457 雪対策をする

 自室で寝て、起きる。


――[サモンアクア]――


 魔法で水を生み出し、顔を洗う。魔法の便利さを体感し、そのまま食堂に向かう。


 さあ、今日の朝ご飯は何かな、と。


 ん?


 食堂には徹夜明けのような疲れ切った顔のミルファクの姿があった。

「えーっと、おはようございます」

 俺はミルファクに朝の挨拶をしながら席に着く。ミルファクはこちらに気付いていないのか、俺を無視するように、もそもそとうどんのようなものをすすっていた。


 うどん、か。


 よし、俺もうどんにしよう。朝から、がっつりとうどんだが問題ないだろう。うむ、何も問題無い。ここ最近、うどんばかりのような気もするけど……それも問題無いだろう。だってさ、うどんなら毎日食べても問題無いからな。


「えーっと、すいません。こちらにもうどんをお願いします」

 俺は厨房の奥で作業をしていた魔人族のお姉さんにうどんをお願いする。


 さて、と。


「えーっと、ミルファクさん。頼んでいたものはどうなりました?」

 ミルファクが初めてこちらに気付いたといった感じでゆっくりと顔を上げる。

「ああ、帝かい。頼まれていたものから完成したさね」

 そう言ったミルファクの目の下には隈ができ、とても疲れ切った顔をしていた。


 うーむ。


 とても一日徹夜しただけの顔とは思えない。


「えーっと、あのー、大丈夫ですか? 一日で随分と疲れ切っている感じですけど……」

「……これは、一週間分の時間を使っているからさね」

 ミルファクはそんな言葉を俺に返していた。


 って、え?


 今、ミルファクはなんて言った?


 一週間?


 って、まさか。


 またなのか。


 俺は一日だけ眠ったつもりだったけど、違っていたのか。一週間も眠っていたのか!


 マジかよ!


「あの、えーっと、まさか、ですけど、自分はミルファクに仕事をお願いしてから一週間ほど眠っていましたか?」

 聞くのが怖いが、聞かねばならないだろう。

「何を言っているさね。昨日の今日で、それは私が時間を……」

 と、ミルファクはそこまで口にして、ハッと何かに気付いたかのように言葉を止め、俺を見る。


 ……。


「あの、えーっと……」

「た、頼まれものは作業場にあるさね。勝手に持っていけばいいさね」

 ミルファクはそれだけ言うとうどんを一気にかっ込み、逃げるように食堂から出て行った。


 あ、えーっと、どういうことだ?


 ……。


 俺は俺の分のうどんがやって来るのを待ちながら、腕を組み考える。


 ミルファクが言っていたこと。


 一週間。


 俺だって馬鹿じゃない。そりゃあ、確かにお馬鹿な行動をとることは多いけど、さすがに何も気付かないほど馬鹿じゃあない。


 俺がミルファクに仕事を依頼してから、まだ半日しか経っていない。昨日の今日だってことだよな? 一週間では無い。これは間違いないだろう。

 そして、疲れ切った様子のミルファク。一週間分の時間を使ったという言葉。


 このことから導き出される答えは……。


 多分、アレだ。


 某漫画にあった精神と時の部屋――外とは時の進みが違う感じの部屋。そんなものがあるんじゃあないだろうか。それならミルファクの何日も徹夜したような疲れ切った顔も納得だ。


 ……。


 でも、本当にそんなものがあるのだろうか? 時を操る。加速させる。それはもう人種の遺産みたいな自然の法則を無視したシロモノだよな?


 ……。


 人種の遺産、か。


 だから、隠したんだろうか。秘密にしたんだろうか。


 ……。


 まぁ、隠そうとしていることを無理に暴く必要は無いか。


 ミルファクが俺の、俺たちの仲間なのは間違いない。下手なことを言って機嫌を損ねるようなことはするべきじゃあないだろう。


「今日のうどんです」

 俺がそんなことを考えていると魔人族のお姉さんがうどんを運んできた。


 わあい、うどんだ。


 うどんを食べよう。


 もしゃもしゃ、ずるずる。


 もしゃもしゃ。ずずずず。


 ……。


 ……。

 ……。


 食事を終え、ミルファクの鍛冶場へと向かう。


「たのもー」


 ……。


 なんの反応も返ってこない。


 鍛冶場にミルファクの姿はなかった。自室で寝ているのかもしれないな。


 俺は鍛冶場を見回す。


 お!


 多分、アレだな。


 鍛冶場に置かれたテーブルの上に、これ見よがしにそれは置かれていた。


 三つのアイテム。


 マスク付きのゴーグル。ぱっと見、ガスマスクみたいだな。


 フードのついた真っ白なマント。体の小さい自分だと包まれるくらい大きなマントだ。しかもフードには何故か猫耳がついていた。って、今の俺は頭の上に耳があるんだから、この形状じゃないと駄目なのか。


 膝くらいまでありそうな白いブーツ。もこもことして暖かそうだ。


 この三点がミルファクが作成した雪対策装備なのだろう。


 ふむ。


 全部、真っ白なシロモノだな。真っ白な雪の中だと、これを装備した俺の姿は隠れてしまうんじゃあないだろうか。


 ……。


 まぁ、別に誰かと一緒に行動しているワケでも無いし、それでも構わないか。


 というワケで、さっそくだけど鑑定をしてみよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る