366 恨みと天罰
「後は任せた」
「へ、へい」
間抜けな顔で煙の立ち上る騎士団の塔を眺めていたガウスに声を掛け、後を任せ、俺は撤退する騎士団を追いかける。
隠れて見つからないように、っと。
出来れば撤退している騎士団よりも先に塔に辿り着きたいが、姿を隠しながらだと……うーん、それは少し無理そうだな。見つかっても良いから全力全開で、ということなら先回り出来そうだけどさ。
それはそれで後が大変なことになりそうだしなぁ。
まぁ、仕方ないか。
騎士団と適当に距離を取り、見つからないようにして塔を目指す。
……。
走る。
そして、騎士団の塔の近くへ。
これは……。
近くまで来ると騎士団の塔から、もうもうと煙が吹き出ているのがよーく分かるな。
……。
火は出ていないようだ。火事ではないってことだよな? んー、これ、余計不味い気がするな。
と、そこで次の爆発が起こる。
塔の下部が爆発し、塔を揺らす。
おいおい、これ、後、何回か爆発したら塔が崩れるぞ。危険過ぎる。どういうことだよ。何が起こっているんだよ。騎士団や領主に反抗するテロでも起きているのか?
「全軍、止まれ!」
慌てて騎士団長が叫ぶ。
「これ以上は危険だ。皆、離れろ」
熊のような副団長も離れろと騎士たちに命令している。
騎士たちが距離を取り、呆然とした様子で塔を見ている。そんな中、一人の男が塔の方へと駆け出し、周りの騎士に止められていた。
「おい、危険だ。崩落に巻き込まれるぞ」
「離せ、離してくれ。あの塔の中に、あいつが居るかもしれないんだ!」
「あいつ? ああ、アレか。もう、無理だって。それにアレは忌み子だろ?」
塔へと駆け出そうとしていたのは俺の担当になっていた犬頭だった。確か、マーク君だったかな。
「確かにあいつは忌み子かもしれない。だけど、あいつだって好きで忌み子に生まれたワケじゃない。嫌われて、良いこともなく、そのまま死ぬなんて……そんなのあんまりだろ!」
犬頭を抑えていた騎士の一人が首を横に振る。
「そうとも限らないだろ。このまま生きてても忌み子として苦労するだけだ。それなら、いっそここで苦しむ前に……その方があの忌み子のためかもしれないぞ」
「死んだら終わりだろ!」
「その方が忌み子のためだって言っているんだ」
「それでもだ」
犬頭が騎士を振り払う。
そして、塔へと駆け出そうとするが、その犬頭のマーク君の前に熊のような副団長が立ち塞がる。
「マーク、戻りなさい」
「副団長、行かせてください!」
熊のような副団長が首を横に振る。
「悪いが、お前たち騎士の方が大切だ」
「あいつだっていずれ騎士になる、騎士団の仲間です」
マーク君のそんな言葉を聞いても熊のような副団長は立ち塞がったままだ。
「お前とあの子では価値が違う。命は平等では無い。もし、お前を失ったら、その損失を補填するのに、お前と同じレベルになるまで新入りの騎士を育てるのに、それにどれだけの年月がかかると思っている」
犬頭のマーク君の足が止まる。そのまま崩れ落ち、地面を何度も叩く。
「くそ、くそ、くそ。どうして、こんなことに!」
マーク君……。
あー、うん。
これ、俺のことだよな。
後でしれっと顔を出そうかと思っていたけど、これ、凄い顔を出しにくくなったなぁ。うん、このまま逃げだそうか。
……。
そういうワケにもいかないか。
にしても、なんで急に塔が爆発しているんだ?
って、ん?
俺は目を閉じ、周囲の魔力を探る。
誰か、隠れている?
隠れて、こちらの様子を窺っている感じだな。俺には気付いていないようだが、騎士たちを見張っている感じだな。
俺は隠れ、その気配に近寄る。
「……を泣かせた罰だ」
「でも、良かったの?」
「いいんだよ。あいつはさ、ここの騎士団のためを思ってクッキーを焼いて持っていったのに、あの仕打ちだ。酷いだろ。人の親切に対して、仇で返すような連中だ。イイザマだよ」
「でも……」
「安心しろよ。あの塔に人が残っていないのは分かっているからさ。全員が出払ったのを見ただろ? 人は死んでない。天罰で建物を壊しただけだって」
……。
うん、これは、アレだな。
異世界人かぁ。
まぁた、異世界人だよ。
俺的にはタイミングが良くて助かったけどさ。いや、まぁ、騎士団が出払うのを待っていたんだろうから、これは必然なのかもしれないけどさ。
……。
これ、騎士団は災難だよなぁ。
異世界人に関わるとろくなコトがないですよって証明だな。
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