391 お取り寄せ

「ちょっと待って、何か近寄ってきている。凄いスピードで近寄ってきてるよ」

 ん?


 聞き覚えのある声だ。


 ……これ、ますます近寄れないな。


「あ、でも、こっちに気付いたのか、逃げていくみたい」

 なんで、こんな場所に異世界人が居るかなぁ。ここ迷宮だよな?

「逃げる? 逃げるってことは弱い奴だよな。ここで倒して少しでも力をつけようぜ」

「ちょっと!」


 ……。


 どうやら俺を追いかけてくるようだ。


 どうなんだ、これは?


 追っかけてくるなら返り討ちにして人種の遺産を手に入れるのもアリか。ただ、どんな能力の人種の遺産かも分からずに戦うのはなぁ。いくら時が戻せるといっても瞬殺されたら意味が無い。


 せめて人種の遺産の能力が全て分かっていればなぁ。誰がどれを持っているのか分からなくても、効果が分かっていれば対処くらい出来るからな。というか、思ったんだけど、人種の遺産って異世界人一人に対して一個って感じじゃあないか。今更だけど、多分、そうだよな? 一人が二、三個持っていると厄介だけど、そういうことは無さそうだ。


 というか、もしかして、人によって使える人種の遺産が決まっているのだろうか。他人が持っている人種の遺産は使えないとか……あり得そうだな。


 はぁ。


 ホント、あの二人から詳しい情報を手に入れることが出来なかったのが悔やまれる。一人は自爆、一人は変異して……だからなぁ。まぁ、とにかくこちらと敵対するように思考が誘導されていたようだから、どうしようもなかったんだけどさ。


 思考の誘導、か。


 ホント、それが問題だよな。


 どれだけ仲良くなれそうでも、簡単にひっくり返されるってことだからなぁ。そういうさ、思考誘導みたいな因子、というか、仕込まれたものが無くならない限りは異世界人とは仲良く出来ないな。異世界人には悪いけど、敵としか見えないな。


 救えないなぁ。


 まぁ、でもさ、俺にとって救いがあるとすれば、異世界人の中に肉親や自分の知り合いとかがいないということか。

 ある程度はなんとかしてみようと思うし、助けたいとは思うけどさ、それでも見知らぬ他人に命を賭けるほどじゃあないからな。


 ホント、申し訳ないけど、冷酷に対処することが出来る。


 んで、だ。


 逃げるか、戦うか。


 戦うなら――俺の姿を見れば油断するだろうし、その不意を突けば、なんとかなるかもしれない。


 後は、人種の遺産か。結局そこに戻るんだよな。


 怖いのは、人種の遺産に魅了や支配系があるかどうかだよなぁ。後、怖いのは反射系だろうか。ただ、今まで異世界人はそういうスキルを持っていても人種の遺産は持っていなかった。

 それに、だ。

 そういう人種の遺産があったら、異世界人同士で争いになってそうな気がするんだよな。


 まぁ、そういうスキルを持っている連中が生き残っている時点で無意味な予想なのかもしれないけどさ。だけど、連中のスキルは神とやらが与えたものだろう? それに対して人種の遺産は後で手に入れたものだ。スキルは隠せたかもしれないけど、人種の遺産の性能は隠せないんじゃあないだろうか。


 ……。


 あー、でも連中って鑑定スキルみたいなものを持っていたか。持っているスキルも分かるんじゃあないか。となると、俺の予想が破綻するか? あー、でも、鑑定に関しては色々と良く分からないところもあるし……うーん。


 まぁ、考えても答えが出ないところではあるか。


 ま、まぁ、とにかく、魅了や支配系の人種の遺産がある可能性は低いと思う。後は反射系か。

 俺はさ、魔人族のプロキオンや赤髪のアダーラがやられたのは、こういう遺産があったからなんじゃあないかと少しだけ思っていたんだよな。

 こっちの全力の攻撃が反射されたら……。


 傷を負わせたら、それがそのままこちらに返ってきたら……。


 考えるだけで恐ろしいよな。


 だけどさ、今思えばだけど、傷が再生するような魔人族がその程度でなんとかなるか? ならないよな。俺だと傷の転写は恐ろしい能力だけど、再生能力を持っている魔人族ならそこまで危機感を持つような能力じゃあない。


 多分、やられたのは、あの肉塊に変異した異世界人に、だろう。そうとしか考えられない。


 それに、だ。


 まだそんなに数は見ていないけど、それでも俺が見た人種の遺産の能力は、そのどれもが便利系だったんだよな。いや、確かに使い方次第では恐ろしいことになるだろう可能性を秘めているけどさ。魔力を使っていないからか、その動きを検知することも出来ないしさ。


 でも、便利なだけで命に関わるような危険なものはなかった。


 ……。


 よし、決めた。


 返り討ちにしよう。


 殺すつもりはないけど、状況によっては、最悪、そうなっても仕方ないと覚悟を決めよう。異世界人が全てあの肉塊に変異するというなら、本当は殺してしまうのが正解なんだろうなぁ。でも、俺はそこまで割り切れないし、甘いかもしれないけど、人を殺すことに慣れることが出来ないからな。

 うん、人種の遺産を手に入れること。破壊が最優先。異世界人は再起不能になる程度にとどめよう。そうしよう。


 よし、覚悟を決めたぞ。


 と、俺が考えていた時だった。


 周りの風景が変わる。


 俺は一瞬にして、異世界人の集まりの中に居た。


 へ?


「この子、獣人の女の子だよ!」

「おい、どういうことだ」

「違うものを引き寄せた?」


 え?


 どういうことだ?


 俺は周囲を見回す。


 迷宮の中……だよな?


 ここって、さっき、異世界人が集まっていた場所だよな?


 確かに返り討ちにしてやろうと覚悟を決めたけど、それが、なんで、こんな異世界人たちの集まりの真っ只中に?


 なんだ、何が起こった?

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