464 これが強敵?
「忌み子風情が、そのような態度を! 後悔しますよ!」
アヒルが細身の剣を構える。
「神技! ピアース」
構えから突きが放たれる。その速度は目で追うのがやっとだ。だが、逆に言えば目で追えることが出来るほどの速度でしか無い。赤髪のアダーラとかの目で追えないようなレベルではない。あれは頭がおかしいレベルだからなぁ。時魔法が無ければ対処が出来ないとか、ホント、頭がおかしい。
と、そんなことを考えている間に目の前に鋭い突きが迫っていた。考えている場合じゃあ無かったな。
俺はその目の前に迫る細身の剣を掴む。突きに特化されているからか、手が切れそうなほどの刃があるワケでもないし、掴むのは問題無いな。力を込め、突きを止める。神技と言っていた割りにはたいしたことがない。ただの少し? いや、異常に? か、とにかく素早いだけの突きにしか見えないな。
「馬鹿な!」
アヒルが叫び、
「とでも言うと思いましたか」
ニヤリと笑う。
ん?
次の瞬間、細身の剣から炎が巻き上がる。掴んだ俺の手から炎が燃え移り、俺の体を燃やす。
あー、鑑定にあったのはコレか。刃から火炎が生まれるってなっていたのに、普通の刃でおかしいなと思っていたんだよ。
そうか、コレか。
こういう感じなんだな。
「どうですか? これが私の遺物、私の二つ名の由来に持った神の業火ですよ。まさか、回避せずに掴むとは思いませんでしたが、これで終わりですよ」
この口ぶり、こいつの神技とやらが思ったよりもゆっくりだったのもわざとなのかもしれないな。避けたところで炎がどーんって感じで襲いかかってくるみたいな、さ。
里から火の手が上がっているのも、こいつの剣の仕業かもしれないな。
火が出る、か。
まぁ、びっくり特技だな。俺が今の俺じゃなかったら、危なかっただろうけどな。真銀級って名乗っているヤツが、こんな手品みたいなワザを自慢するようなので大丈夫なのか?
んで、だ。それは良いとして、なんで、こいつは俺を殺しにかかってるんだよ。俺を捕まえて情報を得るんじゃあなかったのか。俺に挑発されて、そのことが頭からポーンと抜けてしまったのか。
これが本当の鳥頭か?
……。
さて、と。
このまま炎に包まれていると装備品に傷が付くかもしれないし、なんとかしようか。この猫耳な真っ白のガーヴは吹雪に強いだけだからな。炎に対して何か特別に強いということは無いだろうからな。
俺はその場でくるりと素早く回転し、俺を覆っていた炎を吹き飛ばす。俺の魔力の壁に阻まれ、俺自身にまで炎は届いていなかったからな。吹き飛ばすのも簡単だ。今の俺は全身に魔力を纏っているからな、この程度の炎でどうにかなることはない。
まぁ、ちょっとびっくりするくらいだ。
「な、なんですとー!」
アヒルが大きく口を開け、間抜けな顔を晒している。
それじゃあ、終わらせるか。
「歯を食いしばれよ」
俺は拳を握りしめ、そのまま下から上に、アヒルの顔面へと叩きつける。アヒルの体が二メートルほど飛び上がり、そのままぐちゃりと落下する。
……。
ぐちゃり、か。
えーっと、これ、死んでないよな?
一応、真銀級の狩人とやらだから、生きているよな? この程度で死なないよなぁ。
「ひゃ、ふぁい、ひ、ひ、ろい」
アヒルがよろよろと動き、潰れたクチバシで何かを言っている。
お、生きている。
良かった。良かった。
にしても思っていた何倍も弱かったな。この程度のヤツに襲撃されて今の状況なのか? うーむ。
アヴィオールとか、同程度の強さの人が一人でも居れば何とかなりそうな感じだけど、どういうことだ?
俺は後ろで大人しくしてくれていた少女へと振り返る。
「えーっと、アヴィオールたちは?」
少女に聞いてみる。
「いない。ここは結界に守られてるから。ここ、戦えない人が隠れてる。長はもっと戦いが激しいところ」
少女がぼそぼそと喋る。
ん?
ああ。なるほど。
ここは吹雪の結界で守られていたから、天人族でも戦えない人が隠れている場所だったのか。ここも天人族の里だけど、アヴィオールたちは別の場所ってことか。
うーむ。
アヴィオールたちを他の場所で足止めして、その間に里を落とす作戦だったのかな。ここでも、(多分だけど)軍隊は千人くらいはいただろ? それが本隊じゃあないのかよ。となると、もっと激戦区はどれだけの大陸の種族が動員されているんだよ。何万、何十万か?
大陸の種族、数だけは無駄に多いなぁ。逆に四種族が少なすぎるだけか。蟲人は数が多かったけど、それでも数百人規模だもんな。大陸の種族と比べると桁が全然違うな。あー、でも、四種族でも獣人族は多かったんじゃあ無いだろうか。国が広かったし、王都? が立派だったもんな。
……。
まぁ、その王都の獣人は弓持ちのせいで全滅しているんだけどな。
はぁ。
「ひ、ひぃ、にげ、にげ、こ、こんあ、とこで、わ、わらひ、の、えいこうが、ひ、ひぃ」
と、そんなことを考えている間にアヒルが這って逃げようとしていた。
こいつには色々と聞きたいことがある。捕まえて尋問しよう。
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