389 ひかるかべ

 とりあえず後のことはガウスに全て任せて光の壁を目指して走る。世間で言うところの無責任な丸投げである。


 そして、走り続け――俺の足が止まる。


 あ。


 俺は気付く。というか、分からない方がおかしいんだけど、この都市の周りって水に囲まれているよな。スラムは都市の端にあるけどさ、水に面しているワケで、だから、水を避けてスラムを離れたワケだけど。囲まれているんだから意味が無いじゃん。


 湖の中心にある島だから、ぐるーっと一周、水に囲まれているじゃあないか。


 光の壁を確認してみたかったけど、どうしようか、これ。


 壁ってさ、湖の端から現れているよな?


 湖――俺の目の前にあるのは湖だ。この都市とやり取りしているであろう商人たちの船も見える。逃げ遅れたのかもしれないな。


 にしても、ここには船があるんだよなぁ。海には無いのにな。湖の水は触れても問題無いみたいなのに、なんで海だけ駄目なんだ? 海から汲んだ水も、釣り上げた魚も、海自体から離れたら問題ないんだよなぁ。


 不思議すぎる。


 とまぁ、それは置いといて、どうしようかな。


 まさか、光の壁が陸地と接している場所がないとは思わなかった。どうやって発生しているんだ? これ、湖の底から立ち上がっている感じだけど、湖に潜って地面を掘ったら、何か出てくるんだろうか?


 ドーム形だけど、地面の下はどうなっているのかな? 完全に球形なんだろうか。


 ……。


 よし、なんとかしてみよう。


 俺は周囲を見回す。幸運なことに今は出歩いているような人の姿はない。俺が好き放題やっても大丈夫なはずだ。

 俺は改めて船を見る。


 ……。


 俺が船を動かすのは無理だな。一人では動かせそうに無いし、うん、無理だ。


 次に橋を見る。うーん、壁の方かぁ。まぁ、そっちも有りと言えば、有りだけどさ。ただ、そっちは一本道だけあって目立ちそうなのがなぁ。


 となると、だ。


 異世界で手に入れた身体能力を使って、アレをやってみようか!


――[サモンヴァイン]――


 湖に草を浮かべる。


 うん、草だ。草だな。


――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――


 次々と草を浮かべていく。


 うん、ぷかぷか浮いているな。


 俺の草魔法の草って水に浮かぶんだなぁ。


 というワケで、だ!


 さあ、出来るかな。出来なかったら凄く間抜けだぞ。


 ……。


 ま、まぁ、失敗しても誰も見ていないから大丈夫だろう。


 うん。


 体に魔力を循環させる。


 行くぞ。


 湖へと突っ込む。銀の光を残して走って行く。


 浮かべた草の上を走って行く。


 あれだ、右足が沈む前に左足をってヤツだ。草が浮いている分、それを踏むことで湖に浸かる抵抗になってくれている。


 これならいける。


 俺は草を踏み台にして湖の上を駆けていく。


 橋を進むよりも目立っているかもしれないが、まぁ、アレだ。周囲に人の姿は無いし、見られていないから大丈夫だろう。


 ……さっきと言っていることが違うが気にしない。気にしたら負けだ。


――[サモンヴァイン]――


 駆けながらも追加で草を生やしていく。


 そして、光の壁に辿り着く。


 駆けながら光の壁へと手を伸ばす。


 ……。


 このままだと光の壁にぶつかるか。いや、それともすり抜けるのか?


 触れる。


 ……。


 あ、これ、不味い。


――[ストップ]――


 時を止める。

 世界が灰色に包まれ、時が止まる。


 俺は光の壁に触れた体勢で動けなくなっている。


 ……。


 止まった時の中で、ゆっくりと考える。


 これ、内側からでも突き抜けることはないようだな。となると、完全に閉じ込められているような状況か。

 これさ、一定期間なのか、それともいつでも解除出来るのか分からないけど、こうやって外と完全に遮断してしまったら、食料の問題が起きるんじゃあないだろうか。まぁ、でも、元から島にある都市だから、ある程度は蓄えがあるんだろうけどさ。


 それでもなぁ。


 ……まぁ、それは俺には関係ないことだな。


 んで、だ。


 この光の壁を俺が壊せるかどうかだが……多分、無理だな。


 魔力によって創られた光の壁かと思っていたけど、どうにも良く分からない。これも人種の遺産みたいなものなのか?


 うーむ。


 赤髪のアダーラの魔素に分解するような、あの一撃が俺でも使えたら壊せそうだけど、現状では無理だなぁ。


 こんなのがポンポンと発動出来るなら、少し考え直さないと駄目かな。大陸の種族の戦力を低く見過ぎていたってことになるかなぁ。

 まぁ、異世界の住人のコピーを創って人種の遺産を使えるようにするくらいだから、舐めていい存在じゃあないのは分かっていたけどさ。


 そして、時が動き出す。


 自然の法則に従って湖に俺の足が沈む――沈みきる、その前に光の壁を蹴る。蹴った勢いのまま大きく跳び、元の大地へと着地する。


 おー、飛んだ飛んだ。空を飛んだ気分になるくらい飛んだな。


 さてと、これで光の壁の検証は終わったな。この分だと時間の余裕はありそうだ。


 よし、パパッと迷宮を攻略してしまうか。


 よし、そうしよう。 

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