378 馬鹿なのか

 まぁ、俺は別に能力を偽装しているワケじゃあないからさ。この子らが勝手に思い込んで、そんなことを言っているだけだからなぁ。


 多分、そのタケハラとやらの鑑定スキル、本当に外れスキルだと思うぞ。


 ……。


 あ、そうだ。


 これも聞いておこう。


「お前たち、透明な板で触れると文字が表示されるようなものを持っているか?」

 タブレットのことだ。こいつらも持っているかどうかだな。


「持って……いません」

「何のこと? 僕たちはこの世界に来た時、着ていたもの以外、全て無くなっていたからね」

 ……。


 全て無くなっていた?


 いや、転生だからそれは当たり前なんだろうけど、それじゃあ、なんで服だけは再現されていたんだ?


 うーん。


 いや、この世界は魔素で形作られた世界だ。再現しようと思えば出来るのか? だが、それは魔素を完全に制御出来なければ無理だろう。そんなこと、俺だって出来ないぞ。いや、魔素から人自体を創り上げているんだから、それくらいは出来て当然なのか。


 まさしく神の所業だな。


 そりゃあ、神って名乗るワケだ。


 だけどさ、そんなことが出来るヤツが何を望んでいるんだ? そこまで出来るなら、望めば望むだけ、なんでも出来るだろ。それなのにさ、なんのために、この少女たちを転生させたんだ?


 それって必要か?


 必要なことなのか?


 うーむ。


「アダーラ、さっきの言葉に嘘はあっただろうか」

「姉さま、これらが何を言っているのかよく分かりませんが、嘘は有りませんでした」

 嘘は無し、と。


 まぁ、とにかくタブレットは持っていないようだな。


 なんであんな場所に落ちていたんだろうな。まるで俺に拾ってくださいと言わんばかりに落ちていた。


 うーん。


 分からない。


 まぁ、分からないことを考えても仕方ないな。


 話を戻そう。


「えーっと、それでどうなったんだ?」

 少年のような少女が俺の方をキリッとした瞳で見る。

「魔王、お前は何故、そんなことを気にする? その情報がお前の野望のためだというなら僕は教えることは……出来ない」


 ……。


 まぁた、それかよ。


 なんなの。ちょっと会話したら、俺の威圧とか忘れるの? 麻痺するの? こいつら鳥頭なのか? なんだろうなぁ、ここまで来ると俺を怒らせようとしてるとしか思えないんだけど。こいつらを殺して、まともに会話が出来る人を探した方が早いんじゃあないだろうかって思ってしまうよ。


「はぁ、何度も言わせないでくれ。世界征服だとか、大陸の種族を支配だとか、やろうと思えばいつだって出来るんだよ。俺が聞いているのはただの興味本位だ。話したくないなら別に構わん。死にたくないならきゃんきゃん噛みつくな」

「な、僕を馬鹿に……」

「馬鹿にしているのはどっちだ?」

 俺は強く魔力を込めて少年のような少女を睨む。少年のような少女はそれだけで涙を流し、過呼吸となり、ガタガタと震え出す。


 魔素を知らず、魔力の扱い方も分かってないレベルで、なんで、強気に出られるのかなぁ。この世界の常識が少し足りてないんじゃあないだろうか。


「あ、あ、す、すいません、は、話をつ、つ、続けます」

 もう一人の少女が怯えたようになりながらも、そう言葉を吐き出す。


 俺は威圧していた魔力を抑える。


「あ、ありがとうございます。ふ、ふぅ。続けますね。神様から、み、みんながスキルを貰った、んです。そ、それで気がついたら見知らぬ場所で……城の中でした」

 チートスキルを貰って異世界に、か。なんというか一昔前の小説のお約束みたいな展開だな。


「そこでは王様が私たちを待ってました。王様は私たちに神器を授けるから、あなたたちと戦えって命令してきました」

 ほう。


 王様が待っていた、か。神様とやらと王様はグルなんだろうか。まぁ、何か関係がありそうだな。


「呪われた四種族を倒せば、元の世界に帰ることも出来るし、お宝もくれるって言ってました」

 分かり易い餌だな。


「横暴だって反対する人も居たんです。でもそういう人たちは牢に入れられて……」

 おいおい、神とやらの前でも同じことをやったんだろう? それでどうなったかを忘れたのか? こいつら学習能力がないのか。それとも王だから神よりも格が落ちるから、反抗してもなんとかなるとか思ったのか?


「……姫様は無理矢理この世界に連れて来られた私たちに同情してくれて、色々と助けてくれたんです。あの横暴な王様の娘とは思えないくらい優しい人です」


 ……。


 この子ら、馬鹿なのか。


 優しい姫様? 横暴な王様? そんなのマッチポンプに決まってるだろ。警察の尋問とかと一緒だろ。脅す役となだめすかして優しくする役――そういうことだろ。


「姫様の助けがあって、私たちにしか開けられない宝物庫の奥に有った神器を手に入れたんです」

 もう一人の少女が何処か悲劇に酔っているような顔でそんなことを言っている。


「姉さま、嘘です」

 アダーラの言葉。

「えーっと、どの部分?」

「私たちにしか開けられない、です」


 ……。


 はぁ、ここで嘘か。


 にしても、なんで、その部分で嘘を吐いたんだ?


 まぁ、いい。


 とりあえずは、この子らの話を最後まで聞いてからだ。


 はぁ、頭が痛くなってくる。もう、ため息しか出ないなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る