374 わからない
二人の少女たちがパンケーキを食べ終える。
さて、と。
色々聞きたいことはあるけど、まずは……だな。
俺はもう一人の少女の方を見る。
「えーっと、話を聞きたいが、まずは嘘を吐かないで欲しい。適当なこと、曖昧なこと、自分がこんな外見で、今、穏やかな態度をとっているからと、それらが許されると思わないで欲しい。上手く言いくるめようなんて思っているなら、痛い目を見ることになるよ。これは忠告ではなく、警告だからね」
この少女、俺に嘘を吐こうとした前科があるからなぁ。さすがに次は許せないよなぁ。
次に、俺はウェイの方を見る。
「えーっと、嘘を吐いたら分かるとか、そういう便利な魔法とかはないだろうか?」
魔人語で話しかけているから、少女たちは俺たちが何を話しているか分からないだろうな。何故か同席している元鎧姿の犬頭も理解出来ないだろうし、うん、まぁ、俺らがこんな会話をしているなんて思わないだろうな。
「ひひひ、それなら赤髪がちょうど良いね。ひっひっひ、あれの前では嘘など意味が無いだろうよ」
ウェイはそんなことを言っている。
アダーラが?
あのアダーラが?
脳筋のアダーラが?
うーん。逆に脳筋だから嘘とか見破れるのかなぁ。
「えーっと、それでアダーラは、今、何処に?」
いつもなら真っ先に駆けつけてきそうな感じだのに、今日は姿を見ないからな。
「ひっひっひ、赤髪なら、今、狩りに出ているところだよ。そろそろ帰ってくるだろうね」
そうか、狩りに出ていたのか。ここだと採れる食材に限りがあるからなぁ。
って、ん?
いや、でもさ。
「ウェイ、アダーラが嘘を見破れるのは分かったけど、この子らの言葉が分からないんじゃあないか? それとも言葉が分からなくても問題無いのか?」
「ひっひっひ、あやつなら問題無いよ。言葉を習得しているからね。ひひひ、そういう意味でもあれが適任なのさ」
アダーラが異世界の言語を習得している?
あの、アダーラが?
脳の中まで筋肉が詰まってそうなアダーラなのに?
……。
あー、でも、猫人の料理人さんと一番長く一緒に居たのはアダーラだったか。そうだよ。面倒を見てあげていたワケだしさ。
……まぁ、料理に釣られていたような気がしないでもないけど。
なるほどな、うん、そう考えると、あり得るか。
「姉さま!」
と、そこに噂のアダーラがやって来る。計ったかのようなタイミングだな。ウェイ、気付いていた? 狙っていたのか?
「姉さま、何故、ここに! ヒトモドキモドキが居るのです! 気持ち悪い」
アダーラが二人の少女を見て、そんなことを言っている。
気持ち悪いってなぁ。それにモドキ、モドキって……。
「とりあえず、今のところは客人だから手荒なことはしないでくれ。とりあえずは、だけどさ」
「分かりました。と、おい、中庭に肉を積んでいる。処理してくれ」
アダーラが俺の言葉に頷くと、すぐに猫人の料理人さんに命令していた。相変わらず無駄に態度が大きいなぁ。
さて、と。
アダーラも来てくれたことだし、これでやっと会話が続けられるか。
俺は皆を見る。
んー、そういえば機人の女王が無言だな。いつもなら、面倒なほど絡んでくるのに、今日は静かにしている。まぁ、それでいいんだけどさ。
『母様に言われたことを守っているのじゃ』
……。
って、うお!?
頭の中に機人の女王の声が響いたぞ。
なんだ、これ。
『魔力の繋がりがあればこういうことも出来るのじゃ』
またも頭の中に機人の女王の声が響く。
念話みたいなものか?
凄いな。
にしても、俺が言ったことを守っているなんて、機人の女王も成長しているなぁ。だけど、母様って呼び方は止めて欲しいな。せっかく、呼び方が戻ったのに……。
……。
……。
って、あれ?
は……はさま?
いやいやいや、おかしいだろ。
俺のことを母様って呼んでいたのは時を戻す前の世界の時だ。今回はその呼び方で俺を呼ぶようになる出来事が無かったはずだ。
無かった……よな?
なのに、何故?
どういうことだ?
『母様、どうしたのじゃ? わらわは勝手な行動をしないように大人しくしているのじゃ』
そうだよ。
その注意をしたのも前の世界だろ。
なんで、だ?
どういうことだ?
わからん。
「それで、僕たちに何を聞きたいの? 簡単に答えるつもりはないけどね」
「そ、そうだよ。悪には屈しないんだから」
二人の少女がそんなことを言っている。
……。
と、そうだったな。今はこの少女の相手をしないと駄目だった。
にしても、悪って、悪ってさぁ。
「えーっと、悪って誰のことかな?」
二人の少女が俺を、俺たちを指差す。人を指差すとか礼儀がなってないなぁ。ほら、アダーラとかこめかみがピクピクしているじゃあないか。コイツが怒りで爆発したら洒落にならないぞ。
「あのさ、それ、誰が言っているの?」
「みんなが言っているよ」
「ああ、姫様も言っていた。言っていた通りだったよ。こんな邪悪な城に住んでいて、邪悪な配下を持っているなんて悪そのものじゃないか」
みんなって誰だよ。
それに姫様?
よく分からないな。
「そういう種族なだけだ。外見で判断するような性根の方が悪じゃあないか?」
「え? でも……」
「そんな言葉には騙されない。神器を狙っていたよね。神器を奪ってどうするつもりかな? その力で世界征服でも狙っているの?」
……。
この子、馬鹿なのか。
それとも、その場の勢いで喋っているのか?
俺、目の前で人種の遺産を破壊したよな?
それがなんでそういう話になるんだ?
ため息が出そうになる。
「あのね、どう勘違いしているか知らないが、世界征服なんて面倒なことをするつもりはないよ。こっちは静かに暮らしたいんだよ。その邪魔になるから、人種の遺産を壊そうと思っているだけだ。それにね、君らは魔力が見えないから、力量の差が分からないのかもしれないが、大陸の種族と自分らでは強さが違うんだよ。それこそ、桁が違うんだよ。そんな弱い者いじめみたいなことをして、どうするっていうんだよ」
「いや、でも、うん、騙されないぞ」
少年のような少女はまだそんなことを言っている。
すっごいかたくなだなぁ。
なんだろう、洗脳とかされているのか?
「食事も出してあげて、我が儘を許して、無礼な態度も許しているのに、それも分からないのか?」
わけわからん。
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