376 わかるよね

「さて、色々と教えて貰いたいけど、いいかな?」

 俺は砕けたテーブルを端に寄せ、適当なテーブルを二人の目の前に置く。そのテーブルの上で腕を組む。


 二人の少女は少し怯えたような目で俺を見ている。


 なんだろうなぁ。少し脅しすぎたか。


「えーっと、姫様という人が君たちをこの世界に召喚したのかな?」

 召喚というと正確には違うのかもしれないが、ここは彼女たちに理解し易い言葉の方が良いだろう。

 彼女たちの会話に何気なく出てきた人物――姫様。どうにも重要人物のようだ。


「僕たちを召喚したのは王様……いや、神様だね」

 神様?


 また、よく分からない存在が出てきたぞ。


 どういうことだ?


「あー、そうだよね。ただしくはそうだよね」

 二人の少女が頷き合っている。


 うーん、一瞬で自分たちの世界を作ってしまうのは凄いなぁ。気分で生きているというか、俺と会話する気があるのだろうか。ついていけないなぁ。


 というか、状況が分かっているのだろうか。


「えーっと、一から教えて貰っていいかな?」

 俺の言葉を聞いた二人は頷き合い、そしてもう一人の少女の方が喋り出す。

「分かりました。で、でも、その代わり条件があります」


 ……。


 凄いな。この状況で条件とか言えるのが凄いな。自分たちがそういう立場に無いって分かっていないのだろうか。同じ異世界人のよしみだって大目に見ていたら、どんどん図に乗られているような感じだなぁ。さっきまで俺の力に驚いていたのに、もう忘れたんだろうか。それとも自分は絶対に死なない、殺されないとでも思っているのだろうか。


 なんだかなぁ。


「えーっと、条件とか言える立場だと思っている?」

「わ、私を脅すつもりですか。で、でも、私に何かあれば、情報は手に入りません。こ、困りますよね」

 もう一人の少女が少し怯え、おどおどした感じでそんなことを言っている。その会話の途中途中で何故かアダーラの方を見ていた。なんだろう、俺よりもアダーラの方が怖いのかな。


 こういう時はどちらか片方が生きていればーとかやるのがセオリーかもしれないけど、まぁ、そこまでやる気は無い。人を殺すとか傷つけるとか、余りしたくないからさ。


「はいはい、それで条件って何?」

「ここでの地位をください」


 ん?


 あれ?


 てっきり、元の世界に帰る方法を教えてくれとか言い出すのかと思ったけど、予想外だな。ちゃんと俺が言ったことを覚えていたのかな?


 にしても、ここで、まさかの権力!


「えーっと、どういうこと?」

「私にはあなたたちが知らない異世界の知識があります。きっと役に立つはずです」

 えーっと、本当に予想外なんですけど。


 ん?


 少年のような少女ももう一人の少女の言葉が予想外だったのか、驚いている。あー、この少女が暴走している感じか。


 にしても異世界の知識ね。


 この少女くらいの年齢が持っている知識で欲しいものなんてあるか?


 中学生くらいの少女なぁ。


 料理の知識なら猫人の料理人さんで間に合っているし、農業なら草魔法でなんとでもなるし……後は政治や科学技術? それって必要?


 この子が博学で色々知っていたとしても欲しい知識なんてないなぁ。


「ゆか、どういうことだい?」

「ゆめみさん、任せて。私に考えがあるの」

 二人はヒソヒソ声でそんなことを言っている。聞こえないと思っているんだろうなぁ。


「あ、えーっと、まぁ、そうだな。とりあえずは今のところ、客人という対応をさせてもらうよ。その後は君ら次第ということで、それでどうかな?」

 甘々な感じだが、元々客人として扱う予定だったのだから、構わないだろう。ここで偉くなりたいというのなら、頑張ってみんなに認められればいい。それくらいは許可しよう。


 まぁ、これ以上、まともにこの子らの相手をしていたら話が全然進まないしなぁ。こっちが折れるしかない。って、それが狙いなんだろうか?


「わ、分かりました」

 分かってくれたか。よかった。


「で、最初から、教えて貰えるかな? 君たちがこの世界に来た状況、その神様とやら、お姫様のこと、人種の遺産のこと」

 もう一人の少女が頷く。


「わ、私たちは修学旅行で飛行機に乗っていたんです。あ、飛行機というのは空を飛ぶ鉄の塊で、あなたたちには信じられないかもしれないですが、私たちの世界にはそういったものもあるんです」

 もう一人の少女は何処か得意気だ。


 はいはい、飛行機ね。知ってる。


 俺も知ってる。


 というか、俺がこの世界に来る前も飛行機に乗っていたし、凄く知ってます。その飛行機の事故でこの世界に来たワケだしさ。もしかすると、本当に同じ世界から来たのかもしれないなぁ。ただ、そうなると神様とやらがよく分からないが。


「えーっと、それで?」

「あ、はい。飛行機が突然、揺れて、気がついたら、神様の居る真っ白なところに居ました」

「うん。あの時は凄かったね。飛行機が落ちるのかと慌てたよ」

 二人の少女が頷き合っている。思い出話に花を咲かせていないで続きをお願いしたいなぁ。


「えーっと、それで? 神様と出会ったの?」

 俺の言葉に少女たちが頷く。そうそう、とりあえず話を進めてくれ。

「あれは真っ白な雲の上みたいな場所だったね。僕は飛行機事故で死んで天国に行ったのかと錯覚したよ」

「うん。みんながいたから、ああ、みんな死んだんだって一瞬思ったよね」

 みんな、ね。修学旅行……学生ってこと? その修学旅行に参加していた学年全部って感じなのか?


「そこに光が降りてきて、私たちに異世界に行って貰うって」

「だね。その光が自分のことを神様だと言っていたんだよ」

 ああ、うん。


 なんとなく展開が読めるなぁ。

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