371 うどんです
「えーっと、とりあえず食事にしよう」
俺は脇に抱えていた少年のような少女を椅子に座らせる。
「僕に何を食べさせるつもりだ」
少年のような少女がそんなことを言っている。すーぐ、そういうことを言う。
そして、元鎧姿の犬頭は当たり前のように椅子に座っていた。そういうところだぞ。
「えーっと、相手の力量も考えずになんでも噛みつくのはお勧めしないよ」
俺は大きなため息を吐く。異世界人の皆さんはなんで誰も彼も態度が大きいのか。
「僕は礼儀を払うべきだと思った相手にしかそうしないつもりですから」
少年のような少女は腕を組み、そっぽを向いている。
いやはや、まったく。
「そういうのは、そういう態度を取っても許されるようになってからにした方がいいよ」
実力も無いのに偉そうにするのは、ただ無礼なだけだよなぁ。
「僕の勝手だろう!」
少年のような少女がキレている。キレる若者だ。若者の特権だね。
「今日はうどんですよ。何処かの誰かが多く砂糖を使ったので、仕方なくうどんですよ」
猫人の料理人さんがうどんを運んでくる。貴重な砂糖を沢山消費するなんて、何処の誰だろうな! まったく嘆かわしいことだ。
少年のような少女が猫人の料理人さんがテーブルに並べているうどんを驚きの目で見ていた。
「まぁ、えーっと、とりあえず食事にしましょう」
箸を持ってちゅるちゅるとうどんを食べる。うん、うどんだな。
少年のような少女はじーっとうどんを見つめている。その器の上に置かれた箸を手に取り、それもじーっと眺めている。
「もしかして、魔王は転移者、いえ転生者ですか」
少年のような少女が俺を見る。
俺は肩を竦める。
「言いたいことは分かるけどね、これはそこの猫人の料理人さんの考案した料理ですよ」
猫人の料理人さんが軽くお辞儀する。
「王の考案した料理ですね。以前は違う名前で呼ばれていたのですが、今はこれがうどんですよ」
猫人の料理人さんの言葉を聞いて少年のような少女が俺の方を見る。あー、王様っていうのが俺だと思っているのか。
一応、誤解は解いておこう。
「えーっと、一応、言っておくと王様というのは自分のことじゃあないからね。その猫人の料理人さんの元居た世界での主だよ」
少年のような少女が今度は猫人の料理人さんを凝視する。慌ただしいことだ。
「元居た世界? それは!」
「料理人さんの王様は異界を渡る能力を持っているらしいからね」
「ええ。私は王に連れられてこの世界に来たのです。その王様は今、何処で何をしているやら……」
猫人の料理人さんが大きなため息を吐いている。
ホント、こんな美味しい料理を作る料理人さんを放置して何をしているやら。俺も会って色々と話をしたいんだけどな。
「会わせてください!」
少年のような少女が必死な様子でそんなことを叫ぶ。
話を聞いていなかったのだろうか。
だからね、何処に居るか分からないから俺でも会えないんだって。それに、なんで、この少女の要望を無条件で叶えないといけないのか。ホント、反射で生きているというか、何も考えていないよなぁ。
「えーっと、何処に居るか分からないって言ったと思うけど、言葉が理解出来ないのかな? まぁ、とりあえずご飯にしよう」
俺はうどんを食べる。ずずーっと、ちゅるちゅるとな。
少年のような少女は箸を持ったまま固まっている。
食べないのか。
「敵からの施しは受けないよ。毒でも入っているかもしれないからね」
少年のような少女はそんなことを言っている。
なんだかなぁ。
この少女を毒殺するメリットってなんだ? 殺すだけなら簡単なのに、それをあえて回りくどくする理由ってなんだ?
「食べたくないならいいよ。後で自分が食べるから。食べ物を無駄にしてもしょうがないからね」
作ってくれた猫人の料理人さんに失礼だろうが。
ホント、どういう教育を受けたんだよ。
「あ、要らないなら私が食べたいです」
何故か元鎧姿の犬頭が手を上げ、そんなことを言っている。もう食べ終わっているみたいだ。いや、ほんと、図々しいというか、犬頭の皆さんって図太いよなぁ。何がとは言わないけどさ。プライドが高い感じなのに図太いとか最強だよな。
「いや、そうは言ってない、です……」
少年のような少女が箸を取り、恐る恐るという感じでうどんをすする。
そして、ぱぁっと顔を輝かせ、勢いよくうどんを食べ始める。きっと、ろくでもないものしか食べさせて貰っていなかったのだろう。
あの都市の食堂、ろくでもなかったからなぁ。
「ゆめみさん!」
と、そこに例のもう一人の少女がやって来る。一緒に居るのは機人の女王だ。どうやら治療が終わったらしい。こう、魔法的な力でどうにかしたのかな。俺は回復魔法みたいなのは使えないからなぁ。この体、回復力は強いけど、今まで腕を無くすとか、そういう部位欠損的なことは起きなかったから、そうなった時が怖いんだよな。魔人族とか上位種族は再生出来るみたいだけど、俺もそこまで出来るか分からないしなぁ。
「ゆか、無事だったんだね」
うどんをすすっていた少年のような少女が顔を上げる。
「え? うどん? ご飯? 私が死にそうだったのに?」
もう一人の少女が信じられないものをみたって感じでそんなことを言っている。
いやいや、あの程度の傷で死なないだろ。気絶していたこともそうだけど、耐性が無さ過ぎじゃあないだろうか。
はぁ、先が思いやられるなぁ。
「彼女にもうどんをお願いするよ」
俺は猫人の料理人さんにお願いする。
とりあえず食事が終わったら会話だな。
色々と聞き出さないと駄目なことが多そうだ。
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