367 塔の大崩壊
さて、犯人が分かったワケだが、どうしような。
騎士団の塔を爆破したのは人種の遺産なのか、それともスキルだろうか。
うーん、なんとなくだけど、どちらでもないような気がするな。
人種の遺産だとしたら、あまりにも効果がショボすぎる。この程度なら恐れる必要がないからなぁ。
スキルだとしたら……うーん、ちょっとそれも違う気がする。あのキラキラ鎧の少年が言葉で人を従わせていたのは魔力が動いていたし、スキルなんだろうけど、これは少し違うよな。だって、魔力を感じなかったしさ。
となると、なんだ?
……。
「でも、どうやってやったの?」
「科学の力だよ。習っただろ? みんなは力を手に入れてチートだ、なんだと喜んでいるみたいだけど、僕はそんな信じられないものを頼るつもりはないからね」
少年……いや、少女たちか。少年のような格好をした少女が眼鏡をクイッと持ち上げるような仕草をする。だが、そこに何も無いことに気付いたのか、少年のような少女は舌打ちしていた。
誰も聞いていないと思ったのか、あっさりと答えてくれたな。
にしても科学の力ねぇ。まぁ、安易にスキルや人種の遺産に頼らないのは好感触だけどさ。でもなぁ……。
また新しい爆発が起き、騎士団の塔が倒れていく。おいおい、大事だぞ。
塔が近くの建物を崩しながら倒れている。
……。
おいおいおい。
確かに塔の中には誰も居なかっただろうけど、近くの建物はどうなんだ?
俺は手近なところにあった布を取り、顔に巻き付ける。これで、少しは正体を隠せるだろう。
魔力を全身に巡らせ、動く。
塔の下敷きになった建物に誰も居ないか探る。音は……、
「――だ、……か」
聞こえる。
人の持っている魔力も見える。二人……いや、三人か。
塔の下敷きになった建物まで近寄る。
……邪魔だな。
全力で殴る。
ぼこーんっとな。もともと怪力だったしな、これくらいは軽い軽い。って、少し殴った拳が痛いけどさ。これなら何か武器を使えば良かったか。
「まだ爆発するようだぞ! まだ近寄るな! 危険だ」
俺の一撃を塔の爆発だと思ったようだ。騎士団は動かない。救助活動をしなくてもいいのかよ。
……って、それは騎士団の仕事じゃあないのか。
俺は建物を粉砕し、崩壊に巻き込まれた人のところへ向かう。
女の子? そこには気絶している狐の獣人のような少女がいた。まずは一人か。その子を助け出し、次に向かう。
もう一人は熊のような女性だった。そして、その女性はその身を盾にしてお腹に抱えるように小さな幼子を庇っていた。小さい魔力はこの子か。
その二人も助け出す。
後は……居ないな。
ふう、これで終わりだな。狐少女も熊の女性も、二人とも気絶している。幼子だけが目を開け、大きく泣け叫んでいる。
俺はその子に静かにするように口元に指を当てると、少しだけ泣き止み、不思議そうな顔で俺を見ていた。
「だぁれ?」
「静かに。もう大丈夫だから」
塔の崩壊は完全に終わったか?
まぁ、これで他の人たちも助けに来るだろう。
にしても、この大陸の人々と敵対している俺がなんで人助けをしているかなぁ。
異世界人の連中は、なんというか、考え無しというか、後先を考えていないというか……まぁ、普通に幼いんだろうな。
……だけどさ、それを言い訳にしたら駄目だよなぁ。
はぁ、毎回、毎回、出会うたびに同じことを思ってしまうとかさ、まともな異世界人は居ないのかよ。
まぁ、俺も一応、異世界人だからあまり偉そうなことは言えないけどさ。まぁ、俺もまともじゃあなくなってるから、同じか。
まともなのって名も無き帝国で頑張ってくれている猫人の料理人さんくらいか?
……。
俺はすぐにその場を離れる。今回の事件を行った少女たちの人種の遺産は分からなかったが、まぁ、なんとなく危険はなさそうな気がするな。といっても、遺産をそのままにするつもりはないけどさ。
うーん、人種の遺産を調べに来たのに、殆ど成果がないなぁ。もう少し自分から行動しないと駄目なんだろうか。
……まぁ、まずは目の前の問題から片付けていくか。
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