382 溶けて泡に

 俺が、みんなから浮かばないって聞いていたけど、こういう感じで浮かばないのかぁ、などとどうでも良いことを考えている間にもう一人の少女は泡となって消えた。


 へ?


 え?


 残っているのは少女が乗ろうとしていた小舟と服の一部、そして銀色に輝く首飾りだった。


 多分、あれ、首飾りだよな?


 ……。


 って、そうじゃないそうじゃあない。


 溶けた? 泡になって消えた?


 いや、人種の遺産の能力で逃げたのか?


 ……。


 俺は皆の反応を見る。


 ウェイとアダーラは当然といった様子で、少年のような少女は驚いた顔のまま固まっている。


 逃げたワケでは無さそうだな。


 残された少女の服が波に攫われ流れていく。銀の首飾りだけが存在を主張するように波の上で輝いていた。


 もしかして、この首飾りが人種の遺産か?


 さて、と。


 人種の遺産を取りに海に入らないと駄目なんだが、少女が溶けて消えた姿を見た後に入るのは、なぁ……。


 今まで普通に海に潜って魚や海藻を採ってきたんだけどさ、ちょっと躊躇うよな。


 ……。


 まぁ、多分、きっと、ああ、うん、多分、今回も大丈夫だろう。


 俺は問題無いはずだ。


 ゆっくりと海に近づき、足を入れる。ひんやりと冷たい。


 普通に海だよなぁ。足を取られるようなことも無い。


 もう一人の少女が、なんであんな風に、波に足を攫われ、浮かぶことも出来ず、溶けていったのか分からない。


 普通に海に入り、銀の首飾りを拾う。


 拾った瞬間に理解する。


 なるほど。


 この首飾りが人種の遺産で間違いないようだ。


 この首飾りの能力は体内から魔素? を永久に消費し、ものを作成するって感じか。


 永久にっていうのがデメリットかな。んで、創れるものは消費した魔素の量に影響される、と。体内の魔素を消費するワケだから、寿命を消費するって言い換えることも出来るかな。ゲーム的に言えばレベルの上限が永久に失われるって感じか?


 うーん。


 これ、体内の魔素じゃあなく、周囲の魔素を使ったらノーリスクなんじゃあないか? 多分、そうだよな? 上手く誘導して周辺の魔素から生成するようにすればリスクは抑えられるよな?


 そうなると好き放題に創り放題か。


 にしても、物体生成とか、ぶっ壊れた性能だよなぁ。


 あの少女は、これを使って水を生み出したり、船を生み出したりしていたのか。しかも魔素を使って創ったものだから、時間経過で消えるとかそういうこともない、と。馬鹿みたいに巨大な建造物とかは作れないみたいだけど、それでも充分過ぎる。


 ホント、人種の遺産ってなんなんだ。どれ一つでも使い方によっては恐ろしいことになりそうな、それこそチートって言えるようなものばかりだな。


 だから危険なんだろうけどさ。


 あの少女も相手を魅了して支配するようなスキルに、こんなものを持っていたんだ。そりゃあ、あーいう、舐めた態度にもなるか。


 まぁ、その少女も海に溶けちゃったんだけどな。


 はぁ。


 舐めた態度のツケを払わせようとはしたけどさ、そこまでするつもりは無かったんだけどなぁ。手に入れようと思っていた情報も手に入らなかったし、俺としては望んでいなかった結末ってヤツだな。


 まぁ、とにかく、だ。


 俺は魔力を込め、力を入れて銀の首飾りを握りつぶす。


 破壊、と。


 これで破壊した人種の遺産は三つか。まだまだ全然だなぁ。後、何個あるのやら。多分、数十個はあるよな? はぁ、先は長いなぁ。


「な、何をしたんだ。ゆかを、ゆかを何処にやった!」

 少年のような少女が叫んでいる。


 何処にやった……ってさぁ。


 これ、俺が悪いワケじゃあないよな?


 まぁ、海岸に移動したのは俺だけどさ。


 こんなことになるとは思わないじゃあないか。それにさ、この世界の人が海に浮かばないってことをすっかり忘れていたしさ。俺は普通に海に入れるしなぁ。多分、異世界からやって来た猫人の料理人さんも問題無いよな?


 ますます、この異世界人の少年少女たちが転生者だという仮設が真実味を帯びてきたな。


 でもさ、もう一人の少女が着ていた服の一部が残ったのはなんでなんだろうな? 人種の遺産も溶けずに残ったし、うーん。


 そういえば、魚や海藻も溶けてないよな? 何が違うんだ? それに、海水を桶に汲むことは出来るし、それを飲んでも問題無いんだよな?


 問題なのは海に入る、ってことか。


 海に入るという行為に何かあるのかもしれないな。


 んで、だ。


「こちらは何もしてない。あの少女の自殺だろう? 海が危険だと聞いていなかったのか?」

 そういうことだ。


 人のせいにするのは違うよなぁ。


 まぁ、これでも向かってくるなら、この少女、もう救いが無いってことにしかならないけどな。


 さすがに、これ以上は大目に見ることが出来ないかな。

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