381 魅了スキル

 なんでバレないと思ったんだ?


 この少女さ、アダーラに聞くまでも無いくらいの――すぐに嘘だと分かるような演技力だぞ? それで騙せると思っているなんて、想像力が欠如した脳内お花畑な少女なのか?


 ……。


 これは転生者として創られたから、そういう命令が組み込まれていて反応をしているのか、それともこの少女の性格がそうだからなのか、少し判断に迷うな。


 さて、と。


 まぁ、どちらにしても、だ。こちらは誠意を持って応えようとしているのに、それを無視してくれたんだから、な。それ相応の報いは受けてもらおうか。


 ホント、どうしてくれようか。


 前回と同じように足に草でも生やしてあげようか。


 ……。


「嘘じゃないです……」

 もう一人の少女が涙ながらに訴えている。

「姉さま、嘘です」

 すかさず赤髪のアダーラのツッコミが入る。この少女、筋金入りだなぁ。


「信じてください」

 少女が訴えている。


 俺は赤髪のアダーラを見る。


 ……。


 これは嘘ではないようだ。信じて欲しいのは本当か。


 俺が都合良く信じて騙されて欲しいんだろうな。


「彼女の言葉が嘘だって? 彼女の言葉に嘘がないことは僕が保証するよ」

 俺がどうしてくれようか、と悩んでいると、少年のような少女がそんなことを言い始めた。


 ……。


 もう何からツッコんだら良いのか分からない。


 いやいや、君の保証になんの価値が? いや、だって、君は俺と敵対する立場だろ? 立場なんだろう?


 それで何を信じろと?


 少年のような少女は、これで問題無いと言わんばかりにドヤ顔だ。


 いやいやいや、ホント、ツッコミが追いつかなくなるぞ。そりゃあ、君の居た場所では――学校とかでは、君が言うならって思う人たちばかりだったんだろうよ。そういう風に信じて貰えるくらいの積み上げがあったんだろうよ。


 でも、ここには無いだろ?


 何故、それがそのままここでも通じると思っているんだ?


 はぁ……。


 ため息しか出てこないな。


「はぁ、今度はどんな罰がいい? その腕でも切り落とそうか? 片足でも切り落とそうか? 片目になってみるか?」

 とりあえず罰は受けてもらおうか。


 俺の言葉を聞いたもう一人の少女が後退る。そして、助けを求めるようにアダーラを見る。


「助けてください」

 アダーラに助けを求めている。


 いや、なんだ?


 もう一人の少女からアダーラに向けて魔力が伸びているな。さっきよりも少し強い力で伸びている。


「お願いします。助けてください」

 俺の方にも伸びているな。


 ……。


 いや、まさか、これ。


 俺はてっきり鑑定か何かの魔力だと思っていたけど、違うのか。もしかして、これ、相手を従わせるとか、魅了するようなスキルか。


 アダーラは少女から伸びている魔力をものともしていない。


「信じてください。助けてください」

 少女は慌ててウェイの方を見て魔力を伸ばすが、ウェイはその魔力を片手で払いのけている。


 はぁ、間違いない、か。


 相手を支配する系のスキルだろうな。この少女の余裕はそれだったのかぁ。あの迷宮で出会った少年もそうだけどさ、この子ら、相手を意のままにする系の力が好きだなぁ。


 そういう願望でもあるのかな。


 まぁ、とにかく、だ。そんなスキルがこちらに通じるかよ。


 元鎧姿の犬頭ならともかく、俺らには通じないよ。これがスキルでは無く、人種の遺産だったらヤバかったかもしれないけどさ。


 ……この分だと、さすがにそういう人種の遺産は無さそうだな。


「さっきからスキルを使っているみたいだが、それ、効かないぞ」

「え、なんで、バレ……」

 バレてないと思っているのがスゴイや。


 この少女が、何処か無駄に自信が有りそうだったのは、人を意のままに操る? 動かす? そういったスキルを持っていたからなんだろうな。


「さて、と。無くなるのは右手、左手、右足、左足、右目、左目、何処がいい? それくらいは選ばせてあげるよ」

 俺は少女を脅す。


 まぁ、脅しというか、実際にそれくらいの罰は受けてもらうつもりだけどさ。


 もう一人の少女が少年のような少女を見る。

「ゆめみさん、ごめんなさい。後で必ず助けに来ます」

 もう一人の少女はそう言うと海の方に向けて走り出した。


 へ?


 逃げた?


 しかも海に?


 まさか泳いで逃げるつもりか?


 どれだけ泳ぎに自信があるのか知らないが無理だろ。


 アダーラとウェイがもう一人の少女を逃さないよう動こうとする。俺はそれを手で制止する。まぁ、のんびりと目で追える程度の速さで走って逃げているからな。いくらでも追いつけるし、なんとでもなる。


 ここは何をするつもりなのか見てみよう。


 少女の向かう先、海の上にポンっと小舟が生まれる。


 へ?


 ほぉ。


 もしかして人種の遺産の能力か?


 ほほぉ。


 その小舟に乗って逃げるつもりなのかな?


 必死に走っていた少女が小舟に乗ろうと海に入る。その瞬間、そのまま倒れ込んだ。


「え?」

 少女は驚いた顔のまま海に倒れ込む。


「あ、体が!」

 浅瀬で、足が漬かる程度の深さしか無い海で、少女が溺れている。立ち上がれない。

「た、助けて」

 そのまま少女の体が海の中に沈んでいく。


 ……。


 あー、そういえば、この世界の人たちって海に入ると駄目なんだったか。それは異世界人でも転生者なら一緒かぁ。


 あー、うん。


 この少女、それを知らなかったんだろうなぁ。


 それとも、異世界人だから自分は大丈夫とでも思っていたのだろうか。


 まぁ、なんというか自業自得だなぁ。

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