん?」
とんがり髪の男がその勢いに押され、たたらを踏む。そして、何故か、不思議そうな顔で俺を見ていた。
「あ? たまたまか?」
とんがり髪の男が再び斬りかかってくる。
俺はその一撃を跳ね返す。
とんがり髪の男が、よろけ、たたらを踏みながら後退する。
「おいおい、何をした?」
とんがり髪の男が不思議そうな顔で首を傾げている。傾げている場合じゃあないと思うけどな。
「どれだけやっても、見えてるから無駄ですよ」
俺は大きくため息を吐く。こんなことをしている場合じゃあないんだけどなぁ。向こうはまだ戦闘中だろう? 俺が早く助けに行けばそれだけ救える命も多くなるはずなのに。
「どうやら、こいつを解放するしかないようだなぁ。解放、嵐」
とんがり髪の男が剣を掲げる。すると、その剣から風の唸りが生まれ始めた。剣を中心として目に見えるほどの風が嵐となり渦巻く。
魔法能力を持った剣?
人種の遺産ではないようだけど、ちょっと気になるな。鑑定してみたいな。
「くらえぇぇぇぇッ!」
とんがり髪の男が嵐の渦巻く剣を振り下ろす。風の刃が俺へと迫る。
これは風と化した魔力の塊か。
俺はタイミングを見て、盾で風の刃を振り払う。嵐が霧散する。
「え?」
とんがり髪の男が俺に風ごと剣を振り払われ、よろめきながら後退る。
「な、んだと」
とんがり髪の男が驚いた顔で俺を見ている。
なんだか、凄い大物ぶって強者感を出しているけどさ、魔力が見えていない時点で話にならない。
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