456 知ってるよね
「たのもー」
「何の用さね」
俺が帝城にある鍛冶場に入ると、そこには何処かうんざりしたような顔のミルファクの姿があった。もしかすると俺がゴーレムの動力を早く作れ、と急かしに来たと思われたのかもしれない。
「えーっと、今回は動力の件ではなくてですね、防寒着が欲しいなっと思って、何かそれに近いものがないかと……何か無いですか?」
「何故、それを私に言うのさね」
ミルファクが片目を歪め、呆れたような顔で俺を見る。
「いや、えーっと、物作りなら鍛冶士であるミルファクに頼むのが一番かなーっと思いまして、です」
俺の言葉にミルファクが大きなため息を吐く。
「帝のあんたなら、寒さから身を守る術を持っていると思ったんだがね」
なるほどなー。
確かにそうなんだけどさ。魔力を纏えば寒さを防ぐことは出来る。今の俺なら、普通にそれくらいは出来るんだけどなぁ。
「あ、えーっと、確かに寒さは大丈夫なんですが、吹雪いたら危険だなっと思ったんです」
そうなんだよなぁ。魔力で寒さはなんとかなってもさ、足が雪で埋まったりとか、吹雪で前が見えなくなったりとか、そういう問題があるだろ? それをなんとかしようと思ったワケだ。
前に獣人国に行った時は天人族のアヴィオールと蟲人のウェイに無理矢理連れて行かれてさ、防寒具を用意する暇なんて無かったからなぁ。アレは無茶だった、うん。
今回は好きな時に帝城に戻れるワケだし、それなら準備万端で進もうと思ったワケなのだよ。
「そうさね……」
鍛冶士のミルファクは俺の意図を理解してくれたのか腕を組んで考え込む。
「あ、えーっと、無理なら、それは仕方ないので……」
「無理なことかい。私に任せればすぐさね」
鍛冶士のミルファクが何処か食い気味に用意するアピールをしてくる。
「あ、はい。お願いします」
これで大丈夫そうだ。と、そんな風に安堵していた俺にミルファクが話しかけてくる。
「帝、あんたが行こうとしているのは天人族のところなのかい?」
なんだ、なんだ?
「あ、はい。えーっと、ミルファクは天人族の里が何処にあるのか知っているんですか?」
知っているならミルファクに案内してもらうのが一番かもしれない。これで楽が出来るぞ。
「知らないさね」
って、知らないのかよ。ま、まぁ、ミルファクは俺が皆に会うために天人族の里に向かっているのは知っているだろうし、なんで改めて聞いて来たんだろうって思ったけどさ。だから、場所を知っているって言おうとしたのかなぁ、なんて思ったんだけどさ。
うーむ。
ミルファクが何を聞きたかったのかいまいち分からないなぁ。
ま、まぁ、とにかく防寒具を用意してくれるなら、それで良しとしようかな。
「分かりました。それでは、えーっと、自分は自室でゆっくりしているので、準備が出来たら教えてください」
俺はミルファクに挨拶して鍛冶場を出ようとする。
「帝、気を付けるのさね。吹雪は天人族の里を守る結界みたいなものさね。そして、やつらはそれを破る遺産を使えるようにしたってことさね」
その俺にミルファクはそう忠告してきた。
……。
って、知っているじゃん。これ、ミルファク、絶対に知っているヤツじゃあないか。天人族の里を知っているヤツじゃあないか。あー、もう、言いたくないだけ、隠しておきたい何かがあるだけなのか。多分、そうなんだろうな。
ヤツらというのは大陸の種族のことだろうな。んで、今までは吹雪があって攻めることが出来なかったけど、それを突破するのにちょうど良い、人種の遺産が手に入ったと、そういうことなんだな。なんでミルファクがそれを知っているのか、凄く突っ込みたい、聞きたいところだけど、教えてくれないんだろうなぁ。
ミルファクも謎の多い人物だしなぁ。思わせぶりなことばかりしてくるしさ。魔人族の里で鍛冶士をやっていたみたいだけど、魔人族では無いし、魔人族が良く分からないまま敬意を払っていたようだし……。
ミルファクさ、大陸の種族でも無いみたいなんだよな。まぁ、大陸の種族だったら魔人族が敬意を払うことなんて無いだろうし、ホント、謎だよなぁ。
人種の遺産に詳しいのも、まるで見てきたみたいに把握しているのも怪しいよなぁ。
怪しいよなぁ。
俺は振り返ってミルファクを見る。ジロジロと見る。
「あ、えーっと、色々と聞きたいことはありますけど、聞きません。ミルファクが自分に言いたくなったら、明かしたくなったら、その時、教えてください」
「……時が来れば」
ぽつりと呟いたミルファクに手を振り、俺は自室に戻る。
さあてと、明日に備えて寝ようかな。
どんな防寒具を用意してくれるか楽しみだな。ミルファクなら明日には持ってきてくれるだろうな。
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