387 見落とし?
「えーっと、それで?」
ガウスは何処か困ったような顔で俺を見ている。
俺、何か不味いことを言ったか?
「あ、いや、それだけと言えばそれだけでやすが」
「えーっと、それで人の姿が見えなかったけど、どうしたんだ?」
「都市の連中ならとっくに避難しやした。あっしらは取り残されたんでさぁ」
なるほどなぁ。
だから、人の姿が見えなかったのか。にしても、俺が離れていたのは、ちょっとの間なのに、人の姿がまったく見えなかったよな? 一瞬で避難を終えているって、凄いな。普段から避難の訓練とかしていたのだろうか? それとも、ここって割と頻繁に襲撃されるような場所だったりするんだろうか。それで慣れてしまったとか?
まぁ、今はそこは重要じゃあないか。
「えーっと、それでオークたちはどうしたんだ?」
とりあえず、そこが重要だよな。
「逃げていきやした。それを追って騎士団が動いたんでやすが、騎士たちが都市の外に出たところで、賢者が都市の防衛用に光の壁を起動したようで、今は外とここが隔離された状況でさ」
ふむ。
オークは逃げた、と。
うーん。
本当に逃げたんだろうか。このスラムに来るまでに見た都市の様子は、好き放題やられていたようにしか見えなかった。
オーク連中は目的を達したから撤退しただけなんじゃあないだろうか。まぁ、そのオークの目的が分からないんだけどさ。オークを捕まえて話を聞いてみれば分かるかな。
んで、だ。
騎士の連中は、その逃げたオークを追いかけた、と。
何人か残って救助活動をしていても良さそうなのに、全員で追いかけたのか? うーん。でもまぁ、騎士の姿が見えないってことはそういうことだよな?
騎士団にとってはオークを追いかけることが最優先だったってことか。
で、騎士団がオークを追いかけて都市の外に出たところで賢者が都市の防衛装置を起動、と。騎士団が綺麗に閉め出されたワケだ。
んー。
タイミングが良すぎる気がするなぁ。
賢者が騎士団を追い出したようにしか見えない。
この光の壁がどれくらい持つのか分からないが、これで賢者は防衛のために仕方なかったという大義名分と騎士団に邪魔されない時間を手に入れたワケだ。
俺が賢者を胡散臭いと思っているからか、こうなってくると何か悪巧みをしているようにしか思えないんだよなぁ。
まぁ、状況はなんとなく分かった。
「えーっと、それでオークの襲撃がなんで俺のせいなんだ?」
「へ? オークどもは皆様方の配下でやしょう?」
……。
え?
……。
あれ?
そういえば、どういうことだ。
オーク、そう、オークだ。
はじまりの町を襲撃したのもオークだ。俺は勝手にオークもプロキオンの配下だと思っていた。思っていたよな?
……。
……だけど、よく考えてみろ。
魔人族の里にオークの姿はあったか?
四種族の中にオークの姿はあったか?
四つの種族、魔人族、蟲人族、天人族、獣人族。その中に、オークは……無い。
協力関係ではあるのかもしれないが、だが、オークは四種族ではない。
ガウスもオークが四種族の配下だと思い込んでいたようだ。だから、俺が呼んだと勘違いしたのだろう。
なんだ?
何かおかしいぞ。
オーク。
オーク――俺の元居た世界でも有名な魔獣だ。ブタの姿をしていたり、猪の姿をしていたり……そんな感じだよな?
だが、この世界のオークはどうだ?
吸血鬼というか、俺が知っている中で一番近いものだと……鬼って感じだったよな?
鬼のことをオークって呼ぶのはさ、俺は言語スキルの翻訳がおかしいのかと思っていた。思っていたよな? そうじゃあないのか。もしかして、違うのか?
……。
オーク。
そもそも誰がオークって名付けたんだ? 誰が言い始めたんだ?
なんだ?
なぜ、そこが俺の中で引っ掛かる?
何かを見落としているような……。
「大将、どうされたんで?」
「いや、えーっと、少し考えることが……っと、とにかく、オークは四種族の配下ではない。自分とは関係ない」
協力関係かもしれないけどさ。でも、俺は知らない。把握していない。
「そうでやしたか」
そうなんだよ。
騎士団は居ない。
光の壁がある限り、当分、戻って来られないだろう。
人種の遺産の情報を手に入れるつもりが、騎士団に所属させられるし、迷宮に魔石を取りに行きたいのに、砂糖の問題で騎士団に取り囲まれるし、そうしたら、今度は騎士団の塔の崩壊に巻き込まれ、二人の少女が大変なことになって、それでやっと戻ってきたらオークの襲撃か。
ホント、忙しいなぁ。
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