390 間がわるい

 とりあえず、もう使いそうに無いリターンのポイントを削除するか。少しは整理した方がいいよな? 騎士団の塔が崩壊してしまっているから、もうそこに行く必要もないし、さ。不要なポイントが結構あるはずだ。


 必要になりそうなのは……、


 名も無き帝国の中庭。

 スラムの建物の中。

 迷宮の途中。


 現在だとこれくらいか。


 何処かに行くだけなら、天人族の誰かに乗せて貰えば、大陸だろうが、島だろうが、空を飛んですいすいと向かうことが出来るし、無理に残しておく必要があるような場所はないよな。


 ……今のところはないだろう。


 というワケで、一旦、神域に戻ることにする。


――[リターン]――


 ポンッとな。


 輪っかをくぐり抜け神域に戻る。さあ、消してしまおう。


『母様、どうしたのじゃ』

 するとすぐに頭の中に機人の女王の声が響いた。


 うお、びっくりするなぁ。


 俺は周囲を見回すが、そこに機人の女王の姿は見えない。神域に居ないのか? それとも何処かにいるのだろうか。だが、魔力で繋がっている感覚はある。


 うーん。


 あ、そうだ。


 繋がっている魔力に俺の意思を乗せてみる。

『えーっと、何処に居ますか?』

『倉庫の管理をしているのじゃ』

 倉庫の管理? 機人の女王は城の方に居るのだろうか?

『違うのじゃ。使われていない空間が多い、こちらに城から荷物を運び込んでいるのじゃ。こちらの方が広々なのじゃ。今、わらわが手伝ってその物資の管理をしているのじゃ』

 うお、考えただけなのに機人の女王から返事があった。まさか、俺の思考が筒抜けになっているのか。

 ……いや、違うか。あっているけど違うな。


 機人の女王と魔力で繋がっている状態だから、か。常にオープン状態になっているって感じか? 意識して伝えたい感情、言葉だけが魔力に乗って流れていくようにしないとな。機人の女王から、魔力に乗ってこちらに流れてくる言葉が限られているんだ。伝えたい言葉だけに限定することは出来るはずだ。


『うむ。出来るのじゃ』

 機人の女王もそう言っている。


 ……。


 って、やっぱり筒抜けじゃあないか。



 お、俺の思考が全て読まれていたとしても、べ、別に痛くも痒くもないんだからな。いや、まぁ、勘弁して欲しいけどさ。下手に変なことを考えたら……って、そんなことを思えば思うだけ、変なことを考えそうになって、ああっ!


 う、うーん、これは今後のためにも要練習だな。


『迷宮にいってくる』

 神域には迷宮に行くために立ち寄っただけだし、ささっと行ってしまおう。


 輪っかをくぐり抜け、迷宮に降り立つ。


 ふ、ふう。


 もしかして、今までも考えたことを全て読み取られていたのだろうか。その可能性は高い。高いよなぁ。


 ……。


 うーん、もう、このことは、あんまり考えたくないなぁ。精神的ショックが大きすぎるぜ。


 と、とりあえず迷宮を攻略しよう。


 まぁ、あまり時間があるワケでもないし、サクッと行くか。


 全身に魔力を巡らせ、銀の光となって迷宮を駆ける。途中、広くなった部屋で魔獣に遭遇する。翼を持った虎と子鬼の姿をした魔獣たち。それらを殴りつけ、吹き飛ばし部屋を抜ける。


 へ?


 一撃?


 殴っただけで死んだぞ。魔素に還っていたよな?


 こんなにあっさり?


 ……。


 雑魚いよなぁ。


 迷宮で現れる魔獣ってこの程度なのか。そりゃあ、まだ浅い階層だからってのもあるのかもしれないけどさ。それでも弱いよな。だってさ、俺は武器を使わず、ただ殴っただけだぜ。そりゃあ、魔力を纏わせた馬鹿みたいな怪力で殴っているけどさ、それでも一撃なのはあんまりだと思う。


 俺は現れる魔獣を蹴散らし、迷宮を駆け抜ける。


 マッピングなんてしていないが、まぁ、なんとかなるだろう。


 ……。


 マップを把握しているガウスに着いてきて貰えば良かったかなぁ。でも、あいつには賢者との交渉を任せたかったしなぁ。時間稼ぎという名前の交渉だけどさ。


 走る。


 途中、適当に見つけた階段を降り、また走る。


 ……これ、地上に戻れって言われても無理なパターンじゃあないだろうか。ま、まぁ、最悪、リターンで戻ればいいから。


 って、そういえば、リターンの魔法は普通に光の壁をものともせずに神域まで移動が出来たな。


 うーむ。どうなっているんだろうな。


 まぁ、リターンの魔法の原理も分からないし、考えるだけ無駄か。


 そして、しばらく迷宮を駆け続け――俺は慌てて足を止め、壁に隠れる。


 気配……声が聞こえる。


 声。声、だ。


「どういうことだよ」

「いつまで、ここに居ないと駄目なの」

「最悪」


 この声、言葉。


 異世界人たちだ。


 マジかよ。


 なんで迷宮に居るんだ?


 まさか、避難先って迷宮だったのか? いや、でも、迷宮なんていつ魔獣が生まれるか分からないような場所だろ? そんな場所に避難するか?


 うーん。


 もしかして迷宮に挑戦していて外の状況を把握していないとか?


 その可能性もあるな。


 ……。


 これ、見つからないように、他の道がないか探すべきかなぁ。今、出会すのは面倒すぎる。

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