365 交渉は決裂
相変わらずというか湖側に人員は配置されていないようだが、そこから逃げ出せという意思表示なのか、船を用意するのが面倒だったのか、微妙なところだな。そこ以外は完全に包囲されているからなぁ。
「と、とりあえず行ってきやす」
ガウスがこちらを取り囲んで威圧している騎士たちの方へと歩いて行く。
さて、俺はどうするべきだろう。
俺が出ていて騎士団を蹴散らす……というのは無しだろうな。一緒に暮らしてみて騎士団の実力は把握しているから分かるけど、まぁ、余裕で蹴散らせるだろうな。でも、そうすると俺の存在を賢者たちに知らせることになるだろうし、そうなると異世界人にも俺のことがバレるだろうからなぁ。せっかく隠れて潜入したのに、全て無駄になってしまう。
台無しだ。
逃げる……というのも論外だろう。それなら、賢者たちに色々と工作をせず、すぐに逃げていたワケだしさ。俺の努力が無駄になってしまう。
タイムの魔法で過去に戻るのもなぁ。それなりに情報は得られたけど、まだまだ足りないし、ここでタイムの魔法を切るのは勿体ない。タイムの魔法の消費が軽くて簡単に使用出来るならそれも有りだったんだけどさ。
となると、賢者たちがやって来るまで時間稼ぎ、ここの防衛って感じか。
うーん。
ただなぁ、守るとなると難しいんだよなぁ。下手に騎士団を傷つけてしまうと賢者たちが来ても騎士団たちが収まらない可能性も出てくるし、俺の覚えているスキルや魔法的に、ここを守ることに使えそうなのがないんだよな。
槍の技でどうする? 草を生やしてどうする? 水を生み出してどうする? それくらいだもんなぁ。後は時魔法だけど、少し先の未来を見たり、時を止めてみたり、神域に移動してみたり……防衛に活用出来る気がしない。
……後はゴーレムを召喚するくらいか?
いやいや、ここにゴーレムを召喚してどうするんだよ。
困ったな。
「お、おい、聞いてくれ。砂糖の件は誤解だ。砂糖を作る方法を教えて貰って、それをここで育てている植物で試しただけだ。それが成功しただけなんだ。誤解だったんだ。手を引いてくれ」
虎男のガウスが必死に騎士団を説得しようとしている。優男な騎士団長はそれを冷たい目で見ていた。
「それがどうかしましたか? 話し合いでどうにかなると思っているのですか?」
騎士団長の言葉は冷たい。だが、それでもガウスを無視せず答えてあげているだけ、まだ優しいのかもしれない。
「さ、砂糖だぞ。俺たちの価値を認めてくれてもいいじゃねえか」
「そうですね。ですが、それとあなたたちが領主様の土地を不当に占拠していることに何の関係がありますか?」
そりゃあ、そうなるよな。騎士団は領主の配下だし、領主からしたらガウスたちはなんとか排除したいだろうし……。
「今までは目を閉じてくれていたじゃないか! それをなんで今更!」
騎士団長は首を横に振る。
「見過ごされていたのはあなたたちがどうでも良い存在だったからです」
「それなら!」
「今は違います」
騎士団長が腰に差した剣に手を伸ばす。これ、砂糖の製法があること自体も問題になってないか? 貴重だからこそ、価値があるワケだしさ。
不味いな。
止められないか。
時間を稼ぐのも限界って感じだな。
あー、うん、結局さ、これ全部、ネズミ長老が悪いよな? あいつが上手くやっていればこんな風にこじれなかったよな?
ホント、ろくなコトをしないヤツだったよなぁ。
んで、だ。
どうする? どうすれば?
あー、駄目だ。
どうすれば良いか良い案が浮かばないぞ。
もう、俺が蹴散らすしかないのか。それは最後の手段だけど、それしかないのか。
騎士団長が剣を抜き、それをスラム街へと向ける。
「制あ……」
そして、号令を掛けようとした時だった。
都市の――騎士団の塔がある辺りで大きな爆発が起こる。
ん?
俺、まだ何もしていないぞ?
「今の爆発は!」
騎士団長が叫ぶ。
「何者かが襲撃を?」
熊のような副官が爆発を見てそんなことを言っている。それを聞いた騎士団長がガウスの方を見る。
「ち、違う。俺たちじゃない」
ガウスは慌てて首を横に振っている。そりゃまぁ、疑われて当然か。
「あんたらが包囲しているのに抜け出して、そんなことが出来る訳ないだろ」
「……そうですね。くっ、戻ります。この件、終わったと思わないことですよ」
騎士団が撤退していく。
そりゃあ、自分とこの塔が爆発しているんだもんな、急いで戻らないと駄目だよなぁ。後は片を付けるだけ、それもいつでも出来ると思っているスラム街の件なんて後回しになるよな。
いやぁ、助かった、助かった。
にしても、なんで爆発したんだろう?
凄くタイミングが良かったけどさ。
これは俺もちょっと見に行った方が良さそうだ。
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