379 嘘か真実か

「はぁ、それで?」

「あ、はい。神器を手に入れたことで王国の人たちに認められて、でも、この世界のことをもっと知る必要があるって学校に行くことなったんです」

 もう一人の少女はそんなことを言っている。


 ……。


 それで学院都市に集まっていたのか。まぁ、その辺はどうでもいいと言えばどうでもいいんだけどな。


「なるほど。だいたいの経緯はわかった」

「僕たちは来たくて来たワケじゃないのに、あの騎士たち! きっと王の手下で、僕たちの邪魔をするように言われていたに違いないのさ」

 少年のような少女がぷりぷりと怒っている。そこでなんで騎士が出てくるんだ?


 よく分からないなぁ。


 それに、だ。さっきまで俺に怯えていたのに、なんなんだ? 情緒不安定にもほどがあるだろ。


 ……。


 って、もしかして、怒り……か?


 怒るとこうなるのか?


 まるでそれがキーとなって発動しているかのように、今までのことを忘れて怒って……豹変しているな。


 うーん、誰かに操られているかのようだ。どうなんだろうなぁ。


 それと、さっきからもう一人の少女から細くうっすらとした魔力が伸びてきて鬱陶しい。もしかして、これが鑑定能力か? だとすると制御が出来ていない可能性もあるなぁ。


 飛行機事故が起こって、神様にチート能力を授けられて異世界に転生、か。まぁ、本人たちは転移したと思っているようだけどさ。うんで、自分たちを扱き使おうとした王様と同情して味方してくれる姫様ね。んで、神器とやらを手に入れてこの世界を知るために学院都市にやって来ていた、と。


 うーん。


 まぁ、この子らにしてみたら大冒険だったのかなぁ。とにかく上手く丸め込まれて俺たちを倒す方向に誘導されているみたいだけどさ。


 まぁ、とにかく神器とやらが人種の遺産で間違いなさそうだ。


 神とか色々と興味深い言葉も出てきたけど、聞きたいのはここからだな。


「それで、えーっと、君たちは何人くらいこの世界にやって来て、どれだけの人種の遺産――神器を手に入れたのかな? 分かれば手に入れた神器とやらの性能も教えて欲しいな」

「誰がお前などに教えるものか!」

 少年のような少女がそんなことを言っている。


 またか! って思わないでもないけど、さっき、怒って反抗モードに移行していたからな。こうなりそうなのは予想していたよ。

 反抗モードになると、その結果、どうなるかも考えずに噛みつくみたいだからなぁ。


 ……まるで機械的な行動を繰り返す人形だな。


 もしかすると本当にそうなのかもしれないなぁ。


 彼女たちは魔素で構成されている。誰かが容れ物を作ったってことだ。まぁ、それが神を名乗るヤツの仕業なんだろうけどさ。そこにたましい的なものを注入したのかと思ったが、もしかすると記憶を転写しただけなのかな。って、それは飛躍して考えすぎか。


 ただ、どうも本人たちも分かっていない、こうしたらこう反応するという機械的な命令が組み込まれている感じだな。


 ……。


 本人たちは転移してきた自分自身だと思っているのに、ただの操り人形とか、ちょっと救いが無さ過ぎないか。


 俺もさ、異世界人だって言うから期待していたのに、なんというか、仲間に会えると思っていたら、ものまねをする機械人形だった的ながっかりさがあるなぁ。もしかしたら同郷に出会えるかもとか思っていたのにさ。


 自分たちが人形だということを理解していない分、やりきれない。


 んで、だ。


 とりあえず反抗モードになっている少年のような少女は無視しよう。


「とりあえず分かる範囲でいいから教えてくれ」

 俺はもう一人の少女にお願いする。もう一人の少女は少年のような少女をチラリと見て、頷き、意を決したように俺を見る。


「こちらの世界に一緒に来た人たちは三十人ほどです。神器の能力は一部、知っています。いつでもどれだけでも水を生み出すもの、瞬間移動、どんな攻撃も跳ね返す、一度放てば絶対に命中する弓と矢、持ち運び出来る家、持ち運び出来る船などです」

 ふむふむ。


 俺はアダーラを横目で見る。


「嘘です」

「どの部分?」

「仲間の人数と一部と言った部分です」

 なるほど。


 仲間の人数は三十人どころか、もっと多いんだろうな。この学院都市に来ていた異世界人だけでそれくらいは居たからな。王都に残った連中が居るって話なのに、それじゃあ数が合わないもんなぁ。


 んで、神器の能力とやらが嘘じゃあないということは、そういう能力の人種の遺産が実際にあるということか。これは有用な情報だな。で、一部の部分が嘘か。となると、この少女は殆どの人種の遺産の能力を把握している、ってことになるな。


「私なら神器が有った場所の扉を開けられます。案内出来ます」

 もう一人の少女が得意気な顔でそんなことを言っている。


 なるほど、嘘はこう繋がるのか。


 俺をおびき寄せようと。その人種の遺産があった場所に罠でもあるんだろうな。


 なるほどなあ。


 嘘を吐いて足に草を植え付けられたのに、また嘘を吐くなんて良い度胸をしているよなぁ。まぁ、でも、嘘を吐いたが、この少女は有用な情報を持っている。人種の遺産の殆どを知っているワケだしな。うん、全て聞き出さないとな。


 ……。


 ……と、普通なら思ってしまうんだが、ちょっとなぁ。アダーラがどうやって嘘かを見極めているかにもよるけど、この子らが人形だとすると……本人が自覚せずに嘘を吐かされている可能性があるんだよなぁ。


 嘘じゃないからと信じすぎるのも問題だ。

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