392 盛りがつく

 俺はもう一度周囲を見回す。


 俺を異世界人の少年少女たちが取り囲んでいる。


 迷宮の中で間違いない。


 だが、これはどういうことだ?


 魔力の動きはなかった。気付いたら、ここに居たぞ。


 ……。


 って、考えるまでも無いか。これは人種の遺産の力だろう。能力はなんだ? 何かを引き寄せるとか、そういう感じか。


 参ったな。


 もし、なんでも引き寄せることが出来る能力だって言うのなら……まさしくチートだな。

魔法とかがある世界で今更物理法則だとかを言うつもりは無いけど、使い方によっては何でもありだろ。ズルい能力だよなぁ。


 使用によるデメリット的なものは無いのか? 無さそうな気がする。でもまぁ、あの自爆した少女が持っていた『ものを創造する』能力の人種の遺産は使用者の魔素を削るというデメリットがあった。そこまでではなくても何かあるのかもしれない。


「あ! 新しい反応だよ。多分、モンスターだね」

「おい、今度はちゃんと引き寄せろよ」

「待ってくれ。僕はしっかりと指定した。それに知っているだろう。僕の魔導具は連続して使えないんだ」

「僕ぅ? は、誰のおかげでここで生きてられると思ってんだよ。あくしろよ」

 少年少女たちが言い争っている。


 ……。


 情報ゲットだな。


 なるほど。連続して使えないのがデメリットか。どの程度の間隔が必要になるのか分からないが、それが分かったのは大きいな。

 しかし、うーむ。使い方によっては恐ろしい人種の遺産だな。例えば崖の上に引き寄せるとか、罠の上に引き寄せるとかすれば、相手は防ぎようがないからなぁ。どうやって指定しているのか分からないが、俺が引き寄せられた時、その気配すら感じなかったからな。気付いたらって感じだったし、とてもじゃあないが、回避出来るとは思えない。


 うーん、この人種の遺産も危険だな。出来る限り迅速に破壊しておくべきだろうな。


「……分かってるよ。でも、待ってくれ。こんな場所に獣人の少女がいることの方がおかしくないか?」

「あ? 経験値稼ぎにでも来たんじゃねえか?」

「私たちと同じように避難してきたのかも。それか、私たちを追いかけてきたのかな」


 俺は少年少女たちを見る。


 全部で六人。


 円盤のようなものをもった大人しそうな少女。

 眼鏡をかけた神経質そうな少年。

 髪を尖らせたガラの悪い少年。

 目つきの悪い少女。

 隅で怯えている小太りな少年。

 先ほどから俺を観察するように見ている背の低い少年。


 あの元気な少女の姿は見えない。てっきり大人しそうな少女と常につるんでいるのかと思ったがそうでもないようだ。


 分かっている人種の遺産は大人しそうな少女が持っているレーダー的な代物と、眼鏡をかけた少年の引き寄せる能力の二つか。


 後、四つの能力が分からないのは少し不安だなぁ。


「それで、この子、どうするの?」

「あ? どうするって? せっかくだから、異世界の連中が俺たちと同じか確認しようぜ」

 ガラの悪い少年がニヤニヤと笑いながら俺の方へと歩いてくる。


「はぁ? ちょっと、ここで? 最低」

「向こう向いてろよ。おい、お前らにも後で回してやるから黙っていろよ」

 おいおい、おいおいおい。まさか、この餓鬼……。


「待ちなさいよ。そんなこと許さないんだから」

 大人しそうな少女が俺を守るようにガラの悪い少年の前に立ち塞がる。

「はぁ? ブスが」

「……言いつけるから」

「あんだと。あいつに言ってみろ。ぶっ殺してやる」

 なんだか俺を置いて揉めだしたぞ。


「逆らえないくせに。こんな見えないところでだけイキがって!」

「あんだと。前々からお前とシイナの奴の偉そうな態度にはムカついてたんだよ。は、ここにはお前を助けてくれるシイナは居ないぜ」

 ガラの悪い少年が大人しそうな少女を殴りつける。かなり力がこもっていたのか、少女が大きく跳ね飛ばされ地面を転がる。


 おいおい、下手したら死にかねないぞ。どんな怪力だ。


 って、まぁ、今の俺ならこれくらいの力は普通にあるけどさ。でも、こいつら、今まで普通の生活をしていた少年少女たちだろ? 異世界に転生したことで手に入れた力か?


「いいぜ。まずはお前からやってやるよ」

 ガラの悪い少年がニヤニヤと笑いながら倒れた少女の方へと歩いて行く。地面を転がった少女がよろよろと上体を起こし、ガラの悪い少年を見る。生きていたか。やっぱり転生したことで基礎的な能力が上がっているのか?


「や、やめて。い、言わないから」

 倒れた少女が怯えた表情で這うように後退る。


 残った四人の少年少女は顔を背け、見て見ぬ振りをしている。


 うーん。


 これ、胸くそ悪いことが起こりそうな感じだよなぁ。


 この少女を助けたところで俺にはなんのメリットもないんだけどさ。


 まぁ、でも、俺を庇ってくれようとしてこうなったワケだし、それにもう力を隠す必要はないと思っていたワケだし、ちょうど良い機会か。


 はぁ。


 中学生くらいにしか見えないのに、ホント、しょうがないなぁ。


 盛りのついた犬をしつけるとしようか。

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