459 ブリザードだ
さっそくリターンの輪を抜け、雪原へ向かう。この雪原もさ、獣人国の領地なんだろうか。まぁ、そうだろうと、そうで無かろうと俺には関係無いか。国の領地なんて、関所でも無ければ分からないし、どうでもいい話だしな。
俺はとにかく進むだけだ。
というワケで第一歩。
リターンの輪から飛び出た俺は、真っ白なブーツで降り積もった雪の大地へと踏み出す。
……。
うん?
へ?
あれ?
な、なんだコレ。
よ、は、と。
踏み出した足が雪を踏み潰さない。
足が!?
俺の足が雪の上に浮いているような感じだ。踏みしめることが出来ず、滑って転けそうになるが、滑らない。
そう、滑らないのだ。
そうなるとどうなるかというと、俺は雪の上で足をジタバタと動かすことになる。これは、アレか、初めてスケート靴を履いてスケートリンクに立ったような感じか?
踏ん張れない、立てない、なのに転けることも出来ない。
このブーツ、癖が強すぎる。
癖が強すぎるぞ!
矛盾しているようだが、滑るのに滑らないから滑る!
異常事態だ。
と、とにかく慣れよう。う、上手くバランスを取れば、うおぉぉ、片方に傾いて、それを直そうとするとそちらに滑って、いや、滑ってはないんだけど、そうとしか言えないというか……とにかく真っ直ぐに立つのも難しい。
じたばた。
じたばた。
そういえば、この体になった時も苦労したなぁ。あの時は大変だった。二本足で立つというのがどれだけ大変かということを思い知ったもんな。
……。
って、そうだ。
俺はその時のことを思い出し、今、自分にそれがあることも思い出す。
尻尾!
そうだ、尻尾でバランスを取ればいいんじゃあないだろうか。俺は尻尾を雪の上に落とし、バランスを取る。
お、よ、は!
冷たっ! 雪が冷たい。
だがッ!
右に倒れそうになれば尻尾を左に、左に倒れそうになれば尻尾を右に、尻尾をふりふりと動かしてバランスを取る。
これでなんとかなりそうだ。後は徐々にこの感覚になれれば良いだろう。
って、寒い。少し寒くないか。
両腕を抱え、ブルリと体を震わせ、寒さに耐える。このマント、氷属性があって、吹雪には強いみたいだけどさ、寒さまでは防いでくれないようだ。いや、吹雪を防ぐ性能を確かめたワケじゃあないから、本当に吹雪に強いかは分からないんだけどね。とにかく寒さに対しては何も対策が取られていないようだ。所詮、マントだからなぁ。身につけて暖かいってシロモノでも無いしさ。
……。
とりあえず俺は纏った魔力で寒さを誤魔化す。
ふぅ。
これさ、このマントってさ、こうやって寒さを防ぐ前提の装備だよなぁ。まぁ、ミルファクに寒さのことに関しては大丈夫だって言ってしまったのが悪かったかもしれない。だから寒さに関しては無視したのかもしれない。いや、でもさ、俺、防寒着を頼むって言ったよな?
寒さに強くない防寒着とは……?
……。
ま、まぁ、考えても仕方ない。
とにかく進もう。
北を目指して冒険だな。
改めて一歩踏み出す。その足がするっと滑る。いや、滑ってはいない、いないんだけどさぁ。しまらないなぁ。
……。
……。
……。
そして、次の日。
俺は雪原を、雪の上を滑っていた。いや、滑ってはいない。滑空していると言うのだろうか、滑るのを防ぐ力を利用して、飛んでいるような感じだ。反発する力を利用しているって言うんだろうかな。これ、どんどん速度が出て面白いんだよな。
すでに音は置き去りにした!
びゅーんとな。
雪の上を飛ぶ。吹っ飛んでいると言った方が良いかもしれない。バランスが崩れそうになれば尻尾を動かし、角度を調整する。
滑る雪の上限定でしか使えないだろうけど、面白すぎる。まぁ、難点は止まり方が分からないってことだな。頭から雪に突っ込んで、そのままゴロゴロと転がればいいのだろうか。
……。
ま、まぁ、その時になってから考えよう。最悪、目の前にリターンの輪を作って、神域に飛ぶって方法もあるしさ。
……どちらにしても体が丈夫じゃないと出来ない止まり方だなぁ。
雪の上を滑り、それを止めようとする力を利用して、びゅーんと雪原を飛ぶ。
昨日は尻尾でバランスを取ってなんとかしようと思っていたのに、なんでこうなったんだろうか。いや、尻尾は活用しているんだけどさ。
……考えたら負けだな。
ん?
進行方向。俺が進んでいる先の空が曇っているな。この雪原地帯に入った時も空が暗闇に包まれたけど、その比じゃあ無いな。
暗闇に近づくにつれ、ごうごうと強い風の音も聞こえてくる。
ヤバいくらいの轟音だ。
って、アレは?
風か、氷か。竜巻のように蠢く風の中をキラキラと氷の粒が舞っている。
吹雪か?
ブリザードだ!
不味い、ヤバいッ!
そして、俺は加速した勢いのまま吹雪く暗闇の中へと突っ込む。
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