380 神器の力?
さて、と。
とりあえず、聞いてみるか。
「それで、君が持っている神器はどんなもので、どんな能力なのかな? さっき教えてくれた中にあるんだよね?」
これを聞いておかないとな。
まさかまさか、俺に教えてくれた中に自分の神器が無いなんてことは無いだろうなぁ?
「え、それは、あの神器は、王都にあるので、それを取りに行って……」
まさか、聞かれるとは思わなかったのか? いや、普通、聞くだろ。こっちは神器――人種の遺産の情報が欲しいんだから、そりゃあ、聞くだろ。
「教えてくれ」
もう一人の少女は助けを求めるようにチラチラとアダーラの方を見ている。助けを求める相手が違っているよなぁ。その子、脳筋だから、一番、助けを求めちゃあ駄目なヤツだぞ。
「あ、あの、はい。それは、私のは、み、水を生み出す神器です」
「姉さま、嘘です」
すかさずアダーラのツッコミが入る。まぁ、そうだろうな。アダーラに言われなくても、俺だって嘘だと分かる。
「実際に見せて貰っても良いか?」
俺は聞いてみる。
さあ、どう反応するかな?
「あ、わ、分かりました。で、でも、ここだと水を生み出すと濡れて……」
もう一人の少女が困ったようにキョロキョロと周囲を見回している。
まぁ、食堂だしな。
ここが水浸しになったら猫人の料理人さんに申し訳ないか。
「分かった。場所を変えよう」
とりあえず中庭に移動しようか。
うーん、こうやって移動している間に隙を見つけて逃げだそうとしているのかな。ただまぁ、ここってさ、周りを海に囲まれた絶海の孤島なんだよなぁ。逃げ道なんてないと思うけど、どうするつもりなんだろうな。
一応、無駄だって伝えておくか。それで大人しくなってくれたら儲けものだしな。
「一応、言っておくが、ここは周囲を海に囲まれた島だよ。逃げようと思っても逃げられないからね」
二人の少女が顔を見合わせ、頷き合っている。
ふむ。
中庭に移動するつもりだったけど、海岸の方にするか。まぁ、そこまで離れていないし、歩いてすぐだからな。
アダーラ、ウェイ、機人の女王を連れて二人の少女と共に海岸を目指す。元鎧姿の犬頭は一緒に来なかった。まぁ、多分、アダーラが居るからだろうな。そうとうやり込められているようだ。
城を出て数分ほどで海に着く。
「わ、海だ」
「本当に孤島?」
二人の少女が海を見て驚いている。まぁ、一瞬でこの島まで転移してきたワケだしな。疑っていたのかもしれない。
「さて、ここなら思う存分、水が出せるだろう。やって見せてくれ」
「わ、分かりました」
もう一人の少女が頷く。
「姉さま、嘘です」
って、これも嘘かよ。ということは分かっていないってことか? はぁ、この子なんなの?
もう一人の少女が髪を掻き上げ、耳を見せる。そこには水のしずくのようなイヤリングが輝いていた。
もう一人の少女がそのイヤリングに触れ、目を閉じる。
「水よ生まれて」
もう一人の少女の言葉に応え、少女の目の前に水の塊が生まれる。
……。
魔力が動いたようには見えなかったな。魔力の素である魔素の動きまでは見えなかったけど、魔力としては動いていないのは確かだ。
なのに水が生まれた?
本当に水を生み出す人種の遺産なのか?
とにかく、人種の遺産の力で間違いは無いようだ。
「えーっと、その人種のいさ……神器とやらを渡して貰えるだろうか?」
「わ、分かりました。その代わり、私たちの身分の保障、お願いします」
もう一人の少女が耳のイヤリングを外し、それを俺の方へと差し出す。
……。
なるほどなぁ。
神器とやらが眠る場所に行こうとしなかったから、方針を変えたのかな。
まぁ、間違いなく、これ、人種の遺産じゃあないんだろうな。ホント、この子、嘘ばかりだ。
俺は少女からイヤリングを受け取らない。
「最初に言ったよな? 嘘を吐かないで欲しいって。適当なこと、曖昧なこと、それが許されると思わないようにって注意したよな? 理解していなかったのか?」
警告だって言ったのになぁ。
ホント、がっかりだよ。
「え? そ、それはどういう、私は嘘なんて……」
もう一人の少女が驚いた顔をしている。
「言わせたいのか? 神器の能力とやらも嘘だろう? それにそのイヤリング、神器じゃあないよな?」
「そ、そんな! 信じてください。私は嘘なんてついてません」
もう一人の少女が今にも泣き出しそうな、潤んだ瞳で俺を見る。
なんだかなぁ。
泣けば済むと思っているのも甘いけど、それで誤魔化せると思っているのも甘いよなぁ。
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