385 神とやらを

 一撃必殺。


 赤髪のアダーラが以前から言っていたことだ。


 究極的には、それが到達点なんだろうけどさ。それはあくまで理想で、普通に出来ることじゃあないだろ。


 それをやり切ってしまうのだから……。


 なんというか、脳筋だからこそ出来たことというか、なんとかの一念というヤツだろうな。


 はぁ、夢のような話だと思っていたのに、アダーラ自身の力で、それが可能だということを証明してしまうなんてなぁ。


 俺は先ほどのアダーラの一撃を思い出す。


 槍を水平に構えていたよな? 次の瞬間には、そのアダーラが肉の塊の向こう側へと突き抜けていた。驚きなのは、早すぎて動きが殆ど見えなかったことだ。たださ、動きが早いか、それだけならアダーラは元から行えていた。俺が驚いたのはヴィジョンの魔法ですら動きの予測が見えなかったということだ。


 それは予想することが出来ない一撃だということだ。


 つまり、回避が出来ないということか?


 無茶苦茶だな。


 そして、だ。


 あの少年のような少女だった肉の塊は光の粒となって消えた。


 俺なら分かる。


 あれは、魔素に分解されたんだ。確かにそれなら、全てが魔素で構成されているこの世界でなら一撃必殺になるだろう。だが、どういう原理なんだ? 繋がりをバラバラにする?


 分からないな。


 アダーラは頭で考えること無く、ただ出来ると信じていたからこそ、その領域まで到達出来たのだろう。

 アダーラはそうしないと勝てないと直感で分かっていたんだろうな。


 ……。


 俺に……出来るか?


 いつかは出来るだろう。いや、出来るようになってみせる。


 だが、それがいつになるかは分からないな。アダーラだって次も成功させろって言われても難しいだろう。そういうレベルの話だしなぁ。


 ただまぁ、出来るかどうか分からないという話では無く、出来ると分かっているのは励みになるな。先が見えない不安が無い、到達点が見えている、というのは気分的に全然違う。


 んで、だ。


 これからどうしような。


 保護しようと思っていた少女が二人とも死んでしまった。そりゃあ、出来る限り情報を手に入れようって下心もあったけどさ。でも、保護しようと思っていた気持ちは嘘じゃあないんだぜ。


 それが全て無駄になってしまった。


 うーん。


 これさ、他の異世界人も同じことになりそうじゃあないか? 何か、多分、神と名乗った者の仕業だろうけど、俺らと敵対するように調整されている感じだよな。例え、それを乗り越えたとしても、俺らの懐に入れた後にこの少年のような少女のように肉の塊になって襲いかかってきたら……被害は甚大なものになるだろうな。

 今回はアダーラに助けられたけど、アダーラが居なかったら洒落にならなかったと思うぞ。アダーラだってあっさり勝ったように見えるけど、防いだはずの一撃で吹き飛ばされて気絶していたしさ。こちらから攻撃を加えても、この肉の塊はより強力になっていただけだったし……。


 こんなものに変異する異世界人を手元には置いておきたくないなぁ。


 まぁ、防ぐ方法、対処法が分かればその限りでは無いけどさ。


 この肉の塊に勝つ方法、か。


 多分、二つ、いや三つか。


 まずはアダーラが行った、魔素に分解する方法。これを俺が出来るようになるのが理想だな。


 もう一つは海に落とす。試していないが、これでも勝てるだろう。あのもう一人の少女は海に入ったことで命を落としたワケだし、これは確実だろう。


 最後の一つは、強化を上回るほどの強力な一撃を叩き込む。これも試していないけど、戦った感じ、これでも倒せそうな気がする。ただなぁ、どうやったら、そんな一撃を叩き込めるかって問題があるんだよなぁ。普通に無理だよな。


 うーむ。


 あの迷宮で出会った少年は肉の塊に変化しなかった。変化する異世界人と変化しない異世界人が居る?

 ……んなワケないだろう。もし、俺が神とやらなら、全ての異世界人に肉の塊になる因子を入れる。じゃあ、なんで変化しなかったというと、変化する引き金が命の危機とかじゃあないからなんだろうな。


 多分、自分が人形だとか偽物だと認識するとか、なんじゃあないだろうか。まぁ、分かんないけどさ。こればっかりは試すワケに行かないしさ。肉の塊の処理の困難さもそうだけど、胸くそ悪くて試したくないってぇのが大きいな。


 はぁ、なんだかなぁ。


 一応、人種の遺産を二つ破壊出来たから、マイナスじゃあないけどさ。苦労に見合っていない気がする。


 それにさ、俺は人種の遺産を全て破壊すれば丸く収まると思っていたのに、神とやらの存在のおかげでそれじゃあ終わらなくなった。


 そいつが黒幕? ゲーム風に言うならラスボスだろうな。


 何処に居て、何をやっているのか、まったく分からないけどな!


 そいつをなんとかしないと安心して暮らすことも出来ない。


 はぁ。


 異世界人からしたら俺がラスボスだろうし、今後も敵対してくるんだろうなぁ。はぁ、面倒なことしかない。


 ……とりあえず学院都市に戻るか。騎士団の塔が崩壊して、その後、どうなったかも気になるしな。


 あー、そうだ。


 肉の塊の対処法がもう一つあった。


 時を戻す。


 これなら俺でも出来る最強の対処法だな。


 ……もっと気楽に時が戻せれば、それでも良かったんだけどなぁ。まぁ、最悪、その方法もあると頭の片隅にでも置いておこう。

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