466 捕虜を連行だ

 輪を抜ける。


「ここは?」

 そこは――当たり前だが、いつものように神域だ。先に輪を抜けていた天人族の皆さんが驚いている。おや? 知らなかったのか。まぁ、名も無き帝国に来ている天人族の皆さんでも神域に連れてきたことってあまりないからなぁ。里の方まで神域の情報が行っていないのかもしれない。


 ……。


 天人族の皆さんがキョロキョロと不安げな様子で周囲を見回している。


 物珍しいのかもな。まぁ、でも、ここはただの中継地点だ。


 目指すのは名も無き帝国の帝城だからな。


「ここはなんなんですかぁ!」

 アヒルが天人族の皆さんに押されるようにして神域に現れる。あー、こいつも居たか。まぁ、尋問しないと駄目だし、こいつも連れて行くしか無いな。


「えーっと、とりあえず次はこちらに」

 喚いているアヒルを無視して、帝城へと通じている輪を案内する。


「な、なにをする。私を誰だと思っている。真銀級の……」

 アヒルが小突かれ、帝城へと通じている輪に消える。アヒルは色々と喚いているみたいだけど、言葉が通じていないからなぁ。残念なヤツだよ。


 アヒルと天人族の皆さんが輪の中に消える。いやぁ、自分で出しておいてなんだけど、天人族の皆さんも、よく恐れずに、こんな得体の知れない輪の中に入れるよなぁ。何処に通じているかも分からないし、それどころか、輪の向こうに繋がった世界があるかどうかも分からないのにさ。


 ……。


 さて、と。


 俺も帝城への輪に入る。


「待っていたのじゃ」

 と、そこでは何故か機人の女王が待っていた。天人族の皆さんも待っている。


「空? ここは何処だというのですかー!」

 天人族の皆さんに囲まれたアヒルが叫んでいる。そういえば元気に喋っているな。折れたクチバシは治っているようだ。そういえば神域でも叫んでいたな。再生能力でも持っているのか、それとも魔法か。うーむ、この世界って回復魔法があるのかな。どうだったかなぁ。あったような、無かったような――まぁ、あってもおかしくないだろうな。四種族には回復魔法が無いようだけど、それは魔力を使って再生出来るからみたいだし、大陸の種族がそれを魔法で再現している可能性はあるな。


 だってさ、この世界の人間は魔素で作られているんだから、魔素に干渉する魔法なら治療が出来てもおかしくないだろ。


 ……。


 んー、でもさ、だからといって、このアヒルが回復魔法を使えるとは思えないんだよなぁ。もうすぐ真銀級という実力らしいけど、魔力の操作はダメダメだし、魔法が使えるようには見えないもんな。


 となると、回復のポーションか。その可能性は高いな。身ぐるみを剥いだり、道具を取り上げたりはしていないからな。多分、俺たちの隙を見てポーションを使って回復したのだろう。


 ふむ。


 これは、こいつ、何か行動を起こすかもしれないなぁ。


 ……。


 でもさぁ、回復しているのがバレバレなのはどうなんだ? 弱っているフリでもしていた方がいいんじゃあないだろうか。油断している俺たちの隙を突くならそうすべきだろ。


 ……。


 こんなのに天人族の里はやられたのか。いくら非戦闘員ばかりで、戦えるのが四人しかいなかったとしても、ちょっとなぁ。考えにくいよな? となれば、だ。他に仲間が居る可能性が高いか。


 と、考え込んでいる場合じゃあないな。


 機人の女王が俺を見ている。待っていたってことだけど、何かあったのかな?


「えーっと、それで何が……」

 と、その時だった。


 アヒルが動く。


 何処から取りだしたのかナイフを手にし、それを機人の女王の喉元に突きつけていた。

「動くな! 動くと、これを殺しますよ」

 俺は反応が出来なかった……ワケじゃあない。


 回復していた時点で何かやらかすだろうとは思ったけどさ、さっそくだなぁ。よりによって機人の女王を人質にするのかよ。しかも、共通語で脅しかけるのかよ。共通語が分かるのはここにいるメンバーだと俺と機人の女王だけだぞ。


 なんだかなぁ。


 本当に残念なヤツだよ。


 機人の女王が何気ない動きでアヒルのナイフを持った手を取る。

「へ?」

 アヒルが間抜けな声を出す。次の瞬間にはアヒルは投げ飛ばされ地面に叩きつけられていた。


 そのアヒルの顔面に機人の女王の拳が迫る。


「殺すな!」

 俺は慌てて叫ぶ。


 ここで殺されてしまうと情報の収集が出来なくなる。


 機人の女王の拳が寝転がったアヒルの顔面すれすれで止まる。その衝撃だけでアヒルの顔が酷く歪んでいた。


「えーっと、そのなんとかさんには色々と聞くことがあるので殺さないでください」

 機人の女王が能面のような顔のまま首を傾げ、俺を見る。

「分かったのじゃ」

 どうやら分かってくれたようだ。


「えーっと、それで待っていたということですが、何かあったんですか? 保護した天人族の皆さんに帝城を案内したいんですけど」

 この天人族の皆さんは帝城のことを知らないだろうからな。ここに連れてきてそのまま放置じゃああんまりだ。


「武器が出来たので母様を呼んで欲しいと言っていたのじゃ」

 機人の女王がそんなことを言っている。


 武器が出来た?


 誰が、が抜けているが、間違いなくミルファクのことだろう。いや、だってさ、ここに残っているのってミルファクと料理人の魔人族のお姉さんくらいじゃん。


 で、なんでミルファクが俺を呼んでいるんだ?


 俺、武器なんて頼んだ覚えがないけどなぁ。


 うーむ。


 まぁ、後で寄ればいいか。


「えーっと、とりあえず天人族さんを落ち着ける場所に案内しましょう。ミルファクのところは後で行きます」

「分かったのじゃ」

 機人の女王が頷く。


 まぁ、そういう感じで。

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