369 転移系遺産
さて、と。
このもう一人の少女が持っている細長い棒が本当に神器? ――人種の遺産なのかどうか俺には分からない。ブラフの可能性もあるんだよなぁ。
……。
困った時の魔力判定ー。と、いつもなら魔力を見て判断するんだけどなぁ。今回に限って言えば俺の魔力を見る目もそこまで万能じゃあない。神器とか言われる位なんだから、そこに蓄えている魔力も多いと思いたいんだけど、そうとは限らないのだろう。この少女が持っている長い棒からは魔力が感じられない。だから、イコール偽物かというと、そうとも言い切れないんだよな。あの迷宮で出会ったテイマーの少年が持っていた鍵のような遺産は、そこまで魔力を秘めていなかった。これも同じようなタイプなのかもしれない。
あー、でも、あの時は神器ではなく、魔導具って言っていたよな? 違うものなのか? 人種の遺産にもランクがあるのか? それとも異世界人で魔導具とか神器とか好き勝手に呼んでいるのか?
分からないなぁ。
まぁ、分からないから、こっそり情報を得ようと潜入していたワケなんだけどさ。まさか、こんな風な展開になるとは思わなかったからなぁ。
まぁ、アレだ。何かあったら時を戻せばいいやと簡単に考えていたからな。保険があると人間って油断するもんだよなぁ。
うーん、で、どうなんだ?
この少女のブラフか? こんな普通の感じの少女が、こんな命のやり取りをする場面でとっさに嘘を吐くことが出来るか?
……。
いや、出来るかもしれないなぁ。
だって、今の俺は小さな獣耳の少女の姿をしているワケだしさ。
舐められている可能性はある。
嘘かどうかは分からないが、少し俺の力を思い知って貰った方が良いかもしれない。
全身に魔力を巡らせる。俺の体が銀色に輝く。
俺は瞳に魔力を纏わせ、睨み付けるように威圧する。
「ひっ」
二人の少女が小さく悲鳴を上げ、手に持っていた人種の遺産らしきものを落とす。少女たちがガクガクと震えている。
「神器とやらが落ちたみたいだけど?」
「え? えぐっ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい」
少女が二人で怯えるように寄り添い合い、土下座しそうな勢いで謝っている。
うーん、この反応、もしかしなくても偽物だったか。
ホント、舐められているなぁ。
少し、お仕置きが必要だろうか。
――[サモンヴァイン]――
少女の足に草を生やす。
「痛い! あ、足に草が、えぐ、えぐ、痛いよぅ」
「い、今、引き抜くよ」
少年のような少女がもう一人の少女の足に生えた草を引き抜こうとする。
「痛い、痛い、痛い! ま、まっで、血が……」
「な、根が肉の中まで、酷い!」
少年のような少女が俺の方を見る。
「なんで、こんな酷いことを!」
怒りの目で俺を見ている。さっきまで怯えていたのに、切り替えの早いことだ。
俺はため息が出そうになる。
「酷いって、本気で言っているのか?」
俺は随分と譲歩したはずなんだけどなぁ。なのに嘘を吐いてくるとかさ、罰を受けても仕方ないんじゃあないか。まさか、リスクが何もないと思ったのか。
……平和ボケしているよなぁ。
俺だからこの程度で済んでいるのに、それすらも分からないんだろうな。
……。
まぁ、アレだ。色々と面倒になってきた。それにこれ以上、ここで色々やっていると人がやって来かねない。
仕方ない。
――[リターン]――
少女たちの足元に輪っかを作る。とりあえず俺の名も無き帝国にご招待しよう。情報を得たりとかはそれからだ。
少年のような少女は俺の行動を読んでいたかのように動く。何処からか眼鏡のようなものを取りだし、それを身につける。次の瞬間、少年のような少女の姿が消えていた。
もう一人の少女だけが輪っかの中に落ちる。
避けた?
何かの勘でも働いたのか? あの少女のスキルか、厄介な。
俺は周囲の気配を探る。少年のような少女の気配はすぐに見つかった。もう一人の少女はとりあえず神域に確保したけど、厄介なのはこっちの少女の方だからな。
俺は少年のような少女を追う。
「え、もう気付かれた?」
俺が少女を捕まえようと手を伸ばした瞬間、その少女の姿が消えた。
また別の場所に気配が……一瞬で別の場所に?
もしかして、さっき取りだした眼鏡が人種の遺産か。任意の場所にテレポートする遺産か? いや、任意だろうか? 移動先がそこまで離れていない。遠距離のテレポートは出来ないのか? 逃げるなら遠くに逃げるべきだろうしな。眼鏡型なことを考えると見えている場所に移動する能力なのかもしれない。
だが、それでも充分厄介だな。
勘が鋭くて、こちらの行動を読む上にテレポート移動? 逃げるだけならこれほど厄介なものもない。
だけどまぁ、もう一人の少女を見捨てて自分だけ逃げているのはどうかと思う。
さて、と。
この少女をこのまま取り逃がして、賢者や他の異世界人に俺のことを知られてしまうのは不味いな。一発アウトって感じの不味さだ。そうなると、もう時を戻すしか無くなってしまう。
――[ビジョン]――
俺は未来を予測する。残像が流れるように、少女の動きを、未来を予測していく。俺はその未来を見て、動く。
残像の少女が突然消え、別の場所に現れている。現れているのは少女が顔を向けた方向だな。
やはり、見ている場所へのテレポート能力か。そういう能力の人種の遺産なのだろう。
だが、もう見えている。
未来を予測している。
「え?」
俺は少女がテレポートした先で待ち構え、捕まえる。
「はな、せ!」
――[リターン]――
俺はすぐに輪っかを開き、そのまま神域へと連れ込む。
はい、捕獲完了っと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます