463 真銀級の実力

 鋭い突き。


 なかなか速いッ!


 天人族の少女は驚き戸惑っている。俺は少女を守るように抱え、その場から飛び退く。


 アヒルの細身の剣がひゅっと俺の横を抜ける。


 俺で無ければ対応が出来なかっただろう。アヒル姿の間抜けな野郎なのになかなかやるようだ。異世界人にばかり注意を払っていたが、大陸の種族でもそこそこ戦えるヤツが居るようだ。


 ……。


 まぁ、それも当然か。


 大陸の種族の連中は異世界人を召喚するまでは、自分たちの力だけで四種族と敵対していたワケだからな。そこそこ戦えるヤツが居てもおかしくない。


「ほほう。私の一撃を躱すとは……偶然にしても、さすがは魔族というところですかな。ですが、この真銀級の狩人、双炎のハワードに二度目の偶然はありませんよ!」

 双炎のハワードと名乗ったアヒルが鋭い突きを放つ。


 俺は天人族の少女を庇いながら、その一撃を回避する。次々と放たれる突きを躱していく。


「ただの雑魚では無いということですか。いいでしょう、食らいなさい! はあぁぁ! 六連撃!」

 アヒルが細身の剣を縦に構え、そこから一瞬にして六発の突きが放たれる。これを少女を庇ったまま回避するのは難しいか。


 俺は茨の巻き付いた右腕に魔力を込め、茨部分でその突きを受ける。アヒルの持った細身の剣が硬いものに当たったように握っていた翼ごと跳ね返る。その衝撃で俺の猫耳フードが外れ、その下にある俺の顔が、獣耳が露わになる。


 獣耳を見られたか。まぁ、ゴーグルがあるから俺の顔までは分からないだろ。


 アヒルが大きく飛び退き、細身の剣を縦に構え、ため息を吐く。


「その姿、忌み子ですか。どうやらそれなりの遺物を手に入れ、その力を自分の力だと勘違いして魔族の配下になったというところですか。今ならまだ間に合いますよ。遺物を私に渡して謝罪するのです。そうすれば命だけは助けてあげましょう」


 俺は大きくため息を吐く。相手が距離を取ってくれたからちょうどいい。

「少し下がっていてください。えーっと、守りながらだとちょっと大変なので」

「わ、私も戦う!」

 少女は一緒に戦うつもりのようだ。その覚悟はありがたいが邪魔になるだけだ。

「えーっと、あなたはアヴィオールくらい強いですか? そうでないなら下がっていてください」

 天人族の少女が驚いた顔で俺を見る。そして少し悔しそうな顔で下がる。


「何をごちゃごちゃと喋っているんです。どうやら、この忌み子は魔族の言葉が分かるようですね。もしかするとこれは予想外に拾い物かもしれませんね」

 俺はもう一度ため息を吐き、肩を竦める。

「あんたが喋っている共通語、理解しているよ」

 俺は喋りながらタブレットを取り出し、かざす。

「これは意外。言葉が分かるなら話が早いですね。お前は私のために働きなさい。真銀級の狩人である私の役に立つ、これは忌み子のお前では考えられないほどの好待遇ですよ」

 アヒルが何か言っているが、意味が分からない。俺の共通語スキルのレベルが悪いのだろうか。


「双炎のハワードさん、ここを襲撃したのはあんたか? 他に仲間は居るのか?」

「忌み子風情が私の名前を呼ぶとは……まぁ、今は作戦が成功して良い気分です。おおらかな気持ちで許しましょう。さあ、早くこちらに来なさい」

 駄目だ。話が通じない。


 まぁ、作戦が成功したとか言っているくらいだから、襲撃したのはこいつだろうな。もしかしたらこいつらなのかもしれないけどさ。それが知りたかったんだけどなぁ。


 ……。


 タブレットに鑑定結果が表示される。



 名前:真銀のフルーレ火炎

 品質:高品位

 錆びない金属である真銀で作られたフルーレ。その刃からは火炎が生まれる。


 おや?


 このアヒル自体を鑑定したつもりだったが、持っている武器の方が表示された。高品位の武器か。割と良いものをもっているようだ。火属性の武器を持っているから双炎なんて二つ名をもらったのかな。


 当たり前だが、人種の遺産では無いな。


 俺は右腕に巻き付いている蕾の茨槍を槍の形態に戻す。

「双炎のハワードさん、あんたがここの襲撃者なら、俺はあんたを拘束しないといけない」

 俺は槍を構える。

「忌み子が! 忌み子風情が! 私にそのような態度をとって許されると思っているのですか! お前のような忌み子は! 真銀の狩人である私を見ることすら許されていないのですよ! そんな忌み子が!」

 アヒルが顔を真っ赤にしてそんなことを言っている。こんなヤツの相手をしている場合じゃあないんだけどな。まぁ、間違いなく、こいつが襲撃者だろうから、拘束して連れて行けば、何か情報を得られるだろ。それにこいつを放置しておくと、この里にさらなる被害が出るかもしれないしな。


「いいから、かかってきてください」


 俺の言葉に憤慨したアヒルが顔を真っ赤にして突きを放つ。


 速い。


 確かに速いな。速く鋭い一撃だ。


 俺はその一撃を蕾の茨槍で打ち払う。


 だが、追い切れないほどじゃあない。常識的な範囲に収まっている。


 次々と放たれる突きを打ち払っていく。


「なぁ、真銀の狩人とやらはこの程度なのか」

「忌み子が! 遺物を手に入れたからと! 武器の力を自分の力と勘違いした忌み子風情が!」

 アヒルが叫んでいる。こいつ、こんなに怒りぽくて大丈夫なんだろうか。よく、こんなのを真銀級とやらに置いているな。確か、一番上のランクだったよな?


 はぁ。


 心を折った方が尋問する時に素直に口を割ってくれるかもしれないな。


 となれば……。


 俺は蕾の茨槍を地面に転がす。


「そこまで言うなら武器無しでやってやるよ」

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