396 持ち腐れだ

 後は、と。


 次に奪うべきなのはどれか、だよなぁ。


 狙うべきなのは眼鏡君のお取り寄せな人種の遺産なんだろうけど、それを奪おうとするとさすがに俺の存在がバレてしまうだろうからなぁ。首飾りをバレずに奪うのは……さすがに、ちょっと難易度が高い。


 んで、一番どうでも良いのが背の低い少年の治療用の人種の遺産だ。俺にとって脅威になるような能力でもないし、奪い取るのも簡単だ。


 というワケで、だ。


 次に奪うのは草だらけになって転がっている尖った髪の少年の人種の遺産だ。問題はどれが人種の遺産か分からないってことだよなぁ。まぁ、適当にガサゴソと探してみれば分かるか。


 ヒュッと一瞬で転がっている少年の前に移動する。そのままガサゴソと人種の遺産らしきものが無いか探す。


「こ、ひゅー、こひゅー」

 荒い息が聞こえる。草まみれだが、まだ尖った髪の少年は生きているようだ。といっても虫の息だけどさ。うーん、草が生えただけで死にそうになるって、この世界でこれから生きていけるのか心配になるレベルだなぁ。

 いや、ホント、このままだと死んでしまうだろうな。背の低い少年も助けてやれよ、と思わないでもないけど、まぁ、助けることはないだろうな。恨みがこもっている感じだったしさ。


 助けろ、か。


 ……この事態を作り出した俺が言えたことじゃあないか。


 でもさ、このままだと人殺しになるんだぜ。見捨てたことになるんだぜ。


 なんとも思わないのかなぁ。


 ……思わなさそうだなぁ。


 想像力が欠如しているというか、ゲーム感覚というか。


 っと、人種の遺産を発見。まさか、尖った髪の毛の中に隠しているとは……。


 隠していたというか、ヘアバンドだったから自然と隠れてしまったというか、とにかくこれが人種の遺産のようだ。


 能力は……なるほど。


 これは、なんというか説明が難しい能力だな。今までのチートとしか思えない人種の遺産と比べたら随分と控えめというか微妙な能力だけど、うーむ、使い方次第か?

 簡単に言うと見た目が変わることなく、筋力が一から十倍になるって感じだろうか。筋力が十倍になったら、そりゃあ凄いけどさ。でも、それくらいなら魔力を循環させることで代用が出来るし、割と微妙じゃあないだろうか。

 まぁ、あくまで筋力だから、瞬発力を上げるとかにも使えそうだし、目の筋力を強化してものをよく見えるようにするとか出来そうだけどさ。怪力、みたいな単純な使い方をしていると勿体ないタイプの人種の遺産だな。


 というワケで、だ。


 魔力を込めてヘアバンドを破壊する。


 さあて、残りは一気にやろうか。一個一個バレずに奪うのは無理だろうしな。


 まずは大人しそうな少女の人種の遺産からだ。


 怯えるような、それでいて冷めた目で背の低い少年たちの言い争いを見ていた大人しい少女のところまで移動する。そして、力任せに円盤のようなそれを奪い取る。

「え? な、何?」

 少女は俺の動きが早すぎて何が起きたか分からないようだ。思考が追いついていないように見える。


 うんで、この能力は……。


 周囲の地形と、敵対反応の表示か。これがあれば迷宮の攻略なんて楽勝じゃあないか。迷宮の構造が全て表示されている。

 魔力を込め、円盤形の人種の遺産を破壊する。まぁ、迷宮攻略に使えば便利だろうけど、俺が保管しておくのはなぁ。奪い返された時が怖いから、油断せず、壊せる時に壊しておこう。


 んで、次は。


 眼鏡の少年の背後に回り込み、首飾りに手をかける。


 ああ、これも人種の遺産で正解か。


 どういった能力かと思ったら、指定した人や物を引き寄せる能力か。うんで、その呼び寄せ方法が無茶苦茶だな。

 例えば『こちらに敵意を持った青い服の少年』とか、そういう単語の組み合わせで指定するようだ。対象が多かったり、曖昧すぎると発動しないようだが、見たり指定したりではなく、単語で呼び寄せられるって便利すぎないか。

 だから、俺もお取り寄せされてしまったのか。


 防げない上に、こんなんじゃあ、無茶苦茶だな。これもホント、チートって言っていいような道具だよなぁ。というワケで破壊する。


 魔力を込め首飾りを引きちぎる。


「僕の魔導器が。誰かいる! 襲撃されている」

 眼鏡の少年が気付き、叫ぶ。


 だが、もう遅い。


 俺はそのまま背の低い少年のところへと走り、手に持った小さな杖を奪う。


「目で追えないほど早い何かが居る! 気を付けてください!」

 眼鏡の少年の警告。だが、もう遅い。


 何度でも言うが、だが、もう遅い!


 魔力を込め、小さな杖を破壊する。部位の欠損すら治す再生効果らしいが、まぁ、俺には不要だな。


「残像? あ、僕の神器が!」


 というワケで、コンプリートだ。


 この少年少女たちが持っている人種の遺産の破壊が完了だ。


 ……。


 見つかる前に離れよう。


「あの子がいない!」

「まさか連れ攫われたのですか」

「警戒して」

「神器がないよ! どうするんだよ」

 少年少女たちが騒いでいる。


 人種の遺産がなくなったけど、戦う力がなくなったワケじゃあない。神様とやらから授かったスキルや魔法があるだろ?


 君たちならきっと大丈夫だ。


 頑張って生き残ってくれたまへ。


 ……。


 人種の遺産を使いこなせないお馬鹿さんたちばかりで助かったな。六つも破壊出来たのはラッキーだったよ。というワケで、ちょっとした寄り道になったが、このまま迷宮の最下層を目指して進もう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る