394 全て判明だ

 ガラの悪い少年は動かなくなったけど死んでいるワケじゃあないだろう。気絶したか、動けないほど弱ったか、まぁ、そんなところだろう。


 んで、だ。


 このまま人種の遺産を頂いてしまおうか。


 と、そんな風に俺が考えていると、転がっていた背の低い少年の方がピクリと動いた。どうやら息があるようだ。


 背の低い少年がゆっくりと手に持った杖を自分に叩きつける。すると、まるで時が戻っていくかのように背の低い少年の傷が治り始めた。

 そういえばこの少年の人種の遺産は傷を治すようなものだったか。


「いた、痛い、痛い、凄く痛い! くそ、痛い!」

 背の低い少年が痛みにもだえ、転がる。だが、傷は治ったようだ。


 背の低い少年がゆっくりと立ち上がり、全身草だらけになって動かなくなっている尖った髪の少年のところまで歩く。


「馬鹿力しか取り柄がない癖に、貴重な回復の神器を持った僕を、な、殴るとか! 僕に何かあったらどうするつもりだったんだよ! お、お前みたいな有象無象の代わりがある魔導器とは違うんだ。選ばれた、この僕が、お前なんかに! 前の世界と同じだと思ったのか! 死ね、死ねよ」

 背の低い少年が草まみれになって動かないガラの悪い少年を蹴る。何度も蹴る。恨みが積もり積もっているのか何度も蹴る。蹴り飛ばす。


 そして、怯えたように座り込んでいた大人しそうな少女の元へと歩いて行く。

「チマキさん、大丈夫だった? 僕はこの下種と違って紳士だから」

 背の低い少年が座り込んでいる少女に手を伸ばす。だが、少女は怯えたように首を振り後退る。背の低い少年は少しだけ不愉快そうに顔を歪め、舌打ちする。そして、今度は俺の方へと振り返る。


「もう大丈夫だよ。って、言葉が分からないよね」

 背の低い少年はそんなことを言っていた。


 ……。


 うーん。


 この少年は何がしたいんだ?


 ヒーロー気取りか?


 異世界に来て英雄にでもなったつもりか?


 多分だけどさ、そこに転がっているガラの悪い少年がこのメンバーの中で攻撃を担当していたんだよな? 好戦的だし、怪力になる人種の遺産を持っているようだし、間違いないだろうな。うんで、一人が回復、一人が周囲の感知、一人が引き寄せを担当か。残りの二人は分からないけど、どう考えても攻撃を担当しているとは思えない。

 そんなメンバーで唯一の攻撃役が死にそうなんだけど、いいのか?


 ここって迷宮の中だぜ。いつ、魔獣が湧いてでてくるか分からないような場所でのんきすぎないだろうか。


「チョロ、防壁は?」

 背の低い少年が小太りな少年に確認する。

「だ、誰がチョロだよ。ゴトウ……くんが動けないからって偉そうに」

「チョロ、お前が怪我しても治さないぞ」

「僕はチョロじゃない」

「チョロ、お前も元の世界と同じつもりなのかよ。選ばれた僕とモブのお前では立場が違うんだよ」

 背の低い少年がニヤニヤと嫌な笑顔で太った少年を見ている。さっきまではこの背の低い少年も大人しかったのになぁ。ガラの悪い少年が元気だったから大人しくしていたのかもしれないな。んで、ガラの悪い少年が動けなくなってチャンスだと反旗を翻したと。これがこの少年の本性なのかもしれないな。


 で、だ。


 こんなマウント合戦をしている場合じゃないだろうになぁ。


「僕の防壁の神器は働いているよ。タカギくんの取り寄せでもなければ、モンスターは侵入出来ないよ」

「チョロ、お前の魔導器がいつから神器になったんだよ」

「う、うるさいな」

 お、なるほど。


 そこの小太りの少年の人種の遺産は防壁って能力か。多分だけど、侵入を防ぐような能力じゃあないだろうか。多分、魔法やスキルなんかも全て防ぐんだろうな。人種の遺産ならそれくらいの能力があってもおかしくないからな。


 んで、同じ人種の遺産のお取り寄せなら抜けることが出来ると。


「僕はモンスターを引き寄せていない。間違って取り寄せてしまった、その猫耳の女の子だけだ」

 眼鏡君が眼鏡をクイッと持ち上げている。


 これで人種の遺産の能力が分かっていないのは目つきの悪い少女だけか。


「やっぱりそういうことか」

 背の低い少年がそんなことを言いながらニヤリと笑う。


 というか、そろそろ転がっているガラの悪い少年を助けてやれよ。本当に死ぬぞ。まぁ、助けたら助けた瞬間に、この背の低い少年はボコボコに殴られそうだからなぁ。このまま殺すつもりなのかもしれない。


 まぁたく、人の命をなんだと思っているんだろうな。って、草まみれにした俺が言えたことじゃあないか。


「犯人はそいつだよ」

 背の低い少年が俺を指差す。


 俺?


 俺が犯人かぁ。


 正解だなぁ。


 それでジロジロと俺を見ていたのか? うーん。犯人だと目星をつけて疑ってみている感じじゃあなかったけどなぁ。


 まぁ、でもアタリはアタリか。


 で、この子らはそれでどうするんだ?


「そうだとして、どうするつもりだ」

 眼鏡君が背の低い少年にそんな風に話しかけている。そうそう、どうするつもりだ。

「縛り上げて地上に連れて行くつもりさ」

 背の低い少年が目つきの悪い少女の方を見る。

「わ、私ぃ? でもさ、私のこれ、一個しかないんだよ。この子を縛ったら、モンスターに襲われた時、どうするのさ」

 目つきの悪い少女が何も無い空間から紐のようなものを取り出し、上下に振り回している。


 お?


 これはもしかして、人種の遺産か。これで全員の人種の遺産の能力が分かったことになるな。


 目つきの悪い少女の人種の遺産は捕縛か。多分、あの紐で縛り上げるのだろう。それだけの能力なんだろうけど、人種の遺産だからなぁ。回避出来ないとか、どんな相手でも動きを封じることが出来るとか、そういう能力くらいはありそうだ。対象が一つだけなのが救いか。


 これで全ての能力が分かったな。


 さあ、どうしよう。

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