386 都市の崩壊
とりあえず都市に戻ろう。
「えーっと、ウェイ、気絶したアダーラは任せてもいいかな?」
「ひっひっひ、後はお任せを」
フードを深くかぶった蟲人のウェイがお辞儀を返す。今回、ウェイに良いところがなかったからなぁ。いつもはアダーラを窘める役回りなのに、今回は完全にアダーラに負けていたよな。まぁ、仕方ないさ。相手が悪すぎたと思う。
「母様、この後はどうするのじゃ」
機人の女王が聞いてくる。
「とりあえず向こうに戻るよ」
「なんじゃと」
機人の女王が驚いている。なんじゃとではない。そして、俺はお前の母親でもない。
「えーっと、向こうでの用事が終わっていないから仕方ない……んじゃあないかな」
そう仕方ないのだ。
『分かったのじゃ。魔力の繋がりも出来たので今回は我慢するのじゃ』
頭の中に機人の女王の声が響く。
うおっ!?
びっくりするなぁ。突然、脳内に言葉を飛ばすのは止めて欲しい。ホント、驚いてしまうからさ。
……。
ま、まぁ、とにかく、任せた。
都市の方ではガウスが俺の帰りを待っているだろうし、騎士団とのやり取りがどうなったのかも気になるし、塔の崩壊による被害も気になるからなぁ。
まぁ、急いで戻ろう。
俺は浜辺の立ち去り際に一度だけ振り返る。二人の少女。海に消えた嘘吐きの少女と騎士団の塔を崩壊させ、最後は肉の塊となって消えた少女。
いい思い出なんて全くない。
こちらは迷惑を掛けられただけだ。
だが、それでも……、それでも、仇はとってやるよ。お前ら二人を、こんな世界に転生させ、ろくでもないものに創り変えた奴に相応の酬いを受けてもらうさ。
……。
俺は城の中庭から神域へと戻る。
さて、と。
そのまますぐに神域から都市に戻る。
さっきぶりだな。
……。
ん?
都市に戻ったところで、俺は異変に気付く。
なんだ?
俺は頭上を見る。
そこにはこの都市――この島を覆うように薄く半透明な黄緑色の膜が張られていた。
なんだ、なんだ?
まるでバリアーみたいな……って、もしかしなくてもそうなのか?
そういえば、時を戻す前の世界で都市全てが光る壁に包まれて侵入が出来ないという話を聞いた。
まさか、それなのか?
光る壁ということだけど、中から見ると黄緑だな。
うーむ。
これ、外部からの侵入を防ぐんだよな?
リターンの魔法は防げなかったようだけど……そうなんだよな?
まぁ、これが、本当に、その光る壁なのかどうかは分からないんだけどさ。
なんで、それが発動しているんだ?
何があったんだ?
って、騎士団の塔の崩壊か。それが、何らかの攻撃だと認識されて発動した?
そうとしか考えられないけど……うーむ。
とりあえずスラムに向かうか。ガウスに聞けば何か分かるかもしれない。
俺は都市の中を走る。
至る所で建物が崩壊している。
まるで何かの襲撃があったかのようだ。
んで、だ。
外を歩いている人が居ない。騎士団の姿も見えない。
人っ子ひとりいないぞ。まるで廃墟の街を走っているようだ。
どういうことだ?
俺が名も無き帝国に戻ってから、そんな、何時間も経っていないよな?
その間に何かあったのか?
これ、塔の崩壊に巻き込まれて……じゃあないよな?
建物の多くが倒壊しているのに、誰も何もしようとしていない。それこそ、騎士団辺りが瓦礫の撤去とか始めていてもおかしくないのにさ。
それすら、後回しにするような出来事があったってことか?
俺が離れていた数時間の間に?
俺はスラムを目指して走る。誰も居ないので、俺の姿を見咎められることもない。
俺は走り、スラムに入る。
そこには寄り添い合い、座り込んでいる人々の姿があった。良かった、人が消えたワケじゃあなかったか。
んで、だ。
何処かな? 何処に居る?
俺はスラムを見回す。と、居たな。そこですぐにガウスを見つける。向こうもこちらに気付いたようで慌てた様子で走ってくる。
「大将、これはどういうことですかい!」
いの一番のガウスの言葉がそれだった。
ん?
どうしたもこうしたも俺が聞きたいんだが。
「いや、ガウス、状況が良く分からないんだが、教えてくれ」
ガウスが驚いた顔で俺を見、そして、何処かホッとした様子で頷く。
「大将の仕業かと、申し訳ありやせん」
俺の仕業?
いや、だから、何があったんだ?
「オークどもの襲撃でさぁ。大将が出ていってすぐに竜に乗ったオークどもが空から襲撃を……」
オーク?
また随分と懐かしい名前を聞いたな。
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