377 チートです
飛行機事故に巻き込まれたと思ったら、いつの間にか真っ白な世界に居て、神様を名乗る光が現れた、と。
次はなんだ? 手違いで殺してしまったからチートを授ける、とかか?
俺、チートって言葉、嫌いなんだよな。力を求めるのは悪くないけどさ、チートって要は『ずる』だよな? 元の世界でオンラインゲームが好きだった身としてはチート――ゲームを不正改造して、ずるをするチーターって奴らに良いイメージが無い。
悪いイメージしか無い。
ああ、そういえば、この世界に来る前に遊んでいたゲームでも無敵チートのクソ野郎に会ったんだった。
あれは気分が悪かったなぁ。まぁ、愉快痛快爽快に倒してやったけどさ。
んで、だ。
「その神様が、私たちに異世界に行って貰うって」
「思い出しても腹が立つよ。僕たちの意思を無視して、そんなことを勝手に決めてね」
少年のような少女が頬を膨らまして怒っている。もう一人の少女は少し伏し目がちにチラチラと周囲を見回していた。いや、アダーラとかウェイを見ているのかな? それになんだろう、もう一人の少女から、小さく、細い、糸のような魔力が伸びている。何か観察しているのか?
この少女、これが神器です、とか言って偽物を出して、さらっと嘘を吐いていたし、何か企んでいるのかもしれないな。やっと話をしてくれるようになったけど、油断せず注意しておいた方が良さそうだ。
「勝手につれてこられた、か。えーっと、それだと、その神とやらに暴言を吐く人や逆らう人も居たんじゃあないか?」
俺の言葉を聞いた二人の少女が頷き合う。
「居たけど……」
「うん、居た……けどね」
二人の少女が少し歯切れ悪く言葉を濁し、何かを思い出したように顔をしかめている。
「えーっと、何があったか教えて貰えるか?」
なんとなく予想が出来るけどさ。
「大人の人が、元の世界に帰せって騒いで」
「うん、ロクハゲも、これは拉致だ。国際法に基づいて損害賠償を求めるとか言いだしてたね」
ロクハゲ? 誰だよ。酷い名前だな。いや、あだ名か? どちらにしても酷い呼び方をしているな。
「えーっと、それで?」
「死んだよ」
「あれ、殺されたんだよね」
「生きているワケがないさ。いっつも僕たちをねちゃあっとした目で見る嫌なヤツだったから清々するけどね」
「体に火が点いて、あれ、燃え死んだんだよね? 助けてくれって転がり回っていて、ホント、いい気味だったんだから……」
「ロクハゲや騒いでいる大人たちがそうやって死んだから、他の先生も怯えて、何も言わなくなったからね。そのせいで……大人ならもう少し、ああ、言っても無駄かな」
逆らったり、うるさかったりするヤツは殺すって感じなのか。随分と余裕の無い神様だな。
にしても、大人もいたのか。あの学院で出会ったのは全て少年少女たちだったから、こちらに転生してきたのは全て子どもだと思い込んでいたが、違ったのか。
「えーっと、それで?」
「僕たちはその神ってヤツから、この世界で生きる力を貰ったんだよ」
「男子はチート能力だって言ってたよね」
でたよ、チート。
神から貰った力ねぇ。
怪しさしか無いな!
「えーっと、それは、これこれ、こういう能力が欲しいとか神様に言って授けて貰った感じかな?」
少女二人が顔を見合わせ、首を横に振る。
「あの、それは、あの」
「神ってヤツが一方的にくれた感じだよ。ステータスを見れば分かるって言われてね」
「……なんで言っちゃうかなぁ。あ、はい、そうです」
ステータスを見れば?
「でも、このステータスも当てにならないようだね。あんたなんかレベル5なのに魔王で、こんな恐ろしい人たちを従えてるなんてね。それとも覚醒して一気にレベルが上がるのかな?」
少年のような少女がそんなことを言っている。まぁた、こいつらは人のステータスを勝手に見たのかよ。
というか、こいつらが俺に舐めた態度をとっているのって、俺のレベルが低いからか? レベルなんて意味が無いのになぁ。
「ステータス? 君らには自分がどう見えているか教えて貰えるかな?」
「え? あ、それは、えー」
「名前はタマ、レベル5、称号は笑顔の伝道師に農家、クラスは猫耳、スキルは無し、だよ。これがどうやったら魔王に? 詐欺だね」
「ゆ、ゆめみさん、それ多分、ステータスを偽装しているんじゃないかな」
「あ! そうか。魔王ならそれくらいするか。ステータスを見る能力なんて当てにならないと思ったけど、そういうことだったんだね」
少女たち二人だけで盛り上がっている。いや、間違ってないだろ。俺は偽装なんてしていないからな。
「名前だけではなく、スキルも分かるのか」
あの迷宮で戦った少年は名前と称号の二つ目までとクラスにレベルしか言わなかった。だからスキルや魔法は読み取れないものだと思っていたが、違うのか。それとも、この少女が特殊なのか?
「スキルが分からないと戦う参考に出来ないからね」
「ああ、ゆめみさん、それを言うと……」
「あ、ごめん」
もう一人の少女があちゃーって顔をしている。こちらのステータスが読めることは内緒にしておきたかったのか。聞こえないように内緒話をしているつもりなんだろうけど、耳がよい俺には丸聞こえなんだよなぁ。
「その能力は異世界から来た全員が持っているのか?」
二人の少女が顔を見合わせ、少し悩み、そしてゆっくりと頷く。全員がステータスを見ることが出来る、と。しかも、これ、多分、一瞬で見ているよな? 俺なんてタブレットをかざして時間をかけてやっと分かるのにさ。
随分なチートだな。
ああ、だから、俺じゃなくて、ウェイやアダーラを警戒しているのか。
「偽装能力かぁ。あ、鑑定スキルって、もしかして、そのため? 見れば分かるのに、タケハラの鑑定スキル、あれなんて意味が無いって外れスキル扱いだったけど、そういうことかな」
「うん。多分そうだよ。セイノ君の色々な言葉が分かるチートも外れ扱いだったけど、こっちに来たら……」
「確かにそうだね。まさか僕も言葉が通じないとは思わなかったからね」
言葉が通じないって……。
逆にさ、どうして通じると思ったんだよ。
にしても、神様に出会ってチート能力を貰って、か。俺とは随分と違うな。飛行機のこともあるし、もしかしたら俺と同じ世界なのかと思ったが、これは違うな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます