393 たま持たん
ガラの悪い少年が少女の怯えた姿を楽しむようにゆっくりと歩き、近寄っていく。
「み、見なかったことにするから! 告げ口もしない。だ、だから、わ、私に酷いことしないで」
少女が一瞬だけ俺の方を見て申し訳なさそうに顔を歪めたが、それだけだ。
「うるせぇ。今更、もう遅せぇ。お前らにあわせて我慢してたのによぉ、お前が悪いんだぜ」
ニヤニヤと嫌な笑みを顔に張り付かせた少年が少女の胸元へと手を伸ばす。
「た、助けて、助けて」
少女は目に涙を浮かべて周囲の少年たちに助けを求める。だが、少年たちは目を逸らし、見ない振りをしている。
ふむ。
俺を見ていた時とは違い、獣欲にギラついた目をしている。
今の俺はどちらかというと小学生くらいの――そう、幼女に近いくらいの姿をしている。それに欲情するとか、餓鬼の性欲はやべえなと思ったんだが、もしかすると本当に自分たちと異世界の住人に違いが無いか興味があっただけなのかもしれないな。
それか抑えきれなくなっていた嗜虐的な感情を満足させようとしていたか。
まぁ、どちらにしても最低なヤツで間違いない。
この少女も俺を守ろうとしていたのにさ、ちょっと自分が痛い目に遭ったら、あっさりと俺を見捨てたな。
まぁ、世の中、自分が一番大切だ。それも仕方ないことだろうさ。それに、この異世界人たちは平和な世界に生きていたんだろうし、暴力になれていないだろうから、殴られて乱暴されそうになって心が折れるのは仕方ない。
ちょっとがっかりしたけど仕方ないことだ。
まぁ、それはそれとして、だ。
――[サモンヴァイン]――
クソ餓鬼が少女の胸元へと伸ばしていた手に草が生える。手の甲の肉を抉り、草の根が張る。
「い、ぎゃあああぁぁぁ」
突然の痛みにクソ餓鬼が草の生えた手を持って転げ回る。
盛りのついたクソ餓鬼の交尾なんて見たくないからな。まったく、いつ何が襲いかかってくるか分からない迷宮で、こいつも良くやるよなぁ。こうやって攻撃されるかもしれないのになぁ。
「お、おいコラ、クソ眼鏡。お前、モンスター引き寄せたのか。ぶっ殺すぞ」
ガラの悪い少年が立ち上がり、眼鏡の少年の方を見る。
「僕はクソ眼鏡じゃな……」
「あ? なんか言ったか? あ?」
草の生えた手の手首を握ったガラの悪い少年が眼鏡の少年を睨み付けると、それだけで眼鏡の少年は黙り込んだ。眼鏡の少年はそのまま怯え、震えながら胸元のペンダントを握っている。
ふむ。
「おい、ちび。早く治せよ。いてぇんだよ」
クソ餓鬼が、俺をじーっと見つめていた背の低い少年の方を向いて叫ぶ。
お? 俺を見ているこの背の低い少年は回復魔法が使えるのか? そういうスキルを持っているのか?
「な、治せるけど痛いよ」
「あ? 痛くないように治せ。あくしろよ」
「む、無理だよ」
「あ? いいからあくしろ。お前も殴られてぇのか」
「う、え、あ、で、あ、は、い、うー」
背の低い少年が小さな杖のようなものを持ち、ガラの悪い少年の草の生えた手に、ちょこんとその杖を触れさせる。次の瞬間、俺の草がジュッと焼けたように消滅して消えていた。
お?
「あ、ぎゃああああ。いてぇ、いてぇ、いてぇ!」
ガラの悪い少年が痛みに顔を歪め、叫ぶ。そのガラの悪い少年の手の肉まで抉った傷は綺麗に消えて治っていた。
おお?
「いてぇんだよ!」
ガラの悪い少年が小さな杖を持った背の低い少年の顔面を殴る。背の低い少年が吹っ飛び地面を転がる。背の低い少年は動かない。動かなくなっている。気絶したのか、下手したら死んでいるかもしれない。
おいおいおい、無茶苦茶だな。
さっきのあの小さな杖が、魔力の動きも見えなかったし、人種の遺産だよな。怪我を治す能力かな。デメリットは痛いとか、だろうか。
んで、眼鏡の少年の胸元にあるペンダントも人種の遺産だろうな。あれが引き寄せる能力、と。
このガラの悪い少年の人種の遺産は……多分、怪力だろうな。何処に持っているのか分からないが間違いなくそうだろう。俺みたいに魔力を纏わせてなら分かるけど、そんな魔力の動きもなく馬鹿みたいな怪力を発揮しているんだからさ。
これで能力が分からないのは目つきの悪い少女と小太りな少年だけか。ただ、二人とも怯えているような様子だし、脅威にはならないかな。まぁ、油断はしないけどさ。
まぁ、まずはこの怪力の人種の遺産を持ったガラの悪い少年を無力化するか。
――[サモンヴァイン]――
ガラの悪い少年のまぶたを指定して草を生やす。
「あ、ぎゃああああ!」
ガラの悪い少年が醜い叫び声を上げる。
――[サモンヴァイン]――
今度は尖った髪の中に草を生やす。
この子らは魔力を見ることも出来ないだろうし、俺からの魔法だって気付かないだろうな。
好き放題やり放題だ。
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
今度はガラの悪い少年の股間に草を生やしてみる。一度に三つだ。たまたまが二つに棒の部分だな。
「ひ、ぎゃあああ」
痛い、痛いだろうなぁ。今の俺は、もう、たまたまを持ってないけど痛みは想像出来るぜ。
――[サモンヴァイン]――
叫び声を上げている口の中、舌に草を生やす。
――[サモンヴァイン]――
ガラの悪い少年に草を生やしていく。次々と草を生やす。少年が草に包まれていく。最初は元気に叫んでいたのに、今はその叫び声を上げる気力も無いようだ。
やがて少年は助けを求めるように手を伸ばし、そして、そのまま動かなくなった。
あー、うん。
アレだ。今更だけど、草を生やすだけの魔法なのに、意外と凶悪だなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます