375 わかれよな
少女たちは俺の方を睨んでいる。
はぁ。
舐められてるからなのかなぁ。
「えーっと、鉄のインゴットから鉄の槍とか作れる?」
「母様、任せるのじゃ」
機人の女王が頷く。まぁ、俺も作れるだろうけどさ、機人の女王ほどは上手く作れないからなぁ。まぁ、ミルファクに頼むのが一番だろうけど、今はそれを求めているワケじゃあないからな。
「今からインゴットをとってくるのじゃ」
お、そうか。さすがに持ち歩いてはいないか。
「ひひひ、それなら我の配下に持ってこさせるよ」
蟲人のウェイがそう言ったかと思うと、すぐに蟻の姿の蟲人が鉄のインゴットを運んできた。
「ひっ、何か来た」
「正体を現したね。僕たちを襲うつもりか」
二人の少女はそんなことを言っている。見た目で判断するなって言ったばかりなのになぁ。悪意があるかどうか――害意があるかどうかくらいはさ、見た目が違っても分かると思うんだけどなぁ。
蟻の姿の蟲人たちが機人の女王の前に鉄のインゴットを並べていく。
「えーっと、それで作れる?」
蟻の姿の蟲人たちが俺の方に一礼して去って行く。礼儀正しいよな。
「うむ。任せるのじゃ」
機人の女王が簡易炉を取り出し、鉄のインゴットを加工する。あー、簡易炉の方は持ち歩いているのか。というか、あれ、元々は俺のものなのに、いつの間にか機人の女王の私物みたいになっているよなぁ。
鉄のインゴットが形を変え、鉄の槍へと姿を変える。おー、一瞬だな。まぁ、別に槍じゃあなくてもよかったんだけど、この世界、武器と言えば槍って感じだから、槍が無難だろう。
俺は完成した鉄の槍を持ってみる。柄の部分まで鉄で作られているからか、結構、重たい。まぁ、でも、所詮、鉄製品だな。
俺はその鉄の槍を、暇そうにしている元鎧姿の犬頭へと放り投げる。
「へ? この槍を私にくれるのですか?」
俺は首を横に振る。違う、そうじゃあない。
「その槍を折り曲げること、出来るかな?」
俺は元鎧姿の犬頭に共通語で話しかける。
「そんなことが出来るワケないでしょう。何を言っているんですか?」
「いいから、やってみてくれ」
元鎧姿の犬頭がしぶしぶという感じで鉄の槍を折り曲げようとする。
「姉さまが命令している。やれ!」
アダーラに言われ、元鎧姿の犬頭が慌てて顔を真っ赤にするほどの力を入れる。そこまでして、鉄の槍が少しだけ湾曲する。だが、手を離した瞬間、元に戻る。
「無理です。せめて強化魔法を掛けてください」
うーん、まぁ、この程度か。
「えーっと、それをそっちの二人の少女に渡してください」
元鎧姿の犬頭が怒られなかったことにホッとした様子で二人の少女の前に鉄の槍を置く。
「何さ、僕たちにこれをどうしろって言うのかな」
少年のような少女が鉄の槍をジロジロと眺めている。
「それを折り曲げてみてくれ」
「はぁ? そんなこと出来るワケないよ。さっきの獣人も出来なかったじゃないか」
「そ、そうですよ」
二人の少女はそんなことを言っている。
「この世界に来て力が増しているかもしれないだろう? やってみたらどうだ?」
「ふん」
少年のような少女が鉄の槍を手に持ち、一応という感じで力を入れる。だが、それだけだ。何も起こらない。たわみもしない。
「ほら、出来るワケがない。こんなことを僕たちにさせて何がしたいんだい」
少年のような少女がふてくされたような顔をしている。突然、泣いてみたり、不機嫌になってみたり、情緒不安定なのか。
……。
まぁ、というワケだな。
何か秘められた力が、なんてことは無く、出来ない、と。
「アダーラ、頼む。やってみてくれ」
「姉さま、分かりました」
アダーラが少女たちから鉄の槍を受け取り、それを曲げる。特に力を入れた様子も無く、鉄の槍を簡単にコの字に曲げ、そのまま交差させる。
「姉さま、これでよろしいですか?」
あっさりだな。そりゃあ、所詮、鉄製品だから、そうなるだろうな。
元鎧姿の犬頭と二人の少女が大きく口を開けて、間抜けな顔で驚いている。
さて、と。
これで終わりじゃあないからな。
俺はアダーラからその曲がった鉄の槍を受け取る。
そして、その鉄の槍をさらに曲げる。まぁ、この程度なら、魔力が溜まって怪力になっているハーフたちなら、出来る奴も居るだろうな。
うんで、と。
ここからだ。ここからはこの世界のハーフでも出来ないだろう。
折り曲げた鉄の槍を手のひらで押し潰し圧縮する。魔力を込め、小さく、小さく圧縮していく。
元は鉄の槍だったものが四角い小さな金属の塊に変わる。
今の俺なら鉄なんて柔らかい粘土みたいなものだよ。楽勝、楽勝。
二人の少女が恐ろしいものを見たかのように青い顔になっている。
さて。
「これが、力の差だけど。分かったかな?」
分かり易く目に見える形で力の差を教えてあげたんだけど、理解してくれただろうか。
うーん、分かっていない気がするなぁ。
俺は小さな正方形に生まれ変わった鉄の塊を二人の少女の前に放り投げる。
鉄の槍は小さな塊へと姿は変わったが、鉄の質量が変わったワケじゃあない。テーブルの上に落ちた塊は、その重さと衝撃でテーブルを破壊する。
「ひ、化け物」
少年のような少女が怯えたように椅子から転げ落ちる。
「そう見えるくらい力量に差があるってことだ。言っていることの意味、分かったかな?」
俺はもう一度同じことを告げる。
これで理解してくれたらいいなぁ。
「あまり食堂の備品を壊して欲しくないのですが……」
と、そこで猫人の料理人さんのそんな呟きが聞こえた。
あ、ごめんなさい。
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