395 ずるをする

 この六人が持っている人種の遺産は、と。


 大人しい少女が探知系。

 髪の尖ったガラの悪い少年が怪力系。

 眼鏡の少年が引き寄せる系。

 背の低い少年が回復系。

 太っちょの少年が防壁系。

 目つきの悪い少女が捕縛系。


 という感じか。


 なかなかバランスの良い配分じゃあないだろうか。まぁ、そうなるようにパーティを組んでいるのだろうから、それも当然か。

 んで、この中で一番ヤバいのは目つきの悪い少女の捕縛系だよなぁ。まぁ、あくまで単独行動している俺だとヤバいってだけの話だけどさ。


 うーむ。


 この子らが持っている人種の遺産は、見事に便利系のアイテムばかりだな。持っているスキルは分からないけれど、魔力を使うスキルや魔法は俺なら何とでも対処が出来るし、困るものじゃあないな。人種の遺産さえなくなれば、この少年少女たちは俺にとって無害だ。


 ……まぁ、あの肉の塊に変異したらヤバいけどさ。


 さて、と。


 ちょうど、一番ヤバい人種の遺産を目つきの悪い少女が手に持っている今がチャンスか。この子らが持っている能力の亜空間? みたいなところに隠されたら、対処出来ないからな。


 うむうむ。サクッと終わらせよう。


 どうやら少年少女たちは自分たちの話し合いに夢中に俺の方に注意は向けていないようだ。大チャンスだ。


 俺は身を屈め、駆ける。


 一瞬で目つきの悪い少女から紐を奪う。


 ……。


 なるほど。


 この紐が人種の遺産で間違いないようだ。


 頭の中に使い方が、性能が流れ込んでくる。


 射程範囲内に入った対象を捕縛し、使用者の許可がなくては動けないようにする。そう、文字通り動けなくする。例えば呼吸を止めるとかも可能だ。この人種の遺産の持ち主が許可しない限りは呼吸すら出来ないとか、狂ってるな。自由に、それこそ排泄とかすら出来ないように行動を止めることも可能。こんな馬鹿みたいな能力で、しかも範囲内なら必中らしい。無茶苦茶だ。


 こんなん使われていたら洒落にならなかったぞ。真っ先に奪うことが出来て良かった。


 ホント、正しくチートだな。ぶっ壊れすぎる性能だろう。


 こんな壊れ性能なアイテムはすぐに壊しておこう。そうしよう。


 魔力を込め、紐を引きちぎり、バラバラにする。よし、これで破壊完了。


「あれ? 私の魔導具、消えたんだけど。落としたのかな」

「しっかりしてくれよ」

「はぁ? ゴトーが駄目になったからってすぐに偉そうにしてさ、何さ」

「な! 一軍にいるべき僕が君たちのためにここに……」

 少年少女たちは何やら言い争いを続けている。


 ホント、どうしようもないなぁ。どんなに優れた道具を持っていても使う側が未熟だとどうしようもないって見本だな。


 んで、と。


 次に狙うのは……。


 太っちょ君の人種の遺産だな。侵入を許さない防壁的な人種の遺産も危険だからな。使い方によっては何も出来ず完封されかねない。

 んで、太っちょ君が身につけている物で、どれがその人種の遺産かということだけど、実はすでに目星がついている。


 太っちょ君の防壁は今も発動しているらしい。ということは必ず手元にあるということだ。そして、太っちょ君の指には指輪がはまっている。


 これは偏見かもしれないけど、太っちょ君みたいな子がお洒落で指輪とかするかなぁ?


 しないよな?


 まぁ、偏見で申し訳ないけどさ。


 というワケで、アレを奪ってしまおう。これを奪うことが出来れば、後の人種の遺産で怖いものはない。まぁ、一人一つという前提が間違ってなければ、だけどさ。


 というワケでさっそく奪ってしまおう。


 ……。


 はい、奪いました。


 背後からゆっくりと近づき、太っちょ君が指を広げた瞬間にスポッと引き抜きました。


 ……。


 なるほど。


 これも人種の遺産で間違いない。


 能力は……防壁ではなく、侵入を防ぐ、か。これ、俺が思っていた以上に最悪で酷いシロモノだぞ。奪っておいて良かった。洒落にならない道具だ。

 侵入を防ぐんだけど、これ、どんなもので侵入を防げるみたいだな。例えば空気、とか。しかも、周囲の魔素の濃さに影響されるみたいだけど、好きな形、好きな大きさで、その侵入を防ぐ壁を作れるようだ。例えば、四角い形で敵を囲んで空気の侵入を防ぐとか、そういう使い方も出来る。


 無茶苦茶だ。


 ま、まぁ、防壁の内から外に出るのは自由みたいだから、もっと瞬殺的な使い方をしないと駄目だろうけど、それでも色々と出来そうな感じだよなぁ。


 ホント、人種の遺産がチート過ぎて困る。


 こんなものが残っていたら世界が崩壊するんじゃあないか。


 ということで、これも破壊しよう。


 魔力を込めて指輪を握りつぶす。


 これでこの少年少女たちを守っていた防壁はなくなったワケだが、気付いていないようだ。指輪を奪われた太っちょの少年を含め、誰一人としてそのことに気付いていない。


 よしよし、順調だ。


 にしても、手に入れただけで使い方が分かるとか便利すぎるよなぁ。


 それも含めてチートだよなぁ。


 少年少女たちは自分たちの言い争いに夢中で俺を放置している。さあ、残り四つもさくさくっと終わらせるぞ。

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