372 解説役魔王

 もう一人の少女が機人の女王の案内で席に着き、そしてうどんが運ばれてくる。

「これ……」

 もう一人の少女が少年のような少女の方を見る。少年のような少女が無言で頷きを返す。


 もう一人の少女が箸を持ち、恐る恐るという感じでうどんを一口すする。そこからは早かった。


 もう一人の少女が恐ろしい勢いですする、すする、すする。うどんの熱さをものともせず、食べる。


「魔王、それでお前は……」

 少年のような少女が俺に話しかけてくる。それを手で、しばし待てと制する。話はもう一人の少女が食べ終わってからだ。


「はぁ、美味しかったぁ」

 もう一人の少女が満足したような顔でうどんの入っていた器をテーブルに置く。しっかりと汁まで飲みきったようだ。


「魔王、ここは何処だ。お前は何を知っているんだい?」

 少年のような少女が聞いてくる。いや、だからさぁ、ホント、人にものを聞く態度じゃあないよなぁ。こういうのも教育なのかなぁ。


「はぁ、まぁいいさ。ここは名も無き帝国。その帝城だよ」

「だから、それが……」

 俺は肩を竦める。


 正直に教えてあげたのになぁ。


 本当に我が儘な子どもたちだよ。


 んで、だ。


「ウェイ、いる?」

「ひっひっひ、我をお呼びで?」

 蟲人のウェイが俺の影からにゅるっと現れる。


「ひっ、お化け!」

 少女たちが突然現れたウェイの姿に驚いている。うん、俺も少し驚いた。


 なんで、そういう小粋な登場の仕方をするかなぁ。まぁ、いいけどさ。


 俺は蟲人のウェイに眼鏡のようなものを見せる。

「それは僕の!」

 少年のような少女が叫ぶ。だが、俺はそれを無視する。


「ウェイ、これが人種の遺産かどうか、分かる?」

 ウェイが俺の手にある眼鏡のようなものを見る。

「ひひひ、帝よ。帝はそれを扱えますかな?」

 俺が使えるかどうか?


 眼鏡だよなぁ。


 とりあえず掛けてみれば分かるか。


「それは僕にしか扱えないよ」

 少年のような少女がそんなことを言っているが無視して眼鏡をかける。


 ……。


 なるほど。


 その瞬間、これの使い方を理解する。使い方が俺の頭の中に流れ込んで来ていた。


 多分、こうかな?


 目を――視線を動かす。そして、そこへ意識を運ぶ。


 次の瞬間、俺は、その見ていた場所に立っていた。


 なるほど、こういう感じか。


 これ、便利だなぁ。自分自身の魔力を使わないし、見えている範囲なら一瞬で移動が出来るとかさ。使い方さえ、間違えなければ、うん、普通にチートな道具だよ。


 ホント、ずるとしか言いようが無い道具だ。


 んで、だ。


「な、なんで扱えるんだよ。それは僕専用なのに……」

 少年のような少女が驚いた顔で俺を見ている。


 ふむ。


「帝よ、ひひひ、それを貸して頂けますかな?」

 俺はウェイに眼鏡を渡す。


 ウェイが眼鏡をかけてみたり、かざしてみたり、色々とやっている。そして、検証が終わったのか俺に眼鏡を返す。

「ウェイ、それで」

「ひひひ、我には扱えんよ。ひっひっひ、人種の遺産で間違いないね」

 そうか。


 間違いなかったか。


 俺は自分の手の中にある眼鏡を見る。便利すぎる、道具だ。


 うん、正しくチートだな。


 俺は魔力を込め、眼鏡を握りつぶす。


 よし、完全に壊れたな。


「何をするんだよ!」

 少年のような少女が叫んでいる。


 さて、と。


 俺は少女たちの方へと向き直る。


「これが人種の遺産だということが分かったので破壊させて貰ったよ。こちらの目的は、この人種の遺産の破壊だからね」

「何が目的だ」

 少年のような少女がそんなことを言っている。いや、だから、今、目的を言ったじゃあないか。聞いてなかったのか? この子らが分かる言語で喋ったよな?


 ……。


 あー、なんの目的で破壊しているかって聞きたいのか。


 なんだかなぁ。


 なんでも聞いたら答えて貰えると思うのはなぁ。まぁ、俺も人のことは言えないけどさ。


 まぁ、いいか。


「さて、と。説明するのも面倒だし、説明してあげる義理もないんだけど、まぁ、教えてあげるよ」


 まぁ、いちいち最初から説明するのも本当に面倒だから意訳で簡略して教えるけどさ。


「えーっと、かつてこの世界を支配していたのが人と呼ばれる種族で、さっき、君が持っていたのが、その人種の遺産だよ。んで、その人種の配下には四種族と大陸の種族が居たワケだ。大陸の種族は人種の遺産の管理を任されていたんだけど、四種族の力を恐れて、なんとかその遺産を使えないかと思ったワケだ。それで異世界から使える力を持った君らを転生させたってワケだよ」

 というワケだ。

「待って、転生ってどういうことですか?」

 もう一人の少女が聞いてくる。そこに食いつくか。


「あー、そうか。君らは転移してきたと思っているんだよな。残念ながら転生……いや、もっと正確に言えばコピーだよ。こちらの世界にコピーされて生まれてきたんだよ。まぁ、自分には元の世界の君らが死んでいるのか、生きているのかは分からないけど、そういうことだよ」

「嘘だ」

「ええ、うん。信じられない」

 俺は少女二人の言葉に肩を竦める。


「別に信じなくてもいいよ」

 まぁ、この辺は俺の推測も混じっているから、違っている可能性はあるしね。まぁ、ほぼ間違いないと思うけどさ。

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