383 偽物の末路

「海が危険だって……それは、この世界の人たちにとってのはずだよ。何をしたんだ! お前は何をしたんだよ!」

 少年のような少女が叫んでいる。


 なるほど。海が危険だということを聞いてはいたのか。聞いていたのに、自分は関係ないと思っていたのか。


 んで、何をした、か。


 俺は何もしていなんだよなぁ。


「この世界の住人には海が危険……よく知っているじゃあないか。これこそが君たちが転生者だって証拠じゃないかな?」

 まぁ、確定だよな。

「何をした! かえせ、かえせよ、かえせよぅ」

 少年のような少女は狂ったように叫んでいる。


 何を返して欲しいのやら。


 あの自殺した少女か? それとも元の世界に帰せ、だろうか。


 どちらも叶えることは出来ないな。


 俺が原因でも無ければ、俺がそんな力を持っているワケでもない。


 ……。


 にしてもさ、ホント、話が通じないよな。


 こちらを信じようとしていないんだから、何を言っても通じないのは当たり前か。


 はぁ。


 ため息しか出ないな。


 一応、この子らが持っていた人種の遺産の破壊という目的は達せられている。後は何か、他の人種の遺産についての情報でも手に入れば、と思っていたけどさ、この様子だと無理か。


 無理だろうなぁ。


 はぁ。


 ……。


 さて、どうしよう。


 同郷かもしれないということで色々と大目に見ていたけど、創られた転生者で、神とやらに何をされているのか分からないようなものを置いとくのも危険か。


 かといって殺すのも、な。


 俺は別に人殺しが好きなワケじゃあ無いし、人種の遺産を壊しているのも四種族と大陸の種族の争いを平和的に解決しようとしてのことだしさ。


 出来れば争いたくないんだよなぁ。


 だからと言ってさ、この少女を助けたいかというと……それはそれで微妙なんだよな。


 同情はしているけど、それだけだ。本気で何とかしてあげようと思っていないから、こう、軽く考えているんだろうな。


 俺の知り合いってワケでも無いし、何か恩を受けたワケでもない。


 俺は別に正義の味方でもないからなぁ。出来ることはするし、しようとは思うけどさ、それ以上はしようと思わないんだよ。


 ホント、どうしよう。


「僕が転生者? 転生? まさか、死んでいる? それとも本当にコピー? 偽物? でも、僕の記憶は? この記憶は?」

 少年のような少女は虚ろな目でブツブツと呟いている。


 おいおい、大丈夫か。


 認めたくない事実に心が壊れたのか?


「僕が、僕が、僕が、僕がががががが」

 少年のような少女が両腕を抱え、震え出す。


 おいおい、本当に大丈夫か?


「えーっと、大丈夫か?」

 俺は出来るだけ優しい声で話しかけ、安心させるように少年のような少女の方へと歩み寄る。


「姉さま、駄目です」

 と、そこに赤髪のアダーラが待ったを掛ける。


 へ?


「ぼ、僕がああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 少年のような少女が大気を震わせるほどの叫び声を上げる。そして、その体がぶくぶくと膨れ上がっていく。


 な、何が起こった!?


 そして、少年のような少女が膨れ上がった体の一部を鞭のように振るう。


 な?


 早い。


 目の前で起きた異様な出来事に意識が追いつかず、俺は動くことが出来ない。


 赤髪のアダーラが俺を守るように槍を持ち、鞭のような一撃を防ぐ。


 ……。


 いや、違う。防ぎきれていない。なんとか逸らしただけだ。鞭のような一撃によって赤髪のアダーラが吹き飛ばされている。軌道の逸れた鞭が俺のすぐ真横に叩きつけられる。


 え?


 いや、呆けている場合か!


――[ストップ]――


 時を止める。


 ふぅ、これでとりあえず一息つける。見れば、次の一撃がすぐそこまで迫っていた。


 間一髪というところだな。


 にしても、何がどうなっているんだ?


 少年のような少女だったものは、その面影を一部残しながら、内部から破裂したかのように膨れ上がり、内臓のような触手を振るっている。


 一瞬で化け物になった?


 なんで、急にこんな……。


 と、そこで俺は気付く。


 もしかして、これは、この少女を転生させた神とやらのトラップか?


 そうとしか思えない。


 自分が転生者だと認識したら発動する? いや、違うか。自分が偽物だと気付いたら? 認識したら? 自覚してしまったら?


 確証は無いが、流れを考えるとそう思えてしまう。


 ……。


 こうなると話し合いも何も無いな。


――[ヴィジョン]――


 俺は未来を予測し、鞭のようにしなる内臓の軌道を見極める。アダーラを一撃で吹き飛ばすほどのシロモノだ。


 油断は出来ない。


 そして、時がゆっくりと動き出す。


 予想していた動きを見極め、攻撃を躱す。


――[サモンヴァイン]――


 俺は腕に巻き付いている蕾の茨槍を槍の形状へと変化させる。


 ……。


 目の前の肉の塊には少年のような少女の面影が残っている。だが……。


 もうどうしようもないだろう。


「倒すぞ!」

 こちらに殺意を向けてくる以上、倒すしか無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る