368 厄介な能力

 さてさて、と。


 俺は気配を消して異世界の少女たち二人へと近づく。


 よしよし、こちらに気付いていないようだ。


「ね、ねぇ、あれ、あれ!」

「だ、大丈夫だよ。僕の想定内だ」

 少年のような少女は全然大丈夫では無い感じで目が泳いでいた。ま、まぁ、崩れた塔が散らばって被害を出すなんて想像出来ないからなぁ。想定していなかったんだろう。


 ……出来ないか?


 出来るだろ。普通に予想出来るだろ。ビルとかの解体現場でもさ、散らばるとかそうならないようにプロが計算して行っているワケだしさ。


 なんというか俺が言うのもアレだけどさ、想像力が欠如しているよなぁ。


 さて、と。


 このまま姿を現すのは問題があるよな。まだ気付かれていないようだし、こう……当て身みたいな感じで気絶して貰って人種の遺産を破壊しますか。まぁ、持ち歩いてなかったら意味が無いけど、さすがにそれは無いよな?


「誰だ!」

 と、そこで少年のような少女が叫ぶ。


 気付かれた?


 いや、違うよな?


 こっちを見ていないしさ。当てずっぽうで言っているよな?


「ね、ねぇ、突然どうしたの? え、そういう病気……」

「違うから! こっちに来てからそういうのが分かるようになったんだよ。間違いないく僕たちを監視している存在が居る! そこだ!」

 少年のような少女が見当違いの方向を指差す。


 ……。


 うーん。


 だが、俺の存在がバレているのは間違いないようだ。この少女が手に入れたスキルだろうか。


 はぁ、仕方ないな。


 さっきは当て身とか考えたけどさ、そんなこと普通に出来ないし、今の俺の力で叩いたりしたら普通に殺してしまいそうだし、この少女が持っている気配を察知する能力は厄介だし……ここでどうにかしないと駄目か。


 出ていこう。


「こっちだ」

 俺は彼女たちにも分かる言葉で話しかけ、姿を見せる。


「え? 女の子?」

 あー、うん、今の俺は女の子みたいな姿だよな。でも、君らだって女の子だろうが。


「どうしたの? 迷子? この子、しいなさんが言っていた獣人の少女じゃない?」

 しいなって、あの元気すぎる厄介な少女か。で、まぁ、俺は獣耳は付いているけど別に獣人の少女じゃあないんだけどな。

「待って、この子、少しおかしい」

「え? でも、普通の小さな子だよ? ねぇ、迷子になったの? あー、私たちの言葉が分からないよね。困ったなぁ」

 おかしいって言われるとは思わなかったな。


 はぁ。


 こうやって姿を見せてしまった以上、この少女たちには消えて貰うしかないよなぁ。まだ俺のことを賢者たちに気付かれるワケにはいかないしさ。


「まずは大きな声を出さないで欲しい」

 とりあえず忠告する。この二人が隠れていた場所だけあって、周囲には誰も居ないけどさ。それでも誰かに駆けつけてこられた困るからな。

「え? 言葉が……」

「待って」

 少年のような少女がもう一人の少女を庇うように、前に出る。


 俺は指を二本だけ立てる。

「君たちには二つの選択肢がある」

「え、え? え? どういうこと?」

 もう一人の少女は盾のように立っている少年のような少女と俺を交互に見ている。


「何者だい?」

 少年のような少女はキッとした顔で俺を睨んでいる。

「えーっと、そうだな。うん、君たちに分かり易く言うと魔王って感じだよ」

「え? 魔王?」

「こちらの言葉を理解しているのも魔王の力ってワケ?」

 いや、違うけど。


「話を戻しても良いかな? まだ自分のことを知られるワケには行かないんだよ。だから、選んで欲しい。人種の遺産をこちらに渡して、ここから消えるか、それとも死ぬか」

 うーん、あまり人を殺したくないから、戦いを選んでは欲しくないなぁ。こんな姿だからさ、こちらを甘く見て戦闘を選ぶとか止めて欲しい。戦闘になるとどうしても大きい音が出るだろうし、瞬殺するとなると、ちょっと酷いことになるだろうからなぁ。


 少年のような少女が庇っている少女を見て、そのまま背後を確認している。

「えーっと、逃げようと思っても無駄だよ。逃がさないからね」

「魔王からは逃げられないってこと?」

 俺は肩を竦める。


「ね、ねぇ、本当なのかな? この小さな獣人の少女が魔王? この子を倒したら私たちは元の世界に帰れるの?」

「僕は元の世界に帰れるという話は眉唾だと思っているけど、この子が魔王というのは本当みたいだよ」

 少年のような少女は確信を持って喋っている。これも何かのスキルか?


 うーん。


「で、どうするんだい?」

「僕は敵対するつもりは無い。誰にも言わないから見逃してくれないか?」

 少年のような少女は油断ならない目でこちらを見ながらそんなことを言っている。


 俺は首を横に振る。


「それは信じられないから駄目だ」

「消えるか死ぬかってどっちも同じにしか聞こえない」

 少年のような少女はキッとした目で俺を睨んでいる。


 あー、言い方が悪かったのか。


「素直に従うなら命は保証するよ。人種の遺産を持っているよね?」

「人種の遺産ってもしかして神器のこと? これ?」

 もう一人の少女が細長い棒のようなものを取り出す。


 神器?


 そういう名前で呼んでいるのか。にしても、見た目だけだと効果が分からないなぁ。

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