388 今後の方針

 さて、どうしような。


 とりあえず騎士団は都市の外だから、このスラムが襲われることはないワケだけどさ、それって、ただ問題を先延ばしにしただけだよなぁ。塔の崩壊で時間稼ぎが出来たし、その後、オークの襲撃でうやむやになったし、俺たちとしては悪くない展開だ。


 うーん。


 でもさ。


 裏で賢者と手を組んで、それでなんとかして貰おうと思っていたんだけど、ちょっとなぁ。名も無き帝国で起きた、異世界人の少女が変異した事件。あれがあって、ちょーっと賢者が疑わしくなってきたんだよなぁ。それに神という存在。


 うーん。

 うーん。


 本当なら、これは賢者と話し合う良い機会だったはずなんだけど……どうしようか。ガウスに任せようかと思っていたけど、賢者が神の手先とかなら、ちょーっと問題だよなぁ。


 んで、だ。


 もう一つ問題がある。


 異世界人たちの姿が見えないってことだ。彼らは何処に行ったのか?


 都市の人たちと一緒に避難しているならいい。騎士団と一緒にオークを追いかけたなら、それも構わないだろう。問題は賢者と共に何かを企んでいた場合だ。


 賢者が何を考えているか分からないんだよなぁ。


 異世界人を受け入れて何をしようとしているのか。ただ、この世界の常識を学んで貰おうと思っているだけならいいんだけどさ、会った感じだとさ、なんだか、そういう感じじゃあなかったよな?


 何かを企んでいるようにしか見えなかった。


 うーむ。


 どうする?

 本当にどうする?


 俺としては大陸の種族の人たちにバレないように潜入して、過去に戻る前の世界でプロキオンとアダーラを殺した方法を探すつもりだった。俺は二人になにか起こるとは――負けるとは思っていなかった。それこそ、あり得ないことが起こらないと無理だろうと思っていた。


 だから、あり得ないことが起こるなら、それは人種の遺産によるものだろうと思っていた。思い込んでいた。


 だけど、どうだろうな。


 あの少女が変異した肉塊。もし、あれが現れていたとしたら?


 今回、アレを倒したのは赤髪のアダーラだ。もし、時が戻る前の世界で戦っていたら? その場にはプロキオンだけではなく、アダーラも居たはずだ。倒せていた可能性はある。だが、もし肉塊が一人だけではなかったら?


 さすがにアダーラでも無理だろう。


 ……。


 情報を得るために潜入していたけど、そろそろ隠す必要がなくなった気がするな。別に俺は学園生活が送りたかったワケじゃあない。それに、潜入は出来たが食堂で扱き使われたり、騎士団で下っ端扱いされたり、別に学生の真似事が出来たワケでも無いしなぁ。いや、別にやりたかったワケじゃあないぞ。何度も言うけど、別に学生の真似事をしたかったワケじゃあない。

 人種の遺産は三つほど破壊が出来たけど全体数から見ればわずかの成果だ。他の人種の遺産の能力も分かっていない。


 これ以上、時間をかけても調べられる気がしないんだよなぁ。結局、戦って壊すことになりそうな予感しかしない。


 となれば、そろそろ動くか。


 ……。


 まずは……光の壁の強度を確かめるべきだろうな。俺が壊せるものなのかどうか。リターンの魔法で逃げることが出来ると分かっていても、一応、調べておくべきだろう。


 その次に行うべきなのは異世界人の居場所の確認だな。人種の遺産を持っている持っていないにかかわらず、俺の、俺たちの脅威になるのは異世界人だからな。


 んで、次に猶予があるようなら迷宮の攻略だな。中級魔石を探すって目的もあるけど、それはまぁ、うん。最悪、名も無き帝国から持ってくればいい。いや、ホント、そうなんだよな。

 一番の目的は最下層にあるであろう魔石だ。これがあれば動かせるゴーレムの数を増やせる……はずだ。ゴーレムは俺だけではなく機人の女王も動かせるから、稼働数が増えても問題無い。

 ゴーレムは――うん、大陸の種族を相手にするだけなら過剰戦力な気がしないでもないけど、あの肉塊に対抗することを考えたら数があった方がいい。


 だから、出来る限り迷宮は攻略したい。


 とまぁ、そんなところか。


 よし、方針は決まった。


 ここからは好きに動こう。


 となると、問題はガウスたちか。四種族との関わりがバレてしまうと、砂糖のことがなくても追い出されてしまいそうだよなぁ。


 うーん。


 でも、改めて賢者と手を組めとは言いづらいし……どうしたものか。でも、もうあの犬頭に頼んでしまった後なんだよなぁ。


「なぁ、ガウス」

「へ、へい」

「ガウスたちはここに残りたいか?」

 ガウスは俺の質問の意図が読めなかったのか少しだけ首を傾げる。


「それはどういう意味でやしょう」

「そのままの意味だよ」

「あっしはここで用心棒でやした。なので、なんとも言えやせんが、皆、住み慣れた場所を守りたいと思いやす」

 守る、か。


 そりゃあ、そうか。


 ここに住んでいる人にとってはどんなに酷い環境でも故郷だもんな。住めば都って言葉もあるし、そうか。


「えーっと、とりあえず自分はここを離れる。賢者からの接触があると思うが、とりあえず従った振りをしていてくれ」

 これはまぁ、とりあえずスラムの人たちには四種族と関係ない振りをして貰った方が良いのかもしれないな。

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